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最終関門

『-会場の皆様っ!そして、番組をご覧の皆様っ!大変長らくお待たせ致しましたっ!

 ついに、-超人達の祭典-も終わりの時が近付いて参りましたっ!

 …それでは、まずは-彼-を呼びましょうっ!せーのっ!』

『-オリバァァァーーー、ブライトォォォーーーーーッ!』

 実況が合図を出すと、ファイルラウンド以上のコールが『俺の居る場所まで』聞こえた。すると、上が開き昇降機が上昇を始めた。

『来たーーーっ!最強のルーキー、オリバー=ブライト選手だっ!

 皆様ご存知の通り、彼は今回初出場の紛れもないルーキーだっ!…しかし、予選からまたは本選からご覧になっている皆様ならば彼の規格外な実力は良ぉ~く知っている筈ですっ!

 果たして、今回はどんな-コト-をやってくれるのでしょうかっ!?

 そして、そんな彼と対するのはファロークスを支えて来た屋台骨の一人、ゼクス=アストレイ常務っ!』

 すると、俺と真反対の場所に常務が出現した。…その顔は決然としており全身から先ほどとは比べモノなならない凄まじい『闘気』を発していた。

『常務はこれまで、お三方を始めとする歴戦の猛者達から幾度となく賞品を守護して来たまさしく-最強の門番-ですっ!

 その身体は、今年50を迎えたとは思えない程鍛え抜かれており並大抵の戦術では突破は難しいでしょうっ!

 …それでは、肝心要の-勝負内容-を発表させて頂きましょうっ!』

 すると、いつも通りモニターに『一つの競技』の名称が表示された。


『…やはり、門番が常務で尚且つ挑戦者が-男-ならば-これ以外-あり得ないでしょうっ!

 -そう、-力と技術がコラボレーション-する伝統スポーツ…。-ストロングプッシュ-!

 この競技は、なんと-古代文明-にまで遡るほど歴史の長いモノです。そして、何よりこの競技の特徴は-。

 一つ。一切の武装を使わない事。

 二つ。-拳と拳-ぶつけ合わない事。

 三つ。相手をリングから-押し出せば勝ち-。

 四つ-』

 -そのタイミングで、俺と常務は上に羽織った大きいタオルを派手に取り後方に投げた。

『-互いに上半身には何も身に付けず、下は-マワシ-と呼ばれるロインクロスとスパッツのみで靴は履かない。

 …とまあ、伝統スポーツだけあって厳しいルールが定められています。…しかし、常務は勿論の事ブライト選手もなかなかに鍛え抜かれた身体をしています。

 …それではお二人共、リングへお上がり下さいっ!』

 俺は言われた通り、少し柔らかいリングに上がった。…生で見るとやっぱ違うな。何より、背丈や筋肉量はジュール氏や警備隊の人達と良い勝負か……。…燃えて来た。

『おおっとっ!両者から凄い気迫を感じますっ!…ですが、もう少しご辛抱下さいっ!』

 実況がそう言うと、格式高い『ワフク』に身を包んだ社長さんが現れた。…確か、この戦いの『レフェリー』を務めてくれるんだよな。


『-それでは、両者共戦いの前の-パフォーマンス-をお願いしますっ!』

 そのアナウンスで、俺と常務は股を広げ腰を落とし右足を高く上げそして力強く床を踏む。…はあ、まさか再び『これ』をやる日が来ようとは。

 俺は懐かしみながら左足で同じ動作をし、また右足を上げた。…そして、互いに数回繰り返した後共にリング中央に向かう。

『-さあ、戦いの前の力強いパフォーマンスも終わりいよいよ決戦の火蓋が切って落とされますっ!』

「…両者、構えて下さい」

 彼がそう言うと、俺と常務はその場にしゃがんで前傾姿勢になり両手をフィールドにつけた。

「-始めっ!」

 開始と同時に互いに突進し、数秒後には互いにぶつかり合った。

『おおっ!互いにぶつかり合うものの、瞬時に拮抗状態に入ったっ!…さあ、果たして最初に仕掛けるのはどちらだっ!?』

 …スゲェ、ビクともしない。なら-。

 俺は彼のロインクロスを掴むべく、手を伸ばす。しかし、彼も同じ事を考えていたようだ。

『-おおっ!?二人は同じ事を考えていたようだっ!そして、一旦距離を取ったっ!』

 …もう一度だ。

 俺は再び彼に突っ込んで行った。しかし-。

『-おおっと、ブライト選手すかさずタックルを仕掛けたっ!しかし、常務は動かないっ!』

「-はあっ!」

 ぶつかり合う直前、彼はその体躯からは考えられないスピードでこちらに突っ込んで来た。…うん、無理だな。

 どう考えても受け切れないので、すかさず避けた。

「-っ!?」


『おおっとっ!ブライト選手、常務の反撃を素早く回避したっ!

 そして、そのまま常務の背後に回るっ!』

「…っ」

 すると彼は、瞬時に急停止し素早く身を翻えした。…パワーとスピードを兼ね備えている鍛え方か。マジで軍人みたいな鍛え方してるな。

 分析しつつ、俺はそのまま突っ込んだ。

「-っ」

 すると、構えていなかった彼はゆっくりと押されて行く。

『おおっとっ!?ブライト選手、常務を押し始めたっ!このまま決まってしまうのかっ!?』

「-甘いっ!」

「…っ」

 しかし、数秒後には再び拮抗状態に入った。そして、今度は彼の方からロインクロスを掴みに来た。…勝負っ!

