-それから時間は流れ、大会初日。俺はとある場所のラウンジでガイドの人が来るのを待っていた。
「-隣、宜しいですか?」
「勿論ですよ」
すると、品のある服装に美魔女…クルーガー女史と出くわした。
「ありがとうございます。…ああ、ちなみに『お二人』は既に『下』に向かいましたよ」
優雅な立ち振舞いで隣に座る女史は、俺の疑問の視線に気付いたのがこの場に居ないお二人の事を説明してくれた。
「…え、もう向かわれたんですか?…ひょっとして『何かしらの催し』とかでも行われるのでしょうか?」
まあ、多分はぐらかされるだろうが一応聞いてみる。
「……さて、私は何も聞かされていませんね」
すると、女史はなにやらぷるぷるしながら『知らんぷり』をした。…完全に、『本能と理性』の狭間で揺れているな。
今日までの『分析』で女史の『素顔』はだいたい把握出来ているので、この反応は『正解』だという事だ。
「……ふう。貴方には、つくづく『恥ずかしいトコロ』を見せてしまいますね……」
ようやく落ち着いた女史は、右の肩に乗る芸術のように編み込まれた髪の毛先を弄りながら艶やかなため息を吐いた。…ホント、仕草の一つ一つが絵になる方だ。
俺は見惚れつつ、けれども首を振った。
「『恥ずかしい』だなんてとんでもない。…だって貴女はまるで家族のように『祖父のセカンドライフ』を喜び、そして『星になった日』の事を哀しんでくれた。
私には、どうしようもなく『その心』が嬉しいんです。…だってそれは、『祖父が愛されていた』何よりの証なのですから」
「…はあ、どうして貴方はそうも『全力肯定』なのですか?これでは、ますます『抑え』が利かなくなってしまいますよ…」
…うわ~、すげー。
「-ご歓談中失礼します。クルーガー様、ブライト様。そろそろ開会式となりますので、『会場』にご案内致します」
潤んだ視線を向けられ、至福の一時を過ごしているとガイドの人が二人現れた。…ちなみに、この場所は会場の二階上にある『専用ラウンジ』となっているので利用出来るのは三方と俺だけだしスタッフは全て会長の邸宅の使用人の人達なので秘密もしっかり守られる素敵仕様だ。
「ありがとうございます」
「それではオリバーさん。また後程」
「はい-」
そして、先に女史が女性スタッフの案内でラウンジを出て俺はその後に男性スタッフの案内で会場に向かった。
-…おお。
会場に入ると、既に四方向の観客席は満席になっており競技スペースも『中央』を除き大量の参加者でごったがえしていた。すると、直後に会場の明かりが落ちた。
『-レディースアンドジェントルメーン!さあ、今年も『熱き戦いの刻』がやって参りました!
果たして、-伝説に至る手掛かり-は誰が掴むのかっ!?
それでは、只今よりポターランカップを開催致します!』
アナウンスが開催を宣言すると、観客席からは勿論選手達も歓声を上げた。
『さあ、まずはいつものように予選を始めますが…。…その前に-ゲスト-達によるパフォーマンスを行います!』
『-っ!…あ、あの二人は…』
直後、中央に二つのステージが出現しその上にはマオ氏とジュール氏が立っていた。…うわ、別人だな。
その顔は、普段の時とは違う『プロ』の表情になっていた。…すると、マオ氏のステージには全身にプロテクターを装着した五人のスタッフが。ジュール氏のステージには複数のスタッフがデカく四角いオブジェクトを運びながら登壇して来た。
『-それではお二方。お願いします!』
『はあーっ!』
それが合図となり、五人のスタッフは一斉にマオ氏に攻撃を仕掛ける。…しかし-。
マオ氏はまるで煙の如くその場から消え、直後に三人のスタッフが膝から崩れ落ちる。
「「…っ!…ぐはっ!」」
残り二人はすぐに背中合わせになり警戒するが、数秒後には二人仲良く吹き飛ばされた。…早い。殆ど見えなかった…。
「-はあっ!」
冷や汗を流していると、両手に頑丈なグローブを装着したジュール氏は掛け声と共にオブジェクトを殴った。すると、重量のあるそれは一気に後ろにずれた。
「せいっ!」
更にジュール氏は、オブジェクトに向かって駆け出し直前で大きくジャンプし上からそれを殴った。…そして、彼が綺麗に着地した次の瞬間。
『-ワァァ~っ!』
オブジェクトには大きな亀裂が入り、キレイに四つに割れた。…ただ力任せに殴ったんじゃない。マオ氏同様、あれも『アーツ』なんだろう。
『やはり、レジェンドは魅せてくれます!今一度、お二方に盛大な拍手を!』
『……』
会場には割れんばかりの拍手が鳴り響く一方、参加者達は一様に沈黙した。
『さあ、それでは改めて予選会を開始します!
