-Side『ルーザー』
-通信が終わった瞬間、室内に居た全員は壁や物に激しい『怒り』をぶつけた。
『-…はあ、はあ、はあ、はあ……』
そして、数分は発散した後。彼らは荒い呼吸をした。
「……くそが。利用するだけ利用して、あっさりと『打ち切り』やがった…」
「…『-害獣-の方がコストは掛からない』だぁ?馬鹿にしやがって……」
先程の通信の内容に、彼らはまた怒りを抱く。しかし-。
「-少し静かにしなさい。…そんなんだから、見下されるのですよ?」
ケバい格好と化粧の女性は彼らを窘めた。…勿論、彼女もかなり頭に来ているがそれを抑えていた。
「……っ。あんたは腹が立たないのか?あれだけ『ボロカス』に言われて…」
「…勿論ハラワタが煮え繰り返っていますよ。出来れば、今すぐにでも『彼ら』を潰したい」
「…っ!なら-」
「-ですが、悔しい事に『彼ら』と我々では逆立ちしても埋められない戦力差があります。
…無策で行けば、確実に『星』になってしまうでしょうね」
「……っ。…だったら、このまま大人しく我慢しろってか?」
「……まさか。彼らには我々を切り捨てた事を後悔させてやらねばなりません」
『-っ』
「…だが、どうやって?下手すれば、星になっちまうんだろ?」
「…なに、『私達』が直接手を下す必要はありません。
-『相応しい人達』に、任せてしまえば良いんです」
当然の質問に、彼女は冷酷な微笑を浮かべた。
『…っ!』
「『合同防衛隊』に任せるのか…。…だが、連中だけでどうにかなるのか?」
「それも心配入りません。どうやら軍は、『ビッグ3』やゴールドやプラチナランクそれと『腕の立つ人』に『有事の際』の協力を要請しているようです」
『…っ!』
「…なんでそんな事が分かるんだ?」
「…『頼もしいスワロー』がいるとだけ言っておきましょう。勿論、裏は取れています」
「……。…相変わらずの手際だな。
つまりは、俺達も『仲間に入る』って事だよな?…それが、連中に仕返しするのとどう繋がるんだ?」
「…当然の話しですが、軍は協力した人間には報酬を支払います。
-その報酬に『ロストチップ』を要求するんですよ」
『……っ』
そこでようやく、彼らはハッとした。…しかし、質問していた男は不安な表情だった。
「…『勝ったヤツ』がそれを呑むとは思えないんだが。…そもそも、『当日』連中とカチあっちまったら問答無用で潰しに来るじゃねぇか?」
しかし、彼女は余裕の笑みを浮かべた。
「そこは軍に頑張って貰いましょう。…そうだ、なんなら今から出向いて『交渉』をしてしまいましょう。
…そして、もう1つの方もさほど大した問題ではありません」
『……?』
「…要は『一番安全な所』に居れば良いんですよ。そうですね、例えば『避難した観客』が集う場所とか?」
「…『シェルター』かっ!」
「ええ。そもそも連中の狙いはロストチップだ。それ以外に手を出す可能性は低い」
「…やるじゃねぇの。流石『スナッチャー』だぜ」
「ホメても何も出ませんよ。…皆さんも、異存はないですね?」
『ああ』
「それでは早速、連絡を付けるとしましょうか-」
そういって彼女は、意気揚々『スワロー』に連絡を取るのだった-。
-まさか、この行動が原因で『身を滅ぼす』事になるとは夢にも思わずに…。
◯
『-我々の望む報酬は、今大会の賞品である5つのロストチップのコピーです』
…うわ、トンデモない要求を出して来やがった。
「…呆れたな」
「「右に同じく…」」
『交渉』の様子を別室で見届けていたお三方と俺は、『要注意組』の出して来た要求に呆れ返った。…はあ、契約を打ち切られた直後にこっちに協力するってどういう神経してんだろうな?
