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-Side『ガーディアン』


-エキシビションもその後の閉会式もつつがなく終わり、観客達をエレベーターステーションや市街地に送迎し終えた合同警備隊の面々は基地にて原隊に帰還する準備をしていた。

(-良し。…とりあえず、少佐に報告しておこう)

 そのメンバーであるウェンディも、素早く荷造りと部屋の清掃を終え上司であるレーグニッツに準備完了のメールを入れた。

(…さて、部下の手伝いでも-)

 そう決めて借りていた部屋を出た時、ふと通信ツールが起動する。…その相手は、ついさっきメールを送ったばかりの上司だった。

「-はい、こちらアルスターであります」

『お疲れ様、少尉。…済まないが、至急第3応接室に来てくれ』

「(…あれ、なんだか『気疲れ』なさっている?)はっ!了解でありますっ!」

 数時間前とは違う上司の様子に、彼女は内心疑問を抱くがそれを顔に出さず即返答した。

『…では-』

(……なんか、『凄い事』が待ってそうだな)

 通信は切れ、彼女はなんとなく予想を立てながら上司の待つ執務室に向かった。

「-アルスター少尉」

「…あ、少尉だ」

「…おや、少尉」

「どうもです」

 すると、道中にて今回の任務で知り合った歳の近い『同僚』…すなわち共に会場警備を担当した人達と出くわした。


「あ、こんにちは。ヴォルス中尉。マグナス少尉。オークレー曹長。ルーシュ曹長」

「…もしかして、アルスター少尉も上官に呼ばれたのですか?」

 この中では、キャリアも階級も一番上の若手達の『お兄さんポジション』のヴォルス中尉が真っ先に聞いて来た。ちなみに、彼女は『お姉さんポジション』でマグナス少尉は『弟ポジション』。オークレー曹長ルーシュ曹長は『妹ポジション』になる。

「…はい。…どうやら、皆さんもそのようですね?」

「「「はい…」」」

「…っと。我々の上官達は少し『慌てている』ようなので直ぐに向かうとしましょう」

「「「「っ!了解」」」」

 彼の言葉に、彼女達はハッとし直ぐさま自分の上司の待っている応接室に向かった。

「-アルスター、入りますっ!宜しいでしょうかっ!」

『-…入りたまえ』

 そして数分後。彼女は許可を得て執務室に入った。…すると、物凄く緊張した上司の隣には白と青を基調とした軍服に身を包んだ壮年の男性軍人が居た。

「やあ、少尉。『この間』振りだな」

「…っ!ロ、ログナー大佐っ!?ど、どうしてこちらにっ!?」

 そう。彼は2人の所属する『ブルタウオ星系防衛軍』の大佐なのだ。


「なに、『また大活躍した部下達』を直接褒めに来がてら『用事』を済まそうと思ってな」

「(…いや、『がてら』の使い方がおかしいんですけどっ!?)さ、左様ですか…」

「…さ、2人共座ってくれ。…あぁ、もてなしは要らんぞ。何せ、『用事』は直ぐに済むからな」

「…は、失礼します」

「…失礼致します」

 彼女と彼は、正面のソファーに腰を下ろした。

「…さて、今回は本当にご苦労だった。君達を含む『合同警備隊』の尽力のおかげで『ゲスト』の誰にも被害は出なかった。

 私は勿論、『青の同胞』達も鼻が高い」

「…恐縮です」

「……」

 上司は頭を下げるが、彼女は素直に受け入れる事が出来なかった。…何故なら-。

「-勿論、『エージェント・プラトー』の策と『アイテム』そして『協力者』の支援のおかげというのもあるだろう。…しかし、『彼』の『授けたモノ』を生かせたのも『彼ら』が的確に動けたのも、彼を良く理解している君達が中心に居たからだ。…そして、彼も君達を心底信頼しているからこそ『任せた』のだろう。

