-Side『シスター』
「-っ!」
ホテルの部屋で『片割れ』の帰りを待っていた幼い容姿の少女…アイーシャは、直感的に部屋から出てエレベーターの前に立った。すると、丁度良くドアが開く。
「…あ、姉さん」
「……お帰りなさい、イアン」
しかし、さほど落ち込んでいない…というかいつも通りの片割れに、彼女は疑問を抱きつつ出迎えた。
「…うん、ただいま姉さん」
「……さ、『戻ったら』ゆっくり休んで下さい」
片割れは頷き、ゆっくりと立ち上がったので彼女は休むよう促した。
-それから二人は元の姿に戻り、アインは疲れを取る為にバスルームに入った。その間に、彼女は愛飲しているお茶の用意を始める。
(…しかし、いつもだったらかなり悔しがる筈なのに今回はさほど気にした様子もなかった。…あれ程完膚なきまでぬ彼に負けたのに一体どうして?…っと)
考えている内に準備が整ったので、彼女は手早くお茶のパックが入った二つのカップにお湯を注ぎその上に小皿を乗せて蓋をした。
「-…あ」
そして、ルームサービスで頼んだお茶菓子を出していると妹が洗面所から出て来た。
「もうちょっと待って下さいね」
「…ありがとう、姉さん」
「どういたしまして…。…うん、そろそろ良いでしょう」
彼女は小皿を取り匂いを嗅ぐ。すると、素晴らしい匂いが鼻をくすぐった。
「…さあ、召し上がれ」
「…頂きます」
妹は目の前に置かれたカップを取り、一口飲む。そして、一口サイズのお茶菓子を口に放り込んだ。
「…ふう。美味しい…。
…あ、そうだ-」
『-さあ、お次は今大会-の最強ルーキーの強さに秘密に迫ってみたいと思いますっ!
まずは、基本プロフィールをご紹介!』
「…っ」
妹が何かを思い出したようにテレビをつけると、大会特番が流れた。しかし、その内容に彼女は驚く。…間違いなく、『彼』の事だからだ。
「…どうしたの?」
「…いや、どうしたも何も良く見れますね?だって、貴女はオリバーさんに-」
「-…悔しくないって言ったらウソになるけど、そもそも彼と『僕』とじゃあ実力差があり過ぎるからそんなに悔しくはないかな。
それよりも、彼が『秘密』を知っても『本気』で向かって来てくれた事がどうしようもなく嬉しいんだ」
「……」
「…だから、彼を知りたくなった。あれだけ『優しい彼』が何故あれだけ『強い』のかを、私は知りたい。
そうすれば、きっと私は…私達は『もっと先に行ける』から」
「……驚きましたね。まさか、貴女がそんな『前向き』な事を言うなんて」
「…『彼』が認めてくれたからだと思う。
不思議だよね。閣下やクルーガーお姉様達とかに認めてられているのと、彼が認めてくれたのとじゃ『全然違う』」
『-いや、驚きですねっ!まさか、温厚な農家の方が多い-緑の銀河-の出身だったとはっ!…はてさて、-食の宝物庫-とも呼ばれるグリンピアイ生まれの彼がいかにしてあれ程のスキルを身に付けたのか、ますます気になりますっ!
…さて、それではご本人との約束の場所に向かいましょうっ!』
すると、リポーターは画面奥に向かって歩き出し真紅の旗が掲げられた一軒の『ワークショップ』の隣にある小さな庭園に入った。
「-…今のワークショップ、『ナイアチ』の系列ですね。…という事は、バトンの調整でしょうか?」
「…だと思う。今日までの時点で結構酷使してたから」
『-おっ!いらっしゃいましたっ!』
やがて、テレビクルーは庭園の中にある休憩スペースで本格的なお茶と蒸し菓子にて休息を取るオリバーを発見した-。
○
-お、来たか。
俺は一旦お茶とお菓子を保温容器に入れ、椅子横の台に乗せて立ち上がる。
「-こんにちは、ブライト選手っ!」
「こんにちは。ご足労頂き恐縮です。
…さ、どうぞお掛け下さい」
「…ありがとうございます」
すると、『顔合わせ』の時と同様リポーターの女性は僅かに驚きつつ対面の椅子に座った。…いやしかし、まさかインタビューを受ける日が来ようとはな~。
実は、予選終了後にファロークスの方から打診があったのだ。…まあ、予選で目立ちまくったせいで地元の局は勿論遠方から来た大量のメディアから問い合わせが殺到したのだ。
だから、閣下や少佐は勿論会長やお三方と協議した結果『一番身近な放送局』…すなわち『帝国国営放送』のインタビューを受ける事に決めたのだ。
「-それでは、早速インタビューを始めたいと思いますっ!
