-翌朝。俺はいつも通りの時間に目を覚まし、此処に来てからずっと続けている『負荷トレーニング』をした後バランスの取れた朝食を済ませ、迎えに来てくれたガイドさんと共に会場に向かう。
「-……。…驚く程にいつも通りですね」
「…実は私、『緊張が顔に出ない』らしい
んですよ。実際は既に心臓やら脇やら大変な事になっているんですよ?」
「…これは失礼しました。
…ですが、此処まで来た貴方ならばきっと大丈夫ですよ。…陰ながら応援しています」
「…ありがとうございます」
「…もうすぐ会場です。…っ」
エールを送ってくれた彼は、ふと険しい表情になった。…どうやら報道陣に見つかってしまったようだ。本当、恐ろしい執念だ。
「…少し、彼らを甘くみていたようですね。
…申し訳ありませんが、『お願い致します』」
「了解です。では、次の交差点を右折したら『発動』します」
「分かりました」
そして、数分後に彼は指示通り交差点を右折した。直後、俺はドアウィンドウを少し開きそこから『ヘビ』の指輪を装着した左手中指をちょこっと外に出す。
『-っ!?……っ!……』
すると、少し遅れて後続から報道陣の車が続々と来るが追い掛けていた筈の車が『忽然と居なくなった』ので一斉に慌てた。…そして、それから数分後に報道陣の車は居なくなった。
しかし、俺は直ぐには『透明』を解除せず『トリ』に周辺の探索をさせた。…やれやれ、いい加減『その手が』通じないと気付いても良いと思うんだけどな。
「…やはり、いつもの『諦めたフリ』ですか……」
「ええ…。…はあ、最終日くらい『太陽の下を通りたかったですが』諦めるとしましょう」
「…畏まりました-」
俺がステルスを解除すると、彼は物凄くゆっくりなスピードで近くのビルの地下駐車場に入る。…勿論、この建物は『ファロークス運送』の系列会社なので何の問題はない。
『-おはようございますっ!…あ、また-通路-を使うんですね?』
そして、警備員もすっかり慣れたのか直ぐに確認してきた。…この人も、顔馴染みになったなぁ~。
そして、警備員の誘導に従って一見何の変哲もないスペースに停車した。…そして、それから数分後。車を囲むようにフェンスが出現し『それら』ごとスペースが降下を始めた。
『-降下確認。フェンスを外します』
地下まで降りると、警備員のアナウンスが車内に聞こえた。…いやー、この『通路』にも最後まで世話になってしまったな。
「…それでは、発車致します」
そして、俺の乗る車は地下道路を走り出した。
『-こちら2号車。4号車応答願います』
「…っ。はい、こちら4号車。どうしましたか?」
その直後、同じく地下道路を走る別の車から通信が入った。…確か2号車は、クルーガー女史の送迎車だったな。
『こちらは間もなく、-セブンクロスロード-に差し掛かります。留意をお願いします』
「4号車、了解しました」
どうやら、女史もやむなく地下道路に入ったようだ。…となると-。
『-こちら1号車。現在、-サウスサード-を走行中です』
『こちら3号車。現在、-イーストセカンド-を走行中です』
すると、予想通りマオ氏とジュール氏を送迎している車から連絡が来た。…はあ、トコトン『いつも通り』だな。
「4号車、了解」
『1号車、了解』
『3号車、了解』
『2号車、了解』
各車が応答してすぐ、車は『セブンクロスロード』に差し掛かった。…ちなみにそれぞれの名前の由来は『7番目に開通した交差点』、『南側で三番目に開通した通路』、『東側で二番目に開通した通路』なのだが社内投票で横文字の名前になったらしい。本当、ファロークスっとユーモア溢れる社風だよな~。
「-4号車から2号車へ。-セブンクロスロード-前到着。安全のため数分間停車します」
『2号車、了解。お先に失礼します』
すると、反対側からエンジン音が聞こえすぐに女史の乗る車のランプが見えた。
「それでは、発車致します」
2号車が右折した事を確認し、車はゆっくりと動き出した。
『-こちら、1号車。間もなく-シックスクロスロード-に差し掛かります。留意をお願いします』
『2号車、了解』
「4号車、了解」
…しかし、いつ見ても見事な連携だ。
俺は今回ガイドを務めてくれている『送迎課』の人達…要するに『ゲスト送迎のスペシャリスト』集団の技量と熟練のコンビネーションにいつも通り感心しするのだった-。
○
-そして、4車揃って会場地下の駐車場に昇り俺はお三方と別れて一人別室に向かう。
「-あっ!ブライト選手が到着されましたっ!」
そこには、昨日取材をしてくれた帝国国営放送の報道クルーが居た。…まあ、最後の関門に挑む前の『意気込み』のインタビューだ。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ、とんでもありませんっ!…それでは早速意気込みをお聞かせ下さいっ!」
「-『やるからには勝ちます』…なんて気軽に言うつもりはありません。
なにせ、最終関門を担当するのはファロークスを支えて来た方なのですから。…だから、今の自分が持つ全てをぶつけるだけです」
『……っ』
決意に満ちた意気込みを聞き、クルー達は息を飲んだ。
「…ありがとうございます。
-さあ、果たしてブライト選手は最終関門を突破し『秘宝の手掛かかり』をその手に掴む事が出来るのかっ!?チャネルはそのままでっ!」
「-オッケーですっ!」
リポーターが締めの言葉を言った後、ディレクターが合図を出した。…さて、とりあえずラウンジで-。
『-ブライト選手にお伝えします。お手数ですが、1階B会議にお越し下さい』
時間まで寛ごうとした矢先、アナウンスが俺を呼び出した。…なんだ?