 -だから、間違いなく『君達が居たから』全てが無事に片付いたのだ。…ちなみに、これは彼も言っていたぞ?」

「…っ!」

「…彼がそんな事を。…ならば、賛辞を受けない訳には行きませんね……っ!い、いや申し訳ありませんっ!け、決して-」

「-フフ、分かっている。…しかし、随分と『親しい』間柄のようだな?」

「…っ!………」

 慌てていた彼女はその言葉で二の次が出なかった。…そして、何かを察し彼を見る。


「…大佐、もしや『用事』というのは『彼』に関する事ですか?」

「…その通りだ、レーグニッツ少佐」

「…拝見します。……っ!」

 すると、彼はタブレットを取り出し彼女の方に差し出した。…それを見た彼女は驚愕する。

「アルスター少尉。『銀河連盟防衛軍』に異動する気はないかな?」

「…っ!?な、なんですと?」

 隣に座る上司は、驚愕の様子で彼女の持つタブレットを覗き込んだ。

 -『銀河連盟防衛軍』。それは、文字通り『銀河連盟に加盟している全ての-国家-』を防衛する組織だ。…そして、本来は各国の選りすぐり精鋭のみで構成される組織である。

「-……?大佐、この『独立遊撃隊』というのは?」

「聞き覚えがないのも無理はない。何せ、『近々』新たに新設される部隊なのだから。

 …アルスター少尉。貴官にはその部隊に入って貰いたいのだよ。…ああ、勿論『命令』ではなくあくまでも『提案』だ」

「…大佐、ご質問をしても宜しいでしょうか?」

「なんだね?」

「…もしや、その部隊は『彼』を支援する部隊なのでしょうか?」

「…正解だ。…いや、話しが早くて助かる」

 彼女が恐る恐る質問すると、彼はニヤリと笑った。


「少尉の言うように、『独立遊撃部隊』は『今回』のような事態が発生した時に『エージェント』の補佐をするのが主要任務になる。…そして、少尉が『配属されるかも知れない』その『第1分隊』は『エージェント・プラトー』の補佐をする部隊になる」

「…っ!た、大佐。小官からも質問宜しいでしょうか?」

「勿論だ」

「…ありがとうございます。

 …もしや、今回の『合同任務』は『見定め』の意味もあったのでしょうか?」

「その通りだ。…そして、見事少尉は『連盟』の参謀本部の定めた『合格ライン』を越え更に『彼と信頼関係』があるので、こうして『異動提案』が出されたのだ」

「「……」」

「…急な話なのは、十分承知している。だが、今回のような事はこの先も『急迫』してくるだろう。

 …今回は、主催者側が『認知』している状況だからしっかりと数と準備を整える事が出来た。しかし、いつも『完璧』に備えられるとは限らないだろう。だからこそ、常にエージェントには『サポーター』を配置しておきたいのだよ。

 …いかなる時でも、『最善の結果』を勝ち取る為に。…何より、『銀河全体』の恒久の平穏を守る為に。

 だから、どうかその『支援任務』をやって貰えないだろうか?」


「……。…少し、考える時間を頂いても宜しいでしょうか?」

 その真剣な表情と眼差しに、彼女はそう答える事しか出来なかった。…すると、彼は穏やかな顔で頷く。

「勿論だとも。…そして、もしやってくれるのであれば『下記』の日時までに『首都本部』に来てくれ。…ただし、『第3種秘匿事項』なので家族等に相談する場合は必ず『責任者』…すなわちレーグニッツ少佐立ち会いの元で相談するように。…それと、なるべく『限られた人数』のみで頼む」

「…承知しております。…まあ、といっても今は母だけですし友人達も『外』なのでその辺は大丈夫です」

「…そうか。…では、そろそろ私は失礼しよう」

「「はい」」

 彼が立ち上がると、2人は敬礼して見送った。…そして、彼が出た直後-。

「-…はぁーーーっ」

 上司は深いため息を吐き、ガックリとした。…よほど緊張していたようだ。

「…大丈夫ですか?」

「…そういう少尉こそ、大丈夫か?」

「…まあ、少佐以上に緊張はしましたが『これ』のおかげで吹き飛びました」

「…凄いじゃないか。まさか、我がセサアシス分隊から『連盟防衛軍』のメンバーになるかも知れない者が現れるとはな」

「…ありがとうございます」

 上司は、とても誇らしげにそして心から喜んでくれた。…しかし、当事者である彼女はどうしても素直に喜べなかった。


「…まあ、いきなり大きな話だから混乱は当然か。…だが、私は勿論だが分隊の皆も必ず『適任』だと言うだろう。そしてなにより、少尉のお母様もきっとお喜びになる筈だ」

「…でしょうね。…それに、私が抜けた穴も『私の良く知る適任者』が代わりに埋めてくれるので、そちらも心配していません。…ですが-」

「-『故郷を離れても自分は自分でいられるのか』かな?」

「…少佐には敵いませんね」

「当然だ。何せ、君を含めた部下達の殆どとは『とても付き合い』が長いからな。…それに、君を含めた若手の何人かは『海が生活の一部』になっていたから、『愛する気持ち』が人一倍強いのも良く知っている。

 …だから、こう考えれば良い。『銀河』の平穏を守る事が『故郷の海』を守る事に繋がるのだと」

「っ!」

 その言葉に彼女はハッとした。…そう。情勢が悪くなれば、『故郷の海』も『穏やか』ではなくなってしまうかも知れないのだ。

「…どうやら、前向きに検討する気になったようだな。…っ、そうだ-」

 直後、上司の『アドバイス』を聞いた彼女は直ぐ様行動するのだった-。


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