ルールは簡単!制限時間以内に-此処-に戻ってくればクリアです!』
『……っ!』
…来たか。
本当に簡単な説明の直後、突如競技スペースが『降下』を始めた。…そう、スタート地点はこの真下の『地下5階』なのだ。しかも-。
『-っ…』
降下が始まって数分。選手達に『負荷』が掛り始めた。それは、徐々に増していきスタート地点にたどり着く頃には俺を除く『初参加』の選手達は皆険しい表情を浮かべていた。
『……』
しかし、お三方を始めとする『常連勢』は涼しい顔でスタートを待っていた。そして、ついにエレベーターは停止し直後天井が閉じられた。
『-カウント、10。
9、8、7、6、5、4、3、2、1…-』
すると、天井にエアウィンドウが展開しカウントダウンが始まった。
『-GO!』
『うぉぉーっ!』
そして、カウントダウンが終了し四方向にある特大『ゲート』が一斉に開き参加者達は四つのグループに別れてそこになだれ込んだ。ちなみに俺は、『③』のゲートからスタートした。
-そこは、果てしなく長い通路が伸びるだけのルートだった。どうやら持久力コースを引いたらしい……と、思うだろうが『大会資料』を念入りに調べた俺は走りながら周囲を警戒する。
『-うわっ!?』
直後、床は振動を始め前を走る選手達の大半は足を止めてしまう。
「(…このパターンは。)…よっ!」
俺は一瞬助走を付ける為にペースを上げて、思い切りジャンプをした。そして、壁から生える『滑り止めが巻かれた出っ張り』に掴まった。
『-うわー……』
数秒後。突如床は『真っ二つ』に割れまるで急勾配な坂のようになった。当然、下にいた参加者達はずるずると滑り落ちて行った。…そして、床は何事もなかったかのように元通りになった。…良し。
それを確認した俺や常連勢は、次々と床に降り走り出した。
『……』
すると、並走する常連勢はやや驚きの混じった視線を向けて来た。…ふはは、『こんなん』で驚いていると-。
『-っ…』
若干良い気分になっていると再び床が揺れた。なので、俺は再度助走を付けて出っ張りに掴まった。…しかし、直後出っ張りは『壁から外れた』。どうやら、『ハズレ』を引いてしまったようだ。
だが、俺は慌てずに背負っていたロングバトンを壁と床に出来た『隙間』に思い切り差し込み脱落を回避した。
『…っ!』
常連勢の一部は、驚愕しながら滑り落ちて行った。
『-……』
そして床は閉じ、残った常連勢も俺を驚愕の眼差しで見た後また走り出した。…いやー、『持って良かったロングバトン』だな。
俺は良い気分でロングバトンを背中に戻し、『勢い良く』走り出した。…何故なら-。
『-残り人数、1000以上を確認』
突如、天井から淡々としたアナウンスが流れたかと思ったら直後壁や床から大量の『マジックバンド』が飛び出して来た。