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突風

「ーお久しぶりですね。アイーシャさん、アインさん」

「…っ!?オリバーさん……」 

「…どうして……?」

『お借りしている』ルームのドアが開き、とりあえず俺は再会の挨拶をした。しかし、2人は当然驚愕した。

「簡単な事です。先程貴女達を送迎してくれた女性…ウェンディ少尉の所属する第1分隊は、私が直接動かせるチームなんですから」

「……マジで?」

「はい」

「…ちょっと会わない間に、また随分な『戦力』を得たんですね……」

「…まあ、それだけの『事情』があるという事ですよ。

 ーまさか、『発足直後』に事件が起きるとは思いませんでしたが」

「…っ!」

「…そういえば、もう経緯は知っているんでしたね……」


「…はい。…そして、その上でお2人を『保護』させて頂きます。…理由はー」

「ー『お姉様』が、『敵の手中』に堕ちているかも知れないからですよね?」

「…そして、『秘密』が暴かれ2重の意味で『狙われる』からだよね?」

 こちらが言わずとも、2人は酷く沈んだ表情で理由を述べた。

「…その通りです。……ですが、理由はそれだけではありません」

「…え?」

「…どういう事?」

「…1つは、お2人が『寛げる場所』を提供する為です。…幸いな事に、『ドラコン』が手元に戻って来ているので『完璧なプライベートエリア』は直ぐに用意出来ます」

「…あ、通りで『早く来られた』訳ですね」

「…正直、助かる」


「そして、2つ目の理由は……。…そうですね。

 ー2人は、『どうしたい』ですか?」

「「……っ」」

 俺の『質問』の意図を察した2人は、顔色を変える。

「お2人も知るように、今俺の手中にはたくさんの『理不尽に抗う力』があります。…ですが、1人ではとても生かし切れません。

 だからこそ、『独立遊撃部隊』という『同行部隊』を設立して頂いた訳です。…それならば、あらゆる『理不尽』を迅速に処理する事が可能ですからね。

 けれど、まだまだ生かせないモノがあるんですよ。…例えば、ポターランの時に2人にお貸したスペシャルスーツとか」

「……っ」

「…私達も、『連れて行って』くれるの?」

 その瞬間、2人の瞳に決意の炎が宿った。


「…ええ。

 ーですが、前回以上の…そして何より間違いなく今後は『リスク』が伴います。…それでも、着いてくる覚悟はありますか?」

「傭兵になると決めた時から…いや、祖母の夢を継いで『秘宝』を探すと決めた時から『リスク』は覚悟の上です」

「…それで、クルーガーのお姉様を助けられるなら易いモノだよ」

 その問いに、2人は迷いのない表情で即答した。

「分かりました。…では、『最後の理由』をお話ししましょう」

 俺はタブレットを取り出し、2人の前に置いた。…そこには『契約書』と書かれていた。

「…こ、これは……」

「…まさか。」

「お察しの通りです。

 ーもし良ければ、しばらくの間『カノープス』のクルーになってみませんか?」


「「………」」

「あ、勿論『お給料』は支払いますのでご安心を。…とりあえず、『基本給』としてはー」

 俺はタブレットを操作し、『そこ』を拡大した。

「…ふぇっ!?」

「…ワオ……」

『それ』を見た2人は、またも驚愕する。…?

「…っ!…いや、あの、別に不満とかではなくちょっと『見慣れない』金額だったので……」

「…『太っ腹』過ぎない?」

「…そうですか?一応、『政府』に確認を取ったんですけど。…ああ、それと『危険手当て』は別途でー」

「ー…え?『抜き』でこの額ですか?」

「…『エージェント』ってこれ以上に儲かるんだ……」

「…まあ、治安維持が主な任務ですから正規軍の官僚並みなの確かですね」

「「…………」」


「…『どうしてここまで?』って顔ですね。

 ーポターランの時にも言いましたが、お2人は『家族のような存在』だからですよ。

 …まあ、本音を言えば船の中でじっとしていて欲しいですがそれだと『そんな関係』とは…『支え合う存在』とは言えませんからね。

 何より貴女達にとっても、『ただ護られるだけ』っていうのは『嫌』でしょうからね」

「…そこまで、考えてくれて……」

「…『支え合う関係』か……」

 2人はぽつりと呟いた後、互いの顔を見て強く頷いた。つまり、『そういう事』だろう。

「…その申し出、受けます」

「…しばらくの間、どうか宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします。…では、内容を読み終わりましたらサインをお願いしますー」