…まず、一番に聞きたいのは『どうしてあんなに強い』のかです。一体どのようにして、あれだけのスキルを身に付けたのですか?」
「そうですね…。…まずは、経緯からお話しましょう。
実は、私には祖父が居たのですが家族の誰も祖父の若い頃何をしていたのかほとんど知らないんですよ。
…ただ一つ分かっているのは、祖父はこの広大な宇宙の至るところに『友人』がいるという事だけです」
「……っ。顔がお広いお祖父様なのですね」
「…それだけだったら良かったんですが、祖父が『星』になって自分もようやく物心着い頃『友人』の一人であるナイアチの方が我が家を訪ねて来て下ったんです。
-『お前がかの御仁のお孫殿か』。…いや、びっくりしましたよ。話しを聞いたら、その方は昔絶体絶命の窮地を祖父に助けられたというのですから」
『-っ!?』
俺の発言に、リポーターはおろかクルーの人達もびっくりした。
「…そして、更に驚く事にその壮年の方は『祖父の師匠』だったのです」
『-……』
「……」
追撃を放つと、最早クルー達は言葉を失った。…いや、俺もまさか自分より若い人に弟子入りしてるとは思わなかったな~。
「…っ。し、失礼しました…。…えっと、つまりその方は『恩返し』としてお祖父様とブライト選手に『制圧術』を指導してくれたのですか?」
「ええ。…まあ、本格的な指導だったので習得にかなり苦労しましたがそのお陰で『いろいろと助け』になりました」
「…というと?」
「多分…いやそれこそが、『最大の秘密』でしょう。
既に皆さん知っての通り、元々私はグリンピアの農家の人間です。…それはつまり、ある意味で一番『危険を伴う』職業の関係者だという事です」
「…あ。『害獣退治』ですね?」
すると、わざわざ説明せずともリポーターは答えを出したので頷く。…流石にこの規模のイベントを任されているだけはあるか。
「…本当、農家の方々には頭が上がりませんね。日々の品質チェックや改良研究、更には農作物は勿論『プラント』にも甚大な被害を及ぼしかねない害獣の退治。…つまりは、その中で実戦経験を積み重ねていったのですね」
「…いや、本当大変ですよ。
まあ、流石に大型タイプはプロにお任せしていたが小型や中型は色々な事情から基本自分たちで対処します。
あ、ちなみに今は私が手解きした新世代達が活躍してくれています」
「……はい?」
『……』
また衝撃発言すると、またまたクルー達は唖然とした。
「いやだって、私が抜けた事で戦力ダウンは避けられないでしょう?…それに、どのみち世代交代も避けられないのですから『師匠に証』を頂いたうえで教えました」
『……っ!?』
俺が服の裏に付いた『バッヂ』を見せると、ここ一番の驚きを見せた。…いやホント、この『ライセンスバッヂ』を頂くのに修行時代の倍は苦労したよな~。
「…っ。…またもや失礼しました。
…まさか、『そこまでの実力者』だったとは驚きです。……?」
そんな中、俺の脇に置かれた呼び出しの機械が鳴った。
「ああ、どうやらバトンの修復が終わったようですね」
「…それでは、最後に意気込みを下さい」
「…そうですね。
-今回は『デビュー』で終わらせるつもりはありません。…やるからには『勝ち』を目指します」
『……っ』
「…それでは、ブライト選手のインタビューは以上ですっ!皆さん、彼の活躍にご期待下さいっ!」
俺の大胆な発言に、クルー達は息を呑むがリポーターは直ぐに締めのコメントをした。…慣れてるな。
「-…ありがとうました。そ、それでは我々はこれにて失礼します」
「はい、お気をつけて」
-そして、クルー達を見送った後残っていたお茶とお菓子を味わいバトンを受け取りに行くのだった。