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流儀

ーその後、俺を含めたエージェント達は別室で結成の式典を見届けいよいよ『顔合わせ』の時となった。


「ー第1分隊総員、敬礼っ!」

 指定された部屋に入ると、金髪の男性軍人…俺と行動を共にする第1分隊の隊長であるレンハイム少佐が、総勢30名の隊員と共に敬礼した。

「こんにちは。…そして、初めまして第1分隊の皆さん。

 ー…私は、オリバー=ブライトと申します。どうぞ宜しくお願いします」

『……。…っ!宜しくお願いしますっ!』

 俺は直ぐに変装を解除し、挨拶をした。すると、彼らは一瞬戸惑うがハッとし挨拶を返してくれた。

「ー…さて、無事に顔合わせも済んだので一応このまま解散となりますが何か連絡事項等はありますでしょうか?」

 ーそして、改めて全員の名前と顔と『諸々』を確認した後隊長補佐を務めるピンクのショートヘアの女性軍人…ハウ少佐が確認して来た。

「…その前に1つ確認しておきたい事があるんですけど……」

『……っ』

「…なんでしょうか?」

 その質問に『不安』な感じの表情を織り込みながら応えると、室内に緊張が走る。

「…あ、『勘違い』させてしまったようですね。別に『任務』に関わる事じゃありません。

 ー…えっと、皆さんはこの後の『食事』はどうするんですか?」


『……?』

 俺の質問に、全員が呆気に取られた。…まあ、そうなるよな。

「…そうですね。大概は近くのお店で済ませると思います。……まあ、出来れば友好を深める為に皆で食事でもしようとは思っているのですが、今日は多分何処もいっぱいになるでしょうし……」

 困惑した空気になるなか、レンハイム少佐が代表して答えた。…どうやら、なかなか話の分かる人のようだ。

「それなら、『私の船』で食事をしませんか?」

『ーっ!?』

「…宜しいのですか?」


「ええ。…まあ、要するにそれが『連絡事項』になります。

 ー出来るだけ、食事は同じ時間に皆で食べたいのですよ」

『……』

「…『毎日一緒に食卓を囲めば、それはもう家族と同じである』。…これは、私の故郷『グリンピア』の風習です。

 これは、例え血の繋がりがなくても毎日一緒のテーブルで食事を食べればその人達は家族と呼べる存在だと言う事です。

 …まあ、ありきたりな地方の風習ですが『これ』のおかげで故郷の人達の団結力は凄まじく害獣駆除等のトラブルの際は一丸となって乗り越えます。

 …ですから、これから『更に大きなトラブル』を乗り越えていく為にも平時は勿論『騒動の事後処理』の際も一緒に食事をしたいと思っているのです。…どうでしょうか?」


『……』

「…素晴らしい考えだと思います。…正直、我々だけの『ルーチン』にするのは勿体ないほどです」

「…まあ、他の分隊にはその分隊なりの『ルール』がありますからいきなりは受け入れられないでしょうね」

「…つまりは、我々第1分隊が『前例』となれば良い訳だ。…そうなれば、自然と『当たり前』になるだろう。…だが、その為にはー」

 隊長と補佐の2人は、後ろに整列する隊員達を見た。…さて、果たして彼らは受け入れてくれるだろうか?