 ーそして、2人はじっくりと契約書を読んだ後に名前を記入した。


「ーさて、これで晴れて2人は『カノープス』のクルーになったので『装備』を渡しておきましょう」

 契約書を確認しそのまま『転送』した後、『チェンジャー』を取り出した。

「…これは?」

「…何のデバイス?」

「簡単に言えば、直ぐに『行動』を始める為のアイテムですー」

 俺はそう言いながら、『チェンジャー』を起動させる。

「ーっ!『クイックチェンジャー』……」

「…凄……」

 瞬時に服装が変わるのを見た2人は、方や瞳を輝かせ方や唖然とした。

「ちなみに、その2つの『中身』はこの間の装備と『変装用』の装備が入っています」

「相変わらず、準備が良いですね」

「…武装も、この間のやつなの?」

「基本はそうですが、状況によっては別のを使って貰う事になります。…あ、普段使っているのも使って頂いて大丈夫ですよ」


「…ありがとう」

「どういたしまして。…では、残りの『装備』は船にあるので移動しましょう」

「分かりました。…『キャプテン・ブライト』」

「…イエス・キャプテン」

 俺の言葉に、2人はきっちりと『切り替え』を示し速やかに立ち上がった。…流石傭兵だけあってしっかりしてるな。

 そんな事を考えながら、3人揃って部屋を出るのだったー。


 ◯


 ーSide『ルーザー』



「ー…すまないが、俺は…いや俺達は『降りさせて』貰う」

「………え?」

 相手から言われた言葉に、『香水を漂わせる』彼女は唖然とした。

「…今回の件で嫌って程思い知らされたよ。

 ー俺達は、『敵に回しちゃいけないヤツ』をキレさせたのだとな」

 そう言う彼の瞳からは、出会った当初のギラギラした欲望の炎は完全に消え今は恐怖の色が浮かんでいた。

「…そんな。…じゃあ、『秘宝』は諦めるんですか?」

「…『存るかどうか分からないモノ』より、『確実に存る命』の大事だからな」

「『臆病者』と言ってくれて結構だぜ?…実際、そうなんだからな」

 焦る彼女の問いに、彼の後ろにいる内の2人の男が観念したようにあるいは自棄になりながら言った。


「…そういう訳だ」

「…そんな。…ですが、そんな事『向こう』は知る由もないので『諦めない』と思いますが?」

「…そんな事は百も承知だ。

 …だから、我々は『対抗出来そうな人間』に助けて貰う事にする」

「…っ!例の『独立遊撃部隊』ですね。…しかし、果たして『可能』でしょうか?」

「…確かに、『名前だけの連中』ならば無理かも知れないだろう。

 …だが、俺達は『1つの予想』を立てている」

「……?」

「…おい、まさかとは思うが『腕章』を見ていないとかないよな?」

 疑問を浮かべる彼女に、別の誰かが呆れたように言った。

「…それがどうしたと言うんです?…あれは、ただの『識別用』でしょう?」

『………』

 すると、彼らは呆気に取られた。


「…はあ、俺達も人の事言えないがアンタは殊更に『酷い』な。

 ーありゃ、『識別』と『誰の指揮下』だって事を表してんだよ」

「…っ!………え?」

 一瞬頭に血が昇るが、直ぐに頭が冷えた。

「…『あんな派手な色』で想像出来るヤツなんて、この広い銀河に『1人』しかないだろうよ」

「……まさか、『プラトー三世』が来ていると言うのですか?」

「…でなければ、『こんなに早く』こっちに来れないだろうが。…はあ、やっぱり『手を切った』のは正解だったな。

 …じゃあな。…あ、一応言っておくが。

 ー『同じ所』に来たら『潰す』からそのつもりでな?」

『……』

 去り際に代表の男がドスを効かせた声で忠告すると、他の連中も睨み付けた。


「ーっ!?………クソがっ!」

 1人になった彼女は、乱暴に鞭を掴み手当たり次第に振るう。

「…クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォーーーッ!」

 声を撒き散らし、既にボロボロの船内を更に傷つけていく。

『………』

「ーっ!…なに、『その目』は?」

 すると、隅に固まっていた『取り巻き』達の『眼』に不快感を感じた彼女はその矛先を向け…ー。

「ー………がふっ!?」

 その瞬間、彼女は突如壁に叩き付けられた。…勿論、取り巻きがやった訳ではない。

『……っ』

「……がはっ!?……がっ!?……た、助け…ぐあっ!」

 取り巻き達は恐怖で動けなくなるが、どういう訳か彼女達に『矛先』が向かう事はなくただ彼女だけが、何度も叩き付けられた。

『………』

 すると、彼女達は我先に船から逃げ出し近くの警備員詰所に掛け込むのだったー。


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