「…しかし、無下にする訳にもいかない。下手に要求を拒めばこちらの『戦力』が敵に漏れかねない」
「…なにより、『無駄に血が流れる』でしょうね」
…そうなんだよな~。はあ、『内通者』がいるとは思わなかった。…まあ、多分『脅されて』だろう。
「…全く、良く悪知恵の働く連中だ。
それを臭わせる事と『コピー』を要求する事で二重に断りづらくするとはな…」
「…お三方から見て、彼らは信用出来そうですか?」
「…まあ、正直に言うと背中は預けられませんね」
「…私も、あんまり『クルーメンバー』を近付けたくはありませんね」
「…そもそも、連中は『未熟』しかいないからな。だが-」
「「-…別の所に居るなら問題ないですね」」
「…さほど危険のない場所なら、問題はないだろう。全く、それを分かっているのが腹立たしい」
お三方はボロカスに言った後、物凄く不服そうに評した。…いやホント、ズル賢い連中だ。
俺も心底呆れながら、手元にあるスイッチを二回押した。
『-お待たせした』
すると、離席していた連合部隊の総司令官が『タブレット』を持って彼らの居る部屋に戻って来た。
『…諸君らの要求を受け入れよう』
司令官はタブレットを起動し、電子ペンをケバい女性に差し出した。
『……っ!』
『ありがとうございます。…それでは、まずは私からサインさせて頂きます』
「-…問題は、『この後』だな」
「…ですね。『連中』がこの事を見逃す筈がない」
「…しかし、どのようなプランで来るか検討がつきませんわ」
「(…可能性があるとすれば-。)…まあ、直接的な方法は絶対にしないでしょう。つまり、それ以外の方法…例えば、『カモフラージュ』とかして来そうですね」
「…『カモフラージュ』?…何かに『偽装』して接近するという事ですか?」
「…確かに、恐らくは大会後銀河連盟エリアに長期間居座る彼らに『ナイショ』で近くにはそれが最適解でしょうが……」
「…そんな、あからさまに怪しい『モノ』に近くだろうか?」
俺の予想に、当然ながらお三方は異を唱えた。
「…では、『信用のあるモノ』に偽装した場合はどうでしょうか。…そうですね、例えば-」
「-……いや、それこそあり得ないだろう」
「…そうですよ。
まず、諸々の『下準備』の段階で高確率で発覚します。それに、例え実行まで行ったとしてその後に間違いなく騒動になる。
…そして、『強制捜査』が行われ連中は徹底的に叩き潰されるでしょう。そんなリスクを冒すとはとても…」
「…いえ、そのプランで来る可能性はありますわ……」
またしても、マオ氏とジュール氏は異を唱える。…しかし、クルーガー女史だけは違った。
「……なんだと?」
「…確かに、『普通』に考えれば荒唐無稽な予想ですわ。でも、我々は『普通』では考えられない『存在』を知っている筈です」
「………っ!『導きの船』か…」
「…そう。先程ジュール氏が仰られた『無謀な計画』も、『サポート船』の力を複合すれば『完全犯罪』が出来てしまうんですよ。
…そして、『ホワイトメル』、『イエロトルボ』、『ブルタウオウ』で発生した事件の背後には『コピーされたシステム』が悪用されていました」
「……やはりか」
「…なんて事だ。…だとすると、『超広域探索船』の名を持つあの『船』のシステムも?」
「…でしょうね」
「…もしそうなら、事前に防ぐ事は困難だぞ?」
「…ええ。だがら、『迅速に解決』出来るように今の内に手を打っておく必要があります」
『-良し、全員のサインを確認した』
『それでは、我々はこれにて失礼致します』
こちらが真剣に悩んでいるなか、画面の向こうにいる連中は満足げにしながら部屋を出て行った。…たく、大会の途中に面倒事を持ち込みやがって。おかげで、切り替えが大変だ。
俺は連中に苛立ちを覚えながら、別室を後にするのだった-。