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後ろ盾

「-さて殿下?何か言う事は?」

「…っ!…心配を掛けてしまい、申し訳ありませんでした……」

 …うわ~、凄い光景だな~。

 俺の目の前では、皇族の証たる美しく煌めくプラチナの髪をなびかせる美女…『帝国の至宝』と呼ばれた第一皇女殿下が、凄まじいプレッシャーを纏ったお付きの騎士であるオーガス卿にビビりながら頭を下げるという、絶対に外部に見せてはいけない光景が繰り広げられていた。

「…全く、何故『こうなる』と分かっているのに毎度『抜け出す』のでしょうね?貴女には、『学習能力』というモノがないのですか?

 そもそも-」

「-…オーガス卿。…『今回』に関しては私にも責があるので、どうかお小言はその辺りで」

「……。…分かりました」

 流石に可哀想になってなってきたので、フォローを出す。すると、卿はプレッシャーを引っ込めた。

「……心より感謝致しますわ、プラトー様。……というか、どういう事なのですか?」

「(…まあ、仕方ないか。)…そうですね。

 -皇女殿下。恐れながら、これよりお話しする事は他言無用にして頂けますでしょうか?…それと、出来ればオーガス卿も」

「……。…分かりましたわ。

 ルランセルト帝国第一皇女、リーリエ=ラロア=バーンスタインは此処に誓約します」

「…私、騎士オリビア=オーガスも誓約致します」

「…感謝致します」

 お2人が礼式に則った誓約をしてくれたので、俺はゴーグルを外した。

「「-っ!?」」

「改めて、名乗らせて頂きます。

 私は、オリバー=ブライトと申します」


「…まさか、貴方がかの『プラトー』殿だったとは。…そうか、だからああも容易く殿下の居場所を」

 卿は驚きつつ、どこか納得した様子だった。一方-。

「-……『その男は、その真紅の髪に違わない熱く敢な心を持った人物だった』。…あ、あのひょっとしなくても貴方は『彼』の?」

 殿下は『一節』を口にした後、瞳に確信を宿して聞いて来た。

「はい」

「…やはり。………っ」

 すると、殿下は途端に赤面した。…どうやら、『素顔』が知られてしまった事が堪えたようだ。

「…はあ。私は常々申しておりましたよね?

『いつか恥をかくやも知れない』と。…まあ、今回の件は相当の『良薬』となったでしょうからどうか『今後』はお控え下さい」

「……はい」

 卿の言葉に、殿下は小さく頷いた。

「…あの、オーガス卿。先程も言いましたが、そもそも今回の件は私の未熟さゆえの配慮不足が招いた事です。…そのせいで殿下を『憤らせて』しまい、殿下は『あのよう』な行動を取ってしまったのでしょう」

「…っ!……確かに、今回はいつも時と違いかなり『踏み込んで』いましたね」

「……。…どうして、私が『怒って』いた事を……」

 すると、殿下は心底不思議そうに聞いてきた。

「…簡単ですよ。『相手の気持ち』になって考えたからです。

 もし同じような状況に遭遇したら、きっと私も未熟ゆえに騒動を起こしてしまうでしょう」

「…あ。

 …ならば、私も未熟者ですね。…だって、今ようやく『皆』の気持ちが分かったのですから。

 もしも、父様や母様やお兄様やオリビアや私の世話をしてくれるメイドの誰かが突如居なくなったら、間違いなく居ても立ってもいられなくなりますわ……。…なのに私は、そんな思いを度々皆に与えていたのですね……。

 今まで本当にごめんなさい、オリビア」

 殿下は改めて卿に謝罪した。

「…殿下」

「…そして、ブライト様。気付かせて頂き本当にありがとうございます」

「私からも、深く御礼を申し上げます。ブライト殿」


「…勿体なきお言葉。…それと殿下にオーガス卿。私に敬称は不要です」

「…では、せめてオリバーさんと呼ばせて下さい。…流石に、貴方を敬称無しで呼ぶのは気が引けるので」

「(…何か凄い好感を得てしまったな……。)『イエス・ユアハイネス』」

 俺は身に余る栄誉に震えながら、『御意のままに』という意味の言葉で応えた。

「ならば私は、『彼ら』に倣って同志オリバーと呼ばせて貰うとしよう。…しかし、『困った』たな」

「……っ!…ええ、とても重大な『問題』が発生しました」

「……はい?」

 殿下と卿が揃って『困った』という顔になってしまい、俺は困惑する。

「…はい?……っ!い、いや、『御礼』の言葉だけでも身に余る光栄ですので『それ以上』は分不相応です」

 瞬時にお2人が何を言いたいのか察した俺は、先んじて断りを入れた。

「…けれど、このまま『何も返さず』にいると私は『恩知らず』と呼ばれオリビアは『不義理者』の烙印を押されてしまいますわ……」

 …しまったーっ!『それ』があったかっ!