「…あ、あの、ブライト選手」
「はい?」
「頑張って下さいっ!」
『応援していますっ!』
疑問を抱いていると、クルー達からエールを貰った。
「(…たく、『いつもの人達』もこうだったら喜んで取材を受けるんだけどな。)ありがとうございます。…それでは、なにやら呼び出しを受けたのでこれにて失礼します」
「はいっ!ありがとうございましたっ!」
『ありがとうございました』
「-ブライト選手、ご案内致します」
クルー達に見送られて部屋を出ると、案内のスタッフが待ち構えていた。…そして、彼の後ろに続き少し取材を受けた部屋から少し離れた会議室に案内された。
「-社長、常務。ブライト選手をお連れ致しました」
そして、スタッフはやや緊張した様子でドアをノックし中に居る人達に到着を伝えた。…おいおい、ファロークスの現トップとNo.3に呼び出されたよ。
『どうぞ』
「…失礼します」
「失礼します」
許可が出たので、スタッフに続いて入った。…うわ、実物はやっぱりデカイな~。
部屋の奥には社長であるゼノ=ファロークス氏と、最終関門の『門番』である巨漢の男性…ミュラー=クレイグ常務が居た。
「こんにちは、ブライトさん。突然お呼びして申し訳ありません」
「いえ。…あ、初めまして。アストレイ常務」
「おうっ!お前さんが、ヴィクターさんの孫のオリバー君だなっ!」
常務は白い歯を見せて爽やかに笑いつつ、ゴツい手を差し出した。…うわー、ヤベーぐらい手が分厚いな。
「-『箱』を」
「了解しました」
若干圧倒されながら握手を交して、社長は後ろに控える複数の黒服を着た警護アンドロイドに一人に指示を出した。すると、彼は持っていたブリーフケースをそっとテーブルの上に置いた。
「-…っ」
その瞬間、事前に持ってくるように言われていたコンパスが振動した。…つまり、この中には優勝商品である5つの『ロストチップ』が入っているのだ。
「ほう…。会長から聞いていた通り不思議なコンパスですな」
「…まあ、『規則』なので現物をお見せしましょう」
社長はロックを解除し、ケースを開けた。すると、5つのアンティークタイプのチップが姿を現した。
「……」
「…『現物』を見るのは初めてかな?」
「…はい。…しかし、まさかいつも『こんな事』しているとは思いませんでした」
「まあ、元々はこちらの『本気』を見せる為に始めた事だが今は挑戦者のモチベーションを上げるの為の儀式だなっ!…ただ、今回は『ちょっと違う』がな」
常務はニヤリと俺を見た。…どうやら、この人も『協力』してくれるようだ。
「…ありがとうございます」
「なに、私の場合は本当に微々たる協力だ。
-まあ、『私が勝ったら』役割は代わるだろうが」
「(…流石は宇宙の『荒波』を渡って来た歴戦の『運び屋』。スゲェプレッシャーだ-。)そうならないよう、『全力を尽くさせて』頂きます」
「…っ」
「…若くして見事な『圧』だ。…あの三人が認める訳だな。
-楽しみにしているよ」
常務はプレッシャーを消し、再び爽やかな笑顔を向けるのだった-。