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帝国の至宝

「…はあ。…一応聞いておきますが、『見掛けた方』は?」

「…『いつもと同じく』、誰1人として」

 少佐も頭を抱えながら確認すると、卿は首を振った。…これ、『ヘビ』じゃねぇかな?

「…あ、申し訳ありません。…実は殿下は『毎度』誰にも見付かる事なく抜け出すのです。…一体、どのような『タネ』を使っておいでなのか……」

「…同志プラトー。…1つ思い浮かんだ事があるのですが……」

 すると、少佐も察したようだ。…はあ、一体誰が『渡したんだ』?

「…もしや、『タネ』にお心当たりがあるのですか?」

「…心当たりどころか、私の所有する『船』の1つに同じ『システム』がインストールされています」

 ついに俺も頭を抱えそうになりながら、なんとか冷静な表情で卿の質問に答えた。

「…なんと……」

「…やはりですか」

「…オーガス卿。1つお聞きしたいのですが、皇女殿下は『かの大ヒットアドベンチャーノベル』をご愛読しておられますでしょうか?」

「…え、ええ。…幼少の頃より幾度となく読み返されておられます」

「(…はいビンゴ~……。…となると-。)…でしたら、『目的地』は分かります」

「…っ!?ほ、本当ですかっ!?」

「…あ、『そういう事』ですか。…はあ、相変わらずの『良き耳』と『良き洞察力』ですね……」

 卿が驚くなか、少佐も俺と同じ予想を立てつつ深いため息を吐いた。…マジか。…つまり、皇城に戻るまでの間で俺を連中を見掛け誰かが呟いた『噂』を聞き『何処に行くか』を読んだって事だよな?

「…そ、それで、殿下は一体どちらに?」

「…それはですね-」

 俺は『経緯』を交えながら卿に説明した。

「-…なんと、そのような事が……。…なるほど、どうりで市街地が少し騒がしかった訳です。

 …しかし、まさかこの首都の地に『卑しい者達』が集まっていたとは。これは、直ぐに殿下をその者達から引き離さなければ。

 プラトー殿、少佐。…改めて、ご協力をお願いします」


「勿論ですとも」

「お任せ下さい」

「…ありがとうございます。…では、これより先はお二人をメインとし我々はフォローに回るとしましょう。

 …それで、お二人はどう動かれるおつもりですか?」

「…そうですね-」

 卿の質問に、俺は策を練り始める。…大事なのは、『目立たない』事だ。…幸いな事に皇女は『ヘビ』を持っているから『一番の難関』はクリアしているも同然。…ならば、次に考えるべきは『どう連れ出す』か。…『二つめの難関』はどう声をお掛けするかだ。当然皇女は『見抜かれると思って』はいないので、相当驚かれる筈だ。しかも、相手は見ず知らずの人間だから下手をするとパニックを起こされるかもしれない。そうなれば、騒ぎは避けらないだろう。

 一番悪い展開を予想し、そして今度は今ある情報から『打開策』を導いてみる。…となるとメンバーに『誘導』して貰えば……。後は-。

「-…どうやら、『ルート』は導き出せたようですね?」

 ニヤリと笑っていたのか、少佐は確認して来た

「…え、もうですか?」

「…ええ。『最も安全で最も目立たない』プランを思い付きました。…では、ご説明しましょう-」

 俺は2人に『作戦』を説明する。…すると、少佐は感心し卿はだんだん驚いていった。

「-…なるほど。確かにそれなら、殿下を『自然』に保護出来ますね」

「………。…これが『エージェント』の実力という訳ですか……。…前言を撤回しましょう。

 -今日、『この場』で会えて良かった」

「…私も、貴方の元で動けて光栄ですよ」

「…恐縮です」

 自分より素晴らしい実力と役職を持つ2人に称賛され、俺は面映ゆい気持ちになった。

「…それでは、プラトー殿の策で行くとしましょう。我々は、『準備』を整えておきます」

「お願いします-」

 そして、少佐と俺は『本部』を後にして待機していたメンバーと共にまずは『斡旋所』に向かった-。


 ◯


-Side『プリンセス』


『-以上を持ちまして、トライアルを終了します』

『…はあ、…はあ、…はあ-』

 進行役がそう宣言すると、『参加者』達のほとんどは場に座り込んだ。

(…やはり、『実力不足』ですね。…良くもまあ『参加』しようとしたものです)

 その様子を『直接』見ていた彼女…帝国の至宝たる皇女リーリエは、やや苛立ちながら内心で感想を述べた。…そして、彼女はなんとか立っている者達に目を向ける。

(…そして、残った者達も『卑しい者達』ばかり。…はあ、『彼』は一体どういうつもりで『あんな事』を?)

