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皇都

『-ようこそ、皇都-ファストナチラ-へ』

「ありがとうございます。…さて-」

 いつものように手続きを終えた俺は、ゆっくりと立ち上がりカノンの方を見た。

「-こちらです」

「ありがとう」

 すると、彼女はトラベルトランクを手元に転送しこちらに差し出した。俺はそれを受け取り、彼女と共に搭乗口に向かう。

「-それではマスター、お気をつけて」

「ああ」

 そして、彼女に見送られて船を降りエレベーターフロアに向かう。…すると、道中かなりの視線を感じた。

『-ねぇ、あれって…』

『ああ、新チャンピオンだ…』

『ラッキーッ!』

 …まあ、あれだけの活躍をしたのだから当然か。…だが、聞こえて来る声は『良いモノ』だけではない。

『…何であんなガキがあれだけの強さを……』

『…絶対仲間にしてやる』

『…ウフフ、私に掛かれば楽勝よ』

 …はあ、何処にでも『涌く』な~。…こりゃ、観光は難しいかもな。

 早々に『楽しみ』を諦め、無心でエレベーターを待っていた。…そんな時、ふと誰かが近いて来た。

「-隣、宜しいですか?」

「…どうぞ(…あれ?)」

 隣に座った同年代で同性の彼を見て、何故か『懐かしい』気持ちになった。当然、彼の顔は勿論声さえも今初めて聞いたばかりだ。


 -っ!…囲まれてる。

 疑問を抱いていると、いつの間にか周囲に『腕が立ちそうな人達』が大量に居た。…勿論、一見すると『そう』だとは分からないようになっている。

『…っ、クソ、今日はやたらと人が多いな』

『…はあ、仕方ない。-交渉-は地上に降りてからだな』

 すると、接触を図ろうとしていた連中は一旦離れた場所にある座席に座った。そして、そうこうしている内にエレベーターが到着し俺は『その』集団と共に乗り込む。…その時、ようやく俺はこの人達の『正体』に気付いた。

 すると、最初に声を掛けて来た彼は小さく頷いた。…はあ、まさかここまで手厚い『手配』をしてくれていたとは。

 そう。彼らは『セサアシス』の件で協力して貰った工作班の方々なのだ。…通りで初めて会った気がしない訳だ。

 そんな事を考えていると、エレベーターは地上に到着した。…そしてらそのまま俺は彼らと共にノーマルエレベーターに乗り『地下』に降りた。

「-お久しぶりですね。『同志ブライト』」

「ええ。…あれ、そういや『素顔』なのに良く俺だって分かりましたね?」


「フフ。まあ『プロ』技術…という訳ではないんですけどね。

 -さあ、どうぞこちらに」

 すると、『何処にでもいそうな普通の』女性がなにやら意味深な事を言う。そして、直後にお仕事モードの顔付きになり俺を車に誘導してくれた。…まあ、後で良いかな。

 一旦スルーし車に乗ると、運転席と助手席に『彼』と『彼女』が乗って来た。

「…それでは、まずは『閣下』の元へとご案内致します」

「お願いします」

 そして、車は走り出しやがて駐車場を出て地上に出た。…すると、皇都の市街地が目に飛び込んで来た。…おぉー。 

 それはまさに圧巻というべき光景だった。イエロトルボ以上に広い幹線道路の両脇には、歴史を感じさせる白を基調とした建物が並びその下を平日にも関わらず多くの通行人…といってもビジネスマン等はさほどおらず代わりに傭兵を始めとする船乗り達が歩いていた。…そして、その道の左手には-。

「-あれが、皇城『エルヴァイス』ですか」

 視線の先にある『プラチナ』のごとき白く輝く巨体な城を見て、俺は感動した。

「ええ。…あ、勿論後でご案内させて頂きますね」


「…ありがとうございます。…えっと『なんてお呼びしたら』良いでしょうか?」

 彼女…ひいては閣下の気遣いに感謝しつつ、ふと『コードネーム』を聞いてみた。

「…っ。…勿論、『本名』で呼んで頂いて構いませんよ」

「…良いんですか?」

「ええ。…何故なら、どのみち『分かる』事ですからね」

 ……?

「では、まずは私から。

 -帝国情報局特殊調査班所属、レナート=カーバイド大尉であります」

 …あれ?

