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二日目-油断-


-はあ、良い時間を過ごしたな~。

 それから時間は流れ、そろそろ春の半分を過ぎた日の夕方。星系防衛軍基地を出た俺はのんびりと街中を歩いていた。…まあ、『街のマップの記憶』という準備をしているのだが半分は初めて来る場所の観光も含まれている。…えっと、確かこの辺りに-。

 一度ガイドマップを見て、該当箇所を探す。すると、目的の物…『非常用』と書かれた深紫の箱を見つけた。

 ちなみに、中には『過負荷遮断装備』が入っている。…さて、目印は……あれだな。

 俺は近くにあったデカイ看板と共にフォトを撮り、エリア番号をデータに添付する。…良し、これでサウスエリアは完了だな。……?

 アプリを閉じホテルに帰ろうとすると、ふと視線を感じる。しかし、嫌な感じはしなかったのでスルーを決めた。

 …すると、俺に視線を向けた何者かはこちらに近付いて来た。


「-あの、ちょっと宜しいですか?」

「…はい?…っ!」

 そして、その人物は穏やかな声で声を掛けて来たのだが…その顔を見て俺は驚く。

「…あ、驚かせちゃったみたいですね。ごめんなさい」

 艶やかなエメラルドのセミロング髪とスカイブルーの瞳を持つ美女は、申し訳無さそうにした。

「…いや、本当にびっくりしました。

 -まさか、『キャプテン・クルーガー』に声を掛けて頂くとは夢にも思わなかったものですから」

「…あら、良くご存知ですね?」

「…まあ、『ライバル』の事は調べてますから」

 そう、彼女は今回の大会の『優勝候補の一人』にして『争奪戦の最有力候補の一人』であるベテラントレジャーハンターの、『フレイ=クルーガー』その人なのだ。


「…へぇ、貴方も参加するんですね?」

「はい。…『デビュー』するにもおあつらえ向きですから」

「………」

 俺の大それた発言に、女史は何故か嬉しそうな笑みを浮かべた。……あ、そういう事か。

「…ねぇ、貴方のお名前を聞かせてくれないかしら?」

 一人で納得していると、案の定女史は『最終確認』をしてくる。

「-『ヴィクター=ブライト』の孫、オリバー=ブライトと申します」

「…っ!やっぱり、『ヴィクター様』のお孫さんだったのね…」

 そう名乗ると、女史は泣きそうな顔になった。

「…『祖父の素顔』を見た事があるんですね?」

「…ええ。まだ、私が若輩者の頃に『信頼の証』として拝謁させて頂いた事があります」

 女史は、懐かしむように語る。…ガチファンだ、この人。


「…はあ。先程お見掛けした時はまさかと思いましたが、『決意表明』の際に見せた『勇猛果敢』な表情は瓜二つでしたよ…。…さぞ、会長殿も驚いた事でしょう」

「…なるほど。私の他に招いた『VIP』と言うのは女史を含めた『お三方』の事だったのですね」

「…その通りです。

 -しかし、貴方まで来ているとなると間違いなく大会は『大荒れ』でしょうね…」

 女史は上品なハンカチで涙を拭い、表情を引き締めて言った。

「-間違い無いでしょう」

「…右に同じく」

 すると、いつの間にか近くにいた壮年の男性と白髪のご老人が同意する。…おわ、壮観だな。

『ビッグ3』が同じ場所に揃っている事に、俺は興奮する。


「…まずは、ご挨拶を。

 私は、『ロイド=ジュール』と申します。初めして、『お孫殿』」

 すると、壮年の男性…『キャプテン・ジュール』さんは名乗った後手を差し出した。…うわ、皮膚分厚っ……。

 握手した瞬間、熟練の人間特有の手の感触が伝わって来た。

「…ワシは『アーロン=マオ』だ。…なるほど。

 良い『クンフー』だ」

 次に白髪のご老人…『アーロン=マオ』氏が名乗りニヤリと笑いながら『俺のスキル』を見抜いた。

「…あら、老師が褒めるなんて珍しいですね」

「もしかして、君も何か戦闘術…『アーツ』を習得しているのかな?」

「えっと-」

 ジュール氏の質問に答えようとしたその時。四人のツールが一斉に鳴った。


「-…立ち話もなんですから、続きは『道中と向こう』でするとしましょう」

「…これは失礼。確かに、落ち着いた状況のほうが良いでしょう」

「…では、大型車を手配させるとしよう-」

 恐らく…いや確実に『同じ要件』なのでお三方は意見をまとめ年長者のマオ氏が『迎えの人』に連絡をした。…なんか、凄い事になったな。

「-…ふむ、流石に急だったか。

 どうやら、来るのが少し遅くなるようだ」

「…まあ、向こうもまさか我々が一同に会しているとは思いもよらなかったでしょうね」

「…となると、何処か時間の潰せる場所は-」

 しかし、どうやら直ぐには迎えは来ないようだ。すると、ジュール氏とマオ氏は申し訳なさそうにしクルーガー女史はガイドマップを開いた。…すげー、これが『ベテラン』か~。