 やや悲哀の表情で殿下は『しきたり』を語る。…その瞬間、俺は劣勢に追い込まれた。

「(…いや、まだだっ!)…いや、ですから何度も申し上げているとおり私には責があります。…本来ならば、罰を受けてもおかしくない身です。ですから『御礼以上』を受け取る訳には参りまん。

 それに、私は『市井生まれのエージェント』です。…その『意味』と『後に何が起こる』か知らぬ筈はありませんよね?」

「……それは-」

「-ならば、『受け取れるよう』にしてしまえば良いのではないかな?」


 言い淀んだお2人を見て胸を撫で下ろし掛けた俺の耳に、『凄く聞いた事のある-お声-』が聞こえた。…嘘だろ?

 ゆっくりとドアの方を見ると、宰相閣下を後ろに従えた同じくプラチナの短髪の『貴公子』というべきオーラを放つ若い殿方…この帝国の第一皇子にして次期皇帝のヴァン=ラロア=バーンスタイン殿下がおられた。

「-ああ、そのままで構わないよ。…『今』は非公式だからね」

 直ぐに礼式の挨拶をする為立ち上がろうとすると、皇子殿下はにこやかな顔で止めてきた。

「…畏まりました。…あ、私は-」

「-宰相殿から聞いているよ。

『新進気鋭の最年少エージェント・プラトー』君…にして『今をときめく最年少トレジャーハンター・オリバー=ブライト』君だろう?」

「(…既に『事情』はご存知か。…いや、ひょっとしたら『自力』でお気付になられたのかな?)…その通りでございます」

「…っと。いやー、まさか愛しの妹のフォローに向かったら君に会えるとはね。会えて嬉しいよ」

 皇子と閣下はそのままこちらに向かって来て、皇子は対面に座る皇女の隣に。閣下は、卿と俺の座る方の左端に座った。…そして、皇子は俺に手を差し出してこられた。

「…こちらこそ、お会い出来て光栄です。殿下」

 俺は恐縮しながら、その手を握り返した。…しかし、何故閣下と一緒に?

「…まずは、リーリエを助ける手助けをしてくれてありがとう。陛下と母上、城務めの者達を代表して礼を言わせ貰おう」

「…勿体ないお言葉です」

「…さて、本来ならば『帝国流』のしきたりに従って然るべき『お礼』をしなければならないが、さき程君が懸念していたように『我々』が『直接的なお礼』をしてしまえば…非常に残念な事だが『悪目立ち』は避けられないだろう。

 …それに、君は既に宰相殿…すなわち帝国政府に身を置く人間だ。『我々』が『お礼』をしてしまえば『要らぬ混乱』を招く恐れがあるだろう」

 …あれ?……いや待て。開口一番の言葉を思い出せ……。


「…だからと言って、『お礼をしなくて良い』という訳でもない。…なぜなら、我々皇族や騎士は国民の模範とならなければいけないのだから。

 …だから、なるべく『君の迷惑』にならず尚且つ『君の役に立つ』モノを宰相殿と共に考えてみた」

 …なるほど。それで閣下がこの場に。

「宰相殿。説明をお願いする」

「『イエス・マイロード』。

 …さて、まずは『これ』を見て頂きましょう」

 すると、丁度皇子が閣下にバトンを渡された。そして、閣下はエアウィンドウを展開する。…これは-。

「-そうだ。…これは、そちらの同志ブライトが考案した新たな『枠組み』です。

 その名も、『プレシャス』同盟」

「「っ!」」

 …なるほど。あの『データノベル』の名前その物を。

「実は先程、銀河連盟の定例会にて『枠組み』の話題を出したですが大変好評でしてな。…なので、直ぐに採決をとりました所無事可決されました。

 そして、既に『メンバー』も『例の3人』が選定を始めていますので近い内に発足されるでしょう。…ですが、彼らの大半は『自由な身の上』です。『選ばれなかった者達』からすればとても不愉快でしょうね。

 …なので、『正統性』を主張し尚且つ分かり易い『旗』が必要になってきます」

 そこで、閣下は皇女殿下を見た。…『後ろ盾』になって頂くという事か。

「…そして、『旗』は美しく多い方がより『引き立つ』。…すなわち、皇女殿下を始めとした『国家元首』に近しい『うら若き乙女達』で『後援会』を設立し、『同盟』の支持者になって頂ければ『同盟』は大手を振って活動出来るでしょう」

「…という訳なんだか、どうかな?…ああ、ちなみにオーガス卿には『後援会』の警護役になって貰いたいかな?」

「っ!イエス・ユアハイネスッ!」

「私も是非参加させて頂きますわ」

「(…はあ。『見事な穴埋め』だ。)…私も、異論はありません」

 俺はなんとか踏ん張って、普通の様子で返答するのだった-。


 -これが、後の世に『数多の女性ファン』を生む事になる『メジャーデータノベル』の元となった『伝説の後援会』の発足の瞬間だとは、この時はまだ誰も予想すらしていなかった。


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