『おおっ!ついに互いに-マワシ-を掴んだっ!さあ、果たしてどちらがこの戦いを制するのかっ!?』

「-おおぉぉぉぉぉーーーっ!」

『ああっとっ!やはり、常務に軍配が上がったっ!ブライト選手、徐々にリング際まで追い込まれて行くっ!絶対絶命のピンチだっ!』

 そして、そのまま俺はリング際まで押されてしまう-。

「-ここ………だーーーーっ!」

「なにっ!?」

 俺は渾身の力で彼を持ち上げ、すかさず自身のロインクロスを彼の物の下に入れ安定させる。


『-っ!?』

『-……………へ?………っ!ブ、ブ、ブライト……常務を……持ち上げたーーーーっ!?な、な、なんてパワーだっ!?

 …っ!?そ、そしてゆ、ゆっくりと反転しようとしているっ!?』

 そう。俺は彼を持ち上げたまま『後ろ』に反転し始めたのだ。

「…っ!?……はっ!」

 しかし、彼も黙っている訳もなく強烈な掌打が顔や首に飛んで来た。…っ!腰が入っていないのに一発一発が重いっ!…だが、言っちゃ悪いがその程度『毎日のように』受けて来たんだよっ!

 時折身体がぐらつきそうになるが、必死に耐えた。そして、そのまま-。

「-………っ!そこまでっ!」

『-き、き、決まったーーーーっ!ブライト選手、常務をリングアウトさせたーーーーっ!』

「………」

「……『レッドバッファロー』。…まさか、………は……」

 彼が何か言っているが、なんだかぼんやりして来た。……やっぱり『反動』が、……凄い-。

『-っ!?………ト選……、ど………、し-』

 案の定実況が慌てているが、俺はその場にしゃがみ込むのだった-。



 ○



「-ブライトさん、大丈夫……です……か?」

「…姉さん、どうし………ワオ」

 それから数十後。俺の控え室に慌てた様子のアイーシャさん達が入って来た。…しかし、彼女達は即座に唖然とした。…まあ、当然か。

 俺は、横にあるテーブルの上に積み重ねられた大量の『大皿』を見て彼女達と同じ気持ちになった。

「あ。どうぞ座って下さい」

「…は、はい。…というか、大丈夫なんですか?」

「どうやら心配させてしまったようですね。すみません。…ええ、『ガッツリ食べた』ので大丈夫です。後は、『時間まで休め』ば復活します」

「…どういう身体してるの?」

「-…言わば、これも『受け継いだモノ』と言う事だ」

「「…っ」」

 すると、たった今到着したマオ氏が代わりに答えてくれた。

「…はあ、まさか再び拝見出来るなんて思いもよりませんでしたわ……」

「…いや本当、お見事でしたよ」

 その後ろから非常にうっとりした表情のクルーガー女史と、満面の笑みを浮かべるジュール氏が入って来た。…まあ、知っててもおかしくないか。

「…あ、あの老師。『受け継いだ』と言うのは?」

「言葉の通りだ。『あれ』は元々は彼の祖父が持つ『特異体質』のようなモノだ」


「…『特異体質』。…『私達』のとはどういう風に違うのですか?」

「…そうですね。

 お二人は、『ファイヤーブースト』ってご存知ですか?」

「…えっと、確か『危機的状況でのみ発揮出来る脅威的な力』ですよね?」

「…そう。私達人間には普段『リミッター』が掛けられていますが、危機的状況になるとそれが外れます。…しかし、ごく一部ですが『意図的』にリミッターを外せる人達がいるのですよ」

「…っ」

「まあ、文字通り『全力』を出す訳ですから数分で『ガス欠』を起こしますがね。…まさに、『諸刃の剣』ってやつです」

「…私としてはそれで済んでる事に驚くがな」

「……?」

「本来、その力は『いざという時の切り札』です。それを『意図的』に使えるという事は、それだけ身体に掛かる負担は半端なモノではありません。…下手をすれば、数年でまともな生活は出来なくなるくらい身体が『ボロボロ』になります」

「「…っ!」」

「…ですが、彼の身体は元々頑強で尚且つ凄まじく鍛えられています。そして、何より筋肉とエネルギーを回復させる為に必要な『食事』を、大量かつ急速に取り込む消化器官も持っているんですよ」

「…いや、本当良くご存知ですね?」

「まあ、『嫌という程』見てきたからな」

「…ああ、『そういう事』でしたか」

 どうやら、『年下』のお三方にもかなり『助けて』貰っていたたようだ。

「……要するに、それら全部をひっくるめて『特異体質』って訳ですか。…なんか、私達よりよっぽど『びっくり人間』じゃないですか」

「…右に同じく」


「…否定出来ないのが悔しいですね。…はあ、なんかこの後に『ハードな案件』が控えているとは思えない空気になりましたね…」

「…まあ、ガチガチに緊張するよりマシだろう」

「…あ、そういえばなんか落ち着いて来ました」

「…うん」

「…なんか釈然としませんが、何よりです。

 …では、時間まで『最終確認』でもしますかね?」

「そうだな」

「「ええ」」

「「了解」」

 俺の提案に、全員は自然体で頷くのだった-。


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