ーふう。
親睦を深める為の食事会も終わり、隊員達を地上へと見送ったところで俺は一息ついた。そして、俺は再び食堂の隣の厨房に向かう。
「ーお疲れ様でございます。マスター」
「カノンもお疲れ様。…ってー」
中に入るとカノンが食器を片付けていたのだが、直後に驚く。
ーなんと、レンハイム少佐を始めとする『リーダー陣』が彼女と共に片付けをしていたのだ。…どういう状況だ?
「…あ、ちょっと待っててくれ。もう少しで終わるから」
「レンハイム隊長、こっちは終わりました」
俺が来た事に気付いたレンハイム少佐は、笑顔でそう言うと、自分の持ち分を終えたキャンベル少佐が彼の手伝いを始めた。
「…ありがとうございます」
「何、素晴らしいランチのささやかな返礼だ」
「…あ、『彼女』の事は我々リーダー陣しか知らないのでご安心を」
…なるほど。
そして、レンハイム少佐の言うようにそれから少しして片付けは終わり俺と彼らは入って来たドアの反対に位置するドアに入った。…すると、中央に白い円卓と柔らかい素材の椅子が複数置かれた部屋…『ブリーフィングルーム』に出た。
『……』
「皆様、誠に有難うございました。…さあ、どうぞお掛けになって下さい」
「…どういたしまして」
まだ慣れていないせいか、彼らはまたもや驚きながら座って行った。
「…ホント移動が楽ですね」
「…けど、こうも移動が楽だとトレーニングメニュー作りは難しそうですね……」
ハウ少佐の呟きに、黒髪の男性軍人…戦闘班班長補佐のヴォルス中尉が苦笑いを浮かべた。
「ああ、その心配は要りませんよ。
カノン」
「畏まりましたー」
俺は後ろに控える彼女を見る。すると、彼女はエアパネルを出現させる。直後、俺と彼らの前にエアウィンドウが展開した。
そして、彼女は『船の後方』を拡大する。
「ー『トレーニングエリア』…?」
それを見た褐色の肌に坊主頭の男性…戦闘班班長のキャメル大尉が、こちらに目線を向けた。
「はい。名前の通りトレーニングに特化したエリアになります。
中は大きく分けて3種類の『ルーム』に分かれています。
1つは、通常のトレーニング器具が設置された『ノーマルルーム』。
2つ目は、射撃訓練や白兵戦訓練に適した『アクティブルーム』。
そして、3つ目は『負荷環境』や『洋上・水中環境』等の環境を『可能な限り』再現した『スペシャルルーム』です」
『……』
「…ホント、他の分隊に申し訳なくなる程の至れり尽くせりな設備ですね……」
「…まあ、『その問題』もいずれ解決しないといけません。…その為には、『とあるスキル』を持った人を見つける必要がありますがー」
『ー…?』
そこで言葉を切ると、ウィンドウに別の映像が写った。
「…『イデーヴェス星系』。…通称『研鑽の銀河』と呼ばれる勉学に特化した星系ですね。
…もしかして、此処に?」
「その通りです、カーバイド大尉」
「…でも、基本的に『スクール』のスタッフか生徒しか居ないと思うのですが……」
「…確かに、普通なら最も縁遠い場所ですが『マダム・クルーガー』が『此処に居る』と仰ったのでね」
『……』
「…そういえばあの方は、『首都スクール』の卒業生でしたね」
「…それに、『必然』というべきか『1枚』は『此処』を指し示しました。…つまり、どっちにしろ此処に行く必要があるのですよ」
「…なるほど。…あ、でもー」
『……』
レンハイム少佐が表情を厳しくすると、途端に空気が重くなった。
「ーまあ、当然『連中』も真っ先に目指すでしょうね。…そして、下手をすれば『例の商社』も介入してくるでしょう」
「…ですよね。…その辺りの情報って、どうなってるか分かります?」
「…そうですね。…じゃあ、『紹介して下さった人』に聞いてみるとしましょうー」
キャンベル少佐の質問を受け、俺はカノンにアイコンタクトを送る。
「ー畏まりました。『スピカ号』にお繋ぎします」
『……っ!』
「…『スピカ号』。確か、マダム・クルーガーの船でしたね」
「…というか、『繋がる』んですね?」
「まあ、『向こう』も『縁するモノ』を持っている必要がありますが……?」
そんなやり取りをしている中、ふと『まだ繋がらない』事に疑問を感じる。
「…申し訳ありません。どうやら、スピカ号は忙しいようですね」
「…そうか。
…すみません」
「…いえ。…でしたら、早速調べてましょう」
「お願いします(…なんだろう。胸騒ぎがする)
では、今日はこれにて解散としましょう」
『了解』
胸騒ぎを覚えつつミーティングの終了を告げ、リそして全員で第2格納庫にむかうのだったー。
○
ーSide『フレンド』
ーその日の『ホワイトメル』の宙域は、少し前の『事件』の事後処理が終わりようやくいつもの静かさを取り戻し掛けていた。
「ーこちら、宙域巡視船『ヴァイスラル』。現在、星系外周を巡回中。今の所、異常はありません」
『管制室、了解。引き続き巡回を継続して下さい』
「ヴァイスラル、了解」
「お疲れ様。…っと」