 そして、彼女の頭に浮かぶのは先日の『大会』で大活躍をした『彼』に対する不信感だ。

『…それでは、1人ずつ結果をお伝えしますので呼ばれた方は指定の番号のドアに向かって下さい。

 まずは-』

 そんな不満で一杯の彼女の心を知らない進行役は、次々と参加者を呼んだ。

(-っ。…とりあえず、先に車の所に行っていましょう)

 彼女は呼ばれた1人の背後に近付き、一緒に部屋を出ようとした。…しかし、ふと横から参加者の何人かが前を横切り慌てて足を止めた。

(…どうやら、ごく僅かですが『知的』な方が居るようですね)

 いち早く『自分の入るドア』を把握し、そこに並んだ彼らを見て彼女は少しだけ評価を改めつつ並んだ集団の一番後ろに並んだ。


『-お待たせしました。52番の方は③の扉にお進み下さい』

 それから30分後。しばらくして、彼女の前に立つ派手な頭髪の女性傭兵が呼ばれた。

(…ようやくですか)

 彼女はため息を吐きながら、歩き出す傭兵の後ろについて一緒にフロアを出た。

「-さ、どうぞお掛け下さい」

「失礼します」

(…あら、見た目に反してなかなか礼儀正しい方ですね?)

 傭兵の『常識的な行動』に、彼女は意表を突かれ更に評価を改める。

「さて、スカーレットさん。まずは貴女の結果をお伝えしましょう。

 -『合格』です」

「…っ!……」

 試験官に告げらた彼女は、驚愕しほっと胸を撫で下ろした。

「では、次に『面接』を行いたい思いますがこの後何か用事等はあります?」

(-っ!)

「いえ、大丈夫です」

「分かりました。では、右のドアを真っ直ぐ進んだ先の『通信室⑥』に行って下さい」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 傭兵もこのまま直行するようなのその後ろに続いて部屋を出た。そして、指定された通信室に傭兵と共に入った。


『-初めまして。オリバー=ブライトの様対外窓口を務めさせて頂いているベルサリエルという者です』

 傭兵が椅子に座ると、モニターが起動し爽やかな印象を与える青年が映し出された。

(…おかしい。他にも合格者はいるかも知れないのに、何故彼女だけが?…それに、『この人』何処かで-)

「-初めまして。私はアーニャ=ミルスティンと申します」

(……え?…こ、声が変わった………っ!?)

 傭兵の声が文字通り別人のモノになった事に唖然としていると、いつの間にか彼女の足元に機械のネズミが結集していた。

『-さて、-エチュード-はこのくらいにしておきましょうか』

「ですね。

 …さて、こちらも『-先々代の皇妃様-より賜った大切な指輪』を傷付けたくはないので、どうか『解除』なさって下さい。

 -リーリエ皇女殿下」

 すると、ネズミが集まるその『空白』に1人の女性が現れた。

「…やはり、お2人共『特殊班』の方でしたのね。…しかし、どうして私がこちらに居ると……」

「…おや、『彼ら』が居るのにまだお分かりにならないのですか?」

「……え?……っ!ま、まさか『このコ達』は『小さき兵団』なのですかっ!?」

 傭兵…に扮したメンバーの言葉に、彼女は興奮しながら床に膝を付きまじまじとネズミ達を見た。

「その通りでございます」

「…なるほど。『彼』が来ているのですね…。……ちょっと待って下さい。

 …何故、貴方達が『サポーター』を?」

『なに、とても単純な事です。

 我々は、彼…プラトー殿と長期的な協力体制と友好を結んだのです。その証として、彼より-兵団-を預かったのです』

「……」

「…さて、殿下。…『お戯れ』は此処までとして頂けるとこちらも助かるのですが?」

「…分かりました。…どうやら、『全てが偽り』なようですしこれ以上此処に居ても無意味でしょう」

『流石は殿下』

「…では、私が-ご案内-致しますので恐縮ですがお手を」

「……え?……まさか-」

 ピンと来た彼女は唖然としながらメンバーの手を掴み、直後に部屋から2人が消えモニターも自動で止まるのだった-。


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