-っ!
直後、『不思議な感覚』が二人の入った部屋から伝わって来た。…なんというか、『二人が一人』になったような感覚だ。
やがてその感覚は消え、再度ドアが開かれた。すると-。
「-お待たせしました」
「…お待たせ」
「………」
出て来た二人の『姿』を見て、俺は言葉を失った。
まず、アイーシャさんだがその身長は平均的な成人女性のモノになりあどけなさのあった容姿は、美しい白銀のロングヘアーの『大人の女性』になっていた。
そして、一番の驚きなのがイアンさんだ。
まず、俺と同じぐらいだった身長は姉であるアイーシャさんと殆ど変わらない高さに激変しがっしりした頼りがいのある身体は、華奢な印象…『守りたくなる』ような細くしなやかなモノに変わっていた。…何より、精悍な顔はショートヘアーの似合う小動物のような可愛らしいモノになっていたのだ。
「…改めて、名乗らせて頂ます。
『ランスター傭兵姉妹』が姉。アイーシャ=ランスターです」
「…同じく、『ランスター傭兵姉妹』が妹。『アイン=ランスター』です」
二人はお辞儀をした後、対面のソファーに腰を降ろした。
「……いやはや、まさか『ジェドレン人』の方とお会い出来るとは思いませんでしたよ」
二人の衝撃のカミングアウトに、俺はそう答えるしか出来なかった。
-『ジェドレン人』。それは、この広い宇宙の中で『不可思議な能力』を持つ『ミラクルノイド』と呼ばれる人達の内、唯一『人種保護対象』に指定されている人達だ。
その理由は、名前の由来にもなっている『能力』…ジェドレン人の人達は必ず双子で生まれてくるのだが、なんと双子間で『身長や筋力』を貸し借り出来るのだ。
…これはまだ、銀河連盟が無く宇宙全域が無法地帯だった頃の話だがその時代の外道共によって相当な数の『連れ去り』が発生したらしい。
男性は、片方を交互に強化して戦力増強や労働力に。女性は…『胸糞の悪い扱い』の為に。
しかし、それに歯止めを掛けたのが数ある星系の中で素早く『一丸』となり外界に進出した『帝国』だった-。
「-確か、二番目か三番目に帝国の『庇護』を受けてそれからおよそ10年後に『保護対象』となったんでしたよね?」
「…やっぱり、恐ろしい程の知識量ですね」
「…良く知ってるね」
「……まあ、『一番最初に教わった』知識ですからね。恐らくは、出会った時に『揉め事』を起こさせない為だったのでしょう。
-現に、こうして平常心でいられる訳ですし」
「…私が、女だって事を知っても?」
イアン…いやアインさんは、少し不安な表情で聞いて来た。
「…?『姉妹二人』より『姉と弟』なら『割かし安全』なんですから、別におかしい事ではないと思いますが?」
「……え?」
「…むしろ、お姉さんを守る為の『努力』を積んで来た貴女には尊敬の念を抱いています」
「……っ」
すると、彼女は顔を伏せた。…多分、『いろいろ』とこみ上げて来たのだろう。
「…良かったら、これ使ってください」
「…ありがとう」
彼女は、俺がそっと差し出したハンカチを取り涙を拭った。
「…これ、洗って返します」
「…いや、多分これ『良いやつ』ですよ……」
妹が申し訳なさそうに言うと、姉が小声で忠告した。…まあ、確かに高品質で高級感溢れるハンカチだが、実際は-。
「-あ、それ見た目こそ『それっぽい』ですが手入れは至って普通の方法でやってますよ?」
「…っ!…す、すみません。
…って、え?」
「…肌触りも良いし、吸水性も良いし、見た目は品も良さそうなのに?」
「いやー、その感想『お隣』の『生産者』と『職人』に伝えあげたいですね~」
「…まさか、『グリンピア』産なんですか?」
「ええ。そのハンカチは『生まれも育ち』も、私と同じです。…まあ、元々は作物とかと同様『星産星消』な品だったんですが帝国の『友』となった際に他のモノと一緒に『外』に出す事にしたんです。
けど、まさか地元で愛用していたモノが他のどの場所で売られているモノより質が良いとは思いもしませんでしたよ」
「…いや、マジでそれなんですけど。
…流石にこういう場所のタオルとか良いモノですが、普段使いのモノはなかなか『安くて良いモノ』に巡り逢えなくて……」
「…タオルにも、良い思い出が無い」
途端に二人は悲痛な表情になった。…苦労して来たんだな。
なので俺は、『確実に複数持ってそう』な人に連絡を送った。
「…?どうし-」
『-はい、こちらクルーガーです。どうかなさいましたか?』
直後、ツーコール目で当人がエアウィンドウに映し出された。…その顔には、ついさっきまで大勢のインタビューアーに囲まていたとは思えない程心からの微笑みが浮かんでいた。
「「……っ!?」」
「あ、お休みのところすみません…。…今、宜しいですか?」