「…あら、どうされましたか?」

「…何かありましたか?」

 尊敬の眼差しを向けていると、クルーガー女史とジュール氏はきょとんとした顔をする。

「…いや、なんと言いますか『あるべき姿勢』を学ばせて貰っている所です」


「「………」」

 すると、お二方は顔を見合せ再びこちらを見た。

「…あの、恐らく何度となく確認されていると思いますが……。

 本当にヴィクター氏のお孫殿なのですか?」

「…私も、少し自信がなくなって来ました」

 …一体、何を仕出かしたんだ祖父ちゃん?

「…こら二人共、流石に無礼が過ぎるぞ」

 内心で頭を抱えていると、マオ氏がお二方を窘めた。

「…あはは、お気になさらず。祖父の破天荒さは『閣下』より聞き及んでおりますので」

「…そうか。

 ところで、『場所』は見つかったのか?」

「あ、はい。どうやらあちらに喫茶店が-」

 -っ!?

 クルーガー女史が指を指しながら説明するなか、ツールが『三回』振動したので即座に確認する。

「……?どうしたんですか?」

「…たった今、祖父から譲り受けた『船』から『警戒コール』が届きました。…どうやら近くで『保険』が作動したようです」

 説明しつつ俺は周辺を確認する。…すると、直ぐに『見つけた』。


「-っ!お、お前それ俺の『エントリーカード』っ!?」

「…くそ、なん…で……」 

 視線の先では、参加者と思われる男性が『目の前で見えない何かに押さえつけられている』男を驚愕の目で見ていた。

「…まさか-」

「-ふんがっ!?」

「おい、大丈夫…っ!?あ、テメぇまさかそれはっ!?」

 女史が瞬時に察した直後、後ろで『同様の事』が発生した。

「…なんと、姑息な手段を……」

「…外道が……」

 女史とジュール氏は、途端に険しい表情をした。

「…驚いた。まさか、『仕込んでいた』とは…」

 一方、マオ氏は感心した表情で俺を見た。

「…まあ、一番『予想し易かった』ので仕込んでいたっ!……んですよっ!」

 俺は心底呆れながら、道路の反対側にはビームガンの片方を。後ろには『コイン』を投げた。


「「-いぎゃっ!?」」

 片方の頭には重量の増したビームガンが命中し、片方は全身が痺れたようで一瞬で気絶した。

「…とりあえず、『通報』しますね-」

「-どうされましたかっ!?」

 ツールに基本搭載されている『通報アプリ』を起動する直前、ちょうど巡回をしていた地上警備チームが駆け付けたようだ。…あ-。

「っ!コイツが、俺のエントリーカードを盗りやがったんだっ!」

 アプリを起動し反対側の道路を見ると、いの一番に駆け付けたウェンディ少尉が参加者の男性に事情を聞いていた。

「…っ。……え?」

 少尉はハッとしカードを盗んだ男に近く。…そして、頭の付近に落ちていたビームガンを見て唖然とした。

「-あ。それ俺のです(…いやー、『敵』の事笑えないな…。完全に油断してた)」

 どのみち正体を明かすつもりでいたとはいえ、自分の迂闊さに思わず苦笑いしながら少尉に声を掛けた。

「……。…協力に感謝します」

 少尉はゆっくりと後ろを振り返り、ほんの数秒俺の顔を凝視する。しかし、直ぐに少尉はビームガンを俺に返し敬礼した。

「(…おお。流石は『条件を満たしている』だけあって切り替えが早い)…あ、ちなみにあっちにも居るんでお任せしても?」

「…っ。分かりました。

 …あ、こちらをご確認下さい」

 少尉は頷くと速やかに男を拘束し、既に効果の切れたエントリーカードを回収し持ち主に返した。


「…ありがとよ。えっと、事情聴取は基地の方でやるんだよな?」

 彼は、エントリーカードを大事にしまい少尉に聞く。

「あ、はい。…そうですね、宜しければ車両付近にてお待ち頂けますか?」

「分かった」

 彼は了承し警備隊車両に向かった。…そして、少尉は再度こちらを向く。

「…勿論、私も立ち会いますよ。

『お話ししなければならない』事もあるので」

「………お願いします」

 少尉は少し間をおいてから頷き、もう一人の拘束に向かった。


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