 運転席に座る彼…カーバイド大尉の名前を聞いた瞬間、またもや脳裏に『見覚え』が発生した。

「それでは、次は私ですね

 -同じく、帝国情報局隊特殊調査班班長のイリーナ=キャンベル少佐であります」

「(…あ、そういう事か。)…なるほど、お2人にも『私の補佐』の話が来たのですね」

 そして、キャンベル少佐の名前を聞いた瞬間『データファイル』が明確に浮かんだ。…つまり、2人は『遊撃チーム』になってくれるかもしれないのだ。

「流石です。もう、あの『データ』を頭にインプットされたのですね」

「…まあ、昔から人の顔と名前を覚えるのは早かったので。…でも、『選抜』はまだ先なのに良かったんですか?」

「ええ。…実は我々を始めとした『工作班』の選抜はもう終わっているのです。そして、ファイルに載っている全員が無事に試験を突破しました」

「…なるほど(よく考えてみれば当然か…)。

 では、改めて宜しくお願いします。キャンベル少佐、カーバイド大尉」


「「こちらこそ、宜しくお願いします」」

 …いや、ホント良い人達と知り合えたな。…っ!

 そんな和気あいあいとした空気が車内に流れ出したその時。ふと、『鐘の音』が聞こえて来た。…おお、あれがかの有名な『ファストナチラの大鐘楼』か。

 窓から皇城と反対の方を見ると、荘厳な雰囲気を放つ大きな時計台があった。…はあ、まさか生で見れる日が来ようとはな~。

「-同志ブライト、間もなく到着しますので『マスク』のご準備をお願い致します」

「分かりました」

 俺は持って来たゴーグルを装着し、『プラトー』に変身する。すると、2人は『本来の顔』と格好になった。そして、数分後に皇城の少し手前にて降車し徒歩で入城した。

「-では、こちらにてお待ち下さい」

 それから、2人の後に続き広大な城内を『オートウォーク』やエスカレーターにて移動する事1時間。ようやく宰相執務室…の手前の応接室に通された。

『-失礼するよ、エージェント・プラトー』

「はい、閣下」

 それから程なくして室内にあるモニターが、閣下の到着を告げた。

「…やあ、エージェント・プラトー。直接顔を合わせるのはいつ振りかな?」

「今日でちょうど1ヵ月です、閣下」

「…そうか、もうそんなに経つのか。

 -さて、事前に話したように私は彼と『大事』な話があるので君たちは-外-に居てくれ」

『はっ!』

 閣下は少し驚きつつ、警護官の人達に告げた。すると、彼らは異を唱える事なく部屋から出ていく。…ホント、凄い手厚い手配だな。


「…さ、掛けたまえ」

「はい、失礼します」

 再びソファーに腰を降ろして変装を解除し、真の意味で閣下と直接顔を合わせた。…すると、閣下は一際にこやかになる。

「まずは、ポターランカップの優勝おめでとう」

「ありがとうございます」

「…さて、そんな訳で君は無事5つの『ロストチップ』を得た訳だが『何処から』行くのかな?」

「…そうですね。『アレ』がある前提で言うと、『遠く』から回ろうと思っています。…ただしなるべく『思い出作り』しながらですが」

「なるほど。…実に良いと思うぞ。

 -では、早速『引き取り』に行きたまえ」

 すると、閣下はスーツの内ポケットからリモコンを取り出し棚の方に向けスイッチを押した。直後、棚は左右に割れ奥にドアが出現した。…まあ、やっぱり『アレ』はこの地下に眠っていたようだ。

 そして、閣下は1枚のカードキーを取り出した。

「…やはり、閣下もお持ちだったんですね」

「ああ。…所で『それ』で行くつもりか?」

 カードを受け取り立ち上がろうとすると、閣下は『心配そうな』表情をした。…なので、俺はとあるツールを取り出した。

「勿論、ちゃんと『着替え』ますよ-」

 俺はそう言いつつ、ウォッチ型のツールを起動する。すると、俺の周囲に『ヘビ』のバリアが展開した。…そして、次の瞬間。

「-っ!『クイックチェンジャー』か…。…いや実際に見るのは初めてだな」

 ビシッとした正装からいつものスーツに『一瞬』で着替えた俺を見て、閣下は直ぐにツールの正体を見抜いた。

「…そうだったんですか。

 それでは閣下。しばし、失礼致します」

「ああ。『気をつけて』な」

「はい」

 俺は閣下に見送られ、意を決してドアをくぐった。


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