『勿論ですわ。…ところで、今大丈夫ですの?』
すると、女史は嫌な顔一つせずに応えたかと思ったら少々心配そうな顔をした。
「ええ。『シークレットルート』で会場を出て少し遠回りしながら送って頂いたので。
…それで、今は『ランスター姉妹』のお部屋にお邪魔させて貰っています」
『良かった……はい?あ、あの今-ランスター姉妹-と仰いましたか?』
ほっとした直後、女史は驚愕の表情でこちらを見た。
「はい。つい先程、彼女達から打ち明けて頂きました」
そう言って、俺はエアウィンドウを反転させる。
「「…こ、こんばんは、クルーガー『お姉様』……」」
『………。……なるほど、二人はオリバーさんの-秘密-を解き明かしたのね?そして、その代わりに自分達の-秘密-を明かしたと…』
流石というべきか、女史は少し唖然とした後瞬時に事情を把握した。
「「…はい」」
『…貴女達が彼の秘密に気付いたのはさほど驚きはしませんが、まさか初対面の彼にそこまで打ち明けるとは……』
「「……」」
女史がそう言うと、当然二人は何か言いたげな顔になった。
『……?』
「あ、厳密に言うと今日を入れて『五回』会ってますね」
『……はい?』
なので、再び画面を反転させて指で『4』を作った。すると、案の定女史はきょとんとした。
「まず、イエロトルボの首都惑星ファストフラシー郊外にある記念公園で二回。同惑星エネルギープラントで一回。場所は変わり大会二週間前に此処の史料館で一回。
そして、今を入れて計五回です」
『…此処で出くわすのは分かるけど、ファストフラシーで三回も会っているの?…あ、そういえばあの公園には-キバ-の像があったわね。
…でも、なんでエネルギープラントで……あ』
そこで女史はハッとした。…まあ、かなりの騒動だったから当然だろう。
「…実は、その時危ない所を助け貰ったんです」
「…彼があの場に居なかったら、きっと…いや間違いなく私達は此処には居なかったでしょう。
そればかりか、『受け継いだモノ』も永遠に失われていたハズです。
だから、『感謝と信頼の証』としての意味も込めて秘密を明かしたんです」
『…ニュースを聞いてもしやと思っていましたが、まさか貴女達があの場に居たなんて……。
…オリバーさん。彼女達を救って頂きありがとうございます』
クルーガー女史は、深く頭を下げ心からの感謝の言葉を述べた。
「…私はただ、『要請』を解決しただけですよ」
『…それでも、どうかお礼を言わせて下さい。いえ、是非ともお礼をさせて下さいませんか?』
「(…本当に二人の事を『妹』のように大切にしているんだな。)…でしたら、『二つ程』お願いがあります」
俺は、女史の顔を立てる意味でも要求を出す事にした。
『…っ!何でしょうか?』
「…一つは、そもそもの要件でもある『グリンピア製』のハンカチとタオルセットを『彼女達』にプレゼントして欲しいのですが、宜しいですか?」
「「……へ?」」
突然自分達の事が出たので、二人は揃って間抜けな声を出した。
『…本当に、お祖父様そっくりですね。
…分かりました。至急、用意させましょう。
-というか、一言相談して欲しかったのですけどね?』
「「…うっ」」
頼られたかった女史の言葉に、二人は気まずそうにした。…まあ、俺みたいに神経図太くないと気軽に連絡は出来ないよな。
『…はあ、-お姉さん-は悲しいです』
「…まあまあ、そのくらいで。
それで、二つ目ですが女史のお知り合いに『口の固い精密作業の得意』な方って居ますか?」
『っ!失礼致しました…。
……?……っ、なるほど。-アレ-専用の職人をお探しなのですね』
フォローを入れると女史はハッとした。そして、直ぐに『要望の真意』に気付いてくれた。…ホント、話しが早くて助かるな。
『…そちらの方は、申し訳ありませんが少々時間を頂きます』
「宜しくお願いします。
それでは、夕食にて」
『はい-』
「…という訳で、タオル問題は解消-」
「「……」」
通信を終え顔を上げると、二人は固まっていた。
「…どうして、貴方はそこまで『優しい』んですか?」
「…育った環境ですかね?
グリンピアみたいな『地方』は助け合いが基本ですし。…例えば、近所の子供が遅くなっても帰宅してなきゃ大人が総出で探しますし誰かが倒れていたら用事よりもクリニックに連れていく事を優先します。
そして、近くのプラントで害獣が出れば周りは夜通しの見張りや退治を手伝ったりするんです。
そんな事を俺は子供の頃からやっているんですよ?ましてや、貴女達は言わば『親戚みたいな人達』だ。
助けるのは当然ですよ」
「「……」」
俺の持論に、彼女達はただ呆然とするだけだった-。
-この時はまさか、もう一度この言葉を言う事になるとは知る由もなかった。