『……』


「ー発言しても宜しいでしょうか?」

 誰も口を開かずにいると、ウェンディ少尉が挙手をする。

「ああ」

「…ありがとうございます。

 ー私は、賛成です。…実は、私の所属していた部隊でも新入の時は必ず似たような『ルーチン』が取り入れられていました。

 …その『効果』は、単に任務効率が上がるだけでなく様々な素晴らしい『副産物』を自分や同僚達ち与えくれました。

 …それに、これからの任務の為にも『伝説の船』を『可能な限り』知っておく事は必要だと思います」

『……』

 …道理でセサアシス隊の人達の結束が強い訳だ。多分、言い出したのはカーリー従姉さんだろう。

 …しかし、まさか後で言おうとした『必要な事』を先に言われるとは思わなかった。…いや、ひょっとしたらー。


「…なるほど。一理あるな」

「…確かに、大切な事ですね。…さて、この意見を聞いた上で改めて皆の意見を聞きたいと思います。

 賛成の者は、挙手を」

 ハウ少佐の確認に、全員が速やかにそして自らの意志で手を挙げた。…ふう。良かった。

「…全員賛成ですので、この『ルーチン』を正式に採用したいと思います」

「…ありがとうございます。

 さて、そうと決まれば早速『迎え』を呼ぶとしましょう」

『……?』

「…あの、ひょっとして移動の足まで用意して下さるのですか?」

「…?だって、私が言い出した事ですから私が用意するのが当然でしょう?」

『……』

 当たり前な感じで言うと、第1分隊の皆さんはぽかんとした。

「(…何か変な事を言っただろうか?)…良し。それではお手数ですが地下の駐車場に移動をお願いします」

『……』

「…総員、直ちに移動を開始しろ」

『…っ!い、イエス、マイロードッ!』

 呆気にとられていた皆さんは、レンハイム少佐の指示でハッとし迅速に移動を開始するのだった。…しかし、再び第1分隊の皆さんは唖然とする事になる。何故ならー。


「ー紹介しましょう。

『EJ-07:トランスポートレッグ』の1つ、『ミドルレッグ』です」

 俺は、地下駐車場の一角に停車したシックな色の『中型バス』を披露した。

『……?』

 まあ、見た目は何処からどう見ても普通のバスだから当然彼らは首を傾げる。

「『ドアオープン』」

 俺は気にせずオーダーを出す。すると、昇降口のドアが開いた。

『……っ』

 そして、中を見た彼らは驚く。…何故なら、あるべき筈の『運転席』がなかったからだ。

 当然、運転手も居ないからこのバスは『フルオートパイロット』で此処まで来た事になる。

「…『データファイル』で見ましたが、本当に『無人』なのですね……」

「まあ、只でさえ『人』がいませんからね。…あ、ちなみに『こういう事』も出来ますよ。

 ー『フェイクシート』」

 オーダーを出すと、床から『運転席』が出現した。


『……』

「これなら、一般の方々を驚かせさせませんからね」

 今まさに驚愕する彼らに、俺は『運転席』に座りながらにっこりしながら言った。

「…では、そろそろ出発したいと思うので座席にお座り下さい」

『……』

 彼らはいまだに唖然としながら、シートに座って行った。

「ーそれでは、出発します。

『スタート』」

 そして、全員が座った事を確認し俺は『ミドルレッグ』を発車させた。


 ーそれから数分後。バスは、第2エレベーターステーションに到着し、駐車場…には行かずに『とある場所』の前に向う。

「ーこんにちは」

「…っ!こ、こんにちはっ!え、えと、『話し』は伺っておりますのでどうぞお進み下さい」

 俺は窓を開け、ゲート警備員にカードを見せる。すると、彼らは迅速に対応してくれてスムーズに『その中』に入った。…いやあ、ホント『準備』が無駄にならなくて良かった。

「…本当に、素晴らしい気配りですね」

 ほっとしていると、斜め後ろに座る深い緑の長い髪をポニーテールにした女性…『素顔』のキャンベル少佐が感心しながら話し掛けて来た。


「…まあ、いくら『政府・軍用』と言っても時間は掛かりますからね。…なら、いっそのこと『そのまま』行ってしまえば良いと思っただけです。

 …あ、勿論『この時間帯は使用しない』事は確認済みですのでご安心下さい」

『……』

「…ホント、至れり尽くせりですね。…これは、『予定の立案』を立てるのが大変になりそうですね……」

『ー貨物用エレベーター、間もなく起動します。ご注意下さい』

 隊員達は唖然とし、彼女は少し苦笑いをしているとアナウンスが流れた。

「…あはは。…まあ、『でしゃばる』つもりはないのでご安心を」

「ええ、是非そうして下さい。…でないと、『入った意味』がありませんから」

 …『入った意味』か。…平和を守る為なのは当然として、『何かを得よう』としているのだろうか?

『ー間もなく、第2宇宙港に到着します。到着直後の無重力状態にご注意下さい』

『…っ』

 そんな事を考えている内に、再度アナウンスが流れたので全員そそくさとシートベルトを装着した。


『ー………』

 それから更に時間は流れ、『ミドルレッグ』は『アドベンチャーカノープス』に到着した。…そして、『第2格納庫』に降り立った隊員達は再度唖然とする。…まあ、『聞くの』と『見るの』じゃ全然違うか。

「…ほ、ホントに此処は格納庫なのですか?」

「…どう見ても、『平原』にしか見えないのですが」

 そう。…彼らの目の前には『果てのない-平原-』が広がっていたのだ。

「(最初見た時は俺もこんなだったな…。)此処は、『リラクゼーションフロア』も兼ねているので。…ちなみにー」

 俺は足元の草に手を伸ばす。しかし、触れる事は叶わなかった。

「ーこのように、フロア全域は『ホログラム』が投影されています。…さ、ドアは『あちら』です」

『……』

 ぽかんとしていた彼らは、とりあえず俺について来てくれた。

 そして、景観を損ねないような偽装を施した小屋に入り中のドアに近付く。

『ーっ!』

 すると、その先には広い食堂がありテーブルの上には既に料理が並べられていたのだったー。

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