通信を終えた通信兵に船長は労いの言葉を掛け、そしてモニターを見た。…その先には、使われなくなった『資源衛星』が映っていた。
「…あ。…いやはや、未だに信じられませんよ。
ーあの『資源衛星』の中に、『かの船』が隠されていたなんて」
そう。実は、『レスキューウィング』だけはこの資源衛星に偽装された『格納庫』の中で眠っていたのだ。
「…私もだ。…通りで、政府が『スルー』し続けていた訳だ。
まあ、そのおかげでこうして平穏な日々を取り戻せたのだがな」
「…ですねー」
「ーっ!資源衛星周辺に、ワープ反応っ!」
通信兵が相槌をしたその瞬間、船内にアラートが鳴り響き観測兵が報告した。
「…なんだと?」
「…妙ですね。確か、基本的に『出口』は首都惑星の近辺になる筈でしたよね?」
「…念のため、『本隊』に要請を」
「…っ!イエス・キャプテンッ!」
船長は直ぐに席に座り、指示を出した。そして、通信兵が連絡を取り始めた直後更なる『異常』が発生する。
「ーっ!?ワープ反応、複数確認っ!『大船団』規模ですっ!」
「…な……」
「…いつでも離脱出来るよう、準備を」
『イ、イエス・キャプテンっ!』
「…カウント、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、来ますっ!」
観測兵のカウント読みが終わると同時に、衛星
の周辺に『出口』が多数形成され直後に大量の船が出て来た。…しかしー。
「…なっ!?」
「い、一体、何が……」
クルー達は、大量の船を見て唖然とする。…何故なら、船は皆航行しているのがやっとなくらい酷く損傷していたのだ。
「ー救援行動を開始するっ!それと、直ちにレスキュー船の出動要請を出せっ!」
『イエス・キャプテンッ!』
ーその後、彼らとレスキュー船の迅速な救助活動によって船のクルー達はファストピタルのセントラル病院に搬送された。そのおかげか、クルー達は皆奇跡的に一命を取り留めた……のだが、どういう訳かそのほとんどが船の損傷と比べて明らかに『軽い怪我』であったのは、少し世間の注目を集める事になった。
○
『ー私達の事は心配入りません。…では、ごきげんよう』
『別れ際』の彼女は、いつものように穏やかにそして気高かった。…直後、『2人』の乗る船は周辺の船と共に『ワープ』をさせられた。
「ー……」
そして、それからおよそ数時間後。ランスター姉妹のアイーシャは、此処ホワイトメル首都のセントラル病院前にある公園のベンチに呆然としながら座っていた。
(…どうしてだろう。…何にもする気が起きないや……)
「…あ、姉さん」
すると、『いつもの姿』のアインが彼女の元に近づいて来て自然とその隣に座った。
「…大丈夫?」
「…そうですね。どういう訳か、恐怖はおろか安堵も湧いて来ません。勿論、『焦り』も…」
ふと、妹が彼女に訪ねると彼女はぼんやりと答える。
「…僕も、同じ。
…それで、『これから』どうするの?『キャプテン・アイーシャ』」
「……。…ホント、アナタはブレませんね……。
…ですが、それに『助けらて来た』のも事実です。…ありがとうイアン」
『クルー』の問いかけに、彼女はようやく顔を上げて礼を言う。
「…どういたしまして」
「…とりあえず、船が直るまでは『様子見』です。…そして万一、『有志を募集』した場合は出来る限りの事をしましょう」
「了解。…じゃあ、私はー」
「ーこんにちは。『ランスター』さん」
「「……」」
妹が行動しようとしたその時。ふと、背後から声を掛けられた。そして、2人が振り返るとそこにはかっちりした制服に『銀の腕章』を着けた女性が立っていた。
「…どちら様ですか?」
「…あ。確か、貴女はポターランの地上警備隊に居た女性軍人さん?」
姉は怪訝な表情をするが、妹は即座に気付いた。
「…え?」
「…そういえば、『送迎』の時にお見掛けしましたね。
ー初めまして。私は銀河連盟防衛軍独立遊撃部隊第1分隊所属の、ウェンディ=アルスター少尉であります」
「…え?」
聞き慣れない言葉に、再度姉はぽかんとする。
「…それって確か、ついこの間設立されたばかりの『テロ対策部隊』……」
「…流石は傭兵の方ですね。もうご存知でしたか」
「…という事は、事情聴取ですか?」
「いいえ。事情聴取は、既にれ…他の『被害者』達に行っています」
とりあえず気を取り直した姉の質問に、彼女は一瞬『不穏な気配』を出すが直ぐに言葉を差し替えて答えた。
「(…なんか、『親しみ』を持てる人ですね。)…では、どうして私達の所に?」
「それは、私に出された『オーダー』が『お2人』の警護だからです」
「「ーっ!」」
彼女は2人に接近し、周辺を警戒してから小声で答えた。当然、姉妹は驚く。
「…どうして、私達が?」
「…詳しい話は、『移動中』にお話ししましょう。とりあえず、まずは此処からの移動をお願いします」
「…分かりました」
「……」
彼女の言葉に姉妹はゆっくり頷き、そして近くにある『車』に乗り込むのだったー。