-…おわー、スゲぇ……。
エントリーを終えた俺は、スタッフさんの運転する車でとある場所…『豪邸』に来ていた。しかしながら、目の前に佇む屋敷には品格を感じた。
「…オリバー様。どうぞ」
「…あ、はい」
『-ようこそお越しくださいました』
呆然としながらとスタッフに続き玄関をくぐると、男女の使用人達がお辞儀をしながら出迎えてくれた。…なんか、別世界だな……。
俺は恐縮しながら彼らの間を通り、二階に向かう。そして、陽当たりの良さそうな部屋に通された。
「-っ!…驚いた」
すると、この間の『ビデオレター』に登場した豪快な老人…『ファロークス運送創業者』のカール=ファロークス氏が驚愕の眼でこちらを見た。
「…初めまして、カール=ファロークス会長。私は、ヴィクター=ブライトの孫のオリバー=ブライトと申します。
今回はお招き頂き、誠にありがとうございます」
「…おう。…顔は若い頃のアイツそっくりじゃが、中身は別人じゃのう」
とりあえず挨拶すると、またしても会長は驚いた。
「…あ、そうだ-」
俺はスタッフの人を見る。すると、彼は頷きおれが預けていた『よさげな包み』を返してくれた。そして、俺は包みを取り除き中身を見せた。
「-つまらない物ですが、良かったら」
「……こいつは驚いた。こりゃ、ナイアチの『薬酒』じゃな…」
何を隠そう、俺が持って来たのは『長寿大国』の異名をもつナイアチの薬酒だったのだ。
すると、会長はまじまじと俺を見た。…あ、このパターンは-。
「-…お前さん、ホントにヴィクターの孫か?まさか、挨拶の品…それもワシを『二つの意味』で気遣って『薬酒』を持って来るとはな……」
やはりと言うか、会長は祖父ちゃんと俺の血縁関係を疑った。
「…良く言われます。
でも、間違いなく俺は『ヴィクター』の孫です。その証拠に-」
俺はポケットから、『コンパス』を取り出した。
「-っ!?こいつが例の…。…確かに『この光』は間違いなく『あの星』の色と同じじゃな」
そう。実はこの惑星に来た時からこのコンパスは、淡く発光していたのだ。多分、彼の所持する五つの『ロストチップ』に反応しているのだろう。
「…いやはや、良い物が見れたのう。
-さて、そいじゃそろそろ『本題』に入るかの」
コンパスをポケットに戻すと、会長はベッド脇の小物入れからゴツい深紫の宝石があしらわれたブレスレットを取り出した。…まさか。
「…その通り。こいつがヴィクターから『預かったモノ』を入れとる倉庫の鍵じゃ。ほれ」
「…お借りします」
会長が差し出したそれを、俺は恐る恐る受け取った。…あれ?
しかし、受け取った瞬間違和感を感じた。
「…お、流石に気付いたようじゃな。
お察しの通り、装飾の宝石は『鍵』とパチモンじゃしなんなら本体も安物じゃよ」
「…なるほど。『本物の中に隠した』んですね?」
「正解じゃ。…まあ、そんな事せんでも此処に忍び込むヤツはおらんのじゃが『ここ最近の情勢』から考えて、『不測の事態』は起きるかもしれんと思って急遽用意したんじゃ。
まさか、『富の証』の中に『真に大事なモノ』が入っとるとは『敵』も予想出来んじゃろ」
…スゲー、相手の心理を逆手に取た見事な策だ。
「…フフ。
あ、ちなみに入り口は『他』と合わせてこの部屋に作っておる。…さて、探してみぃ」
すると、会長は突如謎を出して来た。…やれやれ、流石は『祖父ちゃんの友人』だな。
気付けば、俺は『ニコニコ』しながら部屋を見渡した。それと同時に記憶の『サルベージ』を始める。
『-その船は、-翼-を持たないにも関わらずまるで-牙-の如く宇宙を駆け抜ける。何故なら、その船は-角-の力によって小さな星達を集め道を作る事が出来るのだから』…つまり、『角』か『道』に関わるモノが『アタリ』だな。
-っ!
ノベルの一節をサルベージした直後、視界に『それ』…お金持ちの家には必ずある『剥製』が飛び込んで来た。…あー、流石『祖父ちゃんの友人』だな……。…てか、『イエロトルボ』に近いパターンじゃないか……。
その『角の剥製』はまんま『とある動物』…故郷のライシェリアのお隣の惑星の『主力家畜』のモノだった。
「…はあ、やっぱり『そういう表情』になるか。だから、『安直』なのは止めとけと言ったんじゃ…」
思わず頭を抱えていると、意外な事に会長は俺と同じ考えのようだった。
「…もしかして、『これ』を考えたのは祖父と別の方が?」
「…ああ。原案を考えたのはヴィクターのヤツじゃが、それを形にしたのは『ランスター』のアホ娘じゃった」
「……はい?
あの、『ランスター』って事は『ランスター』傭兵姉弟の親族の方ですか?」
意外な名前が出て来たので、びっくりしながら聞いてみる。すると、会長もやや驚いた顔をした。
「…その口ぶり。お前さん、アイツの孫に会ったのか?」
「…はい。イエロトルボの一件で」
「…やはり、あの『事件』を解決したのはお前さんじゃったか。…しかし、まさか既に会っていたとはのう……。やはり、『縁』と言うは不思議じゃな…。
…実を言うとな、ヴィクターとランスターとワシは秘宝争奪戦の『最有力候補』なんじゃよ」
「…っ。なんとなく予想してましたが、やはりですか…」
「…じゃが、ヴィクターもランスターも既に『星』となりワシにも間もなく『迎えの船』が来る。
しかし、ワシらの『優位』は未だ揺るがない。…何故だか分かるか?」
「『後継者』に『全て』を託したからですね?」
その問いかけに俺は自信を持って答えた。
「…その通り。
それぞれが持っとった『手がかり』と『探知機』は、キチンと渡しておる。
つまり、ワシらは『星』になっても決して『有象無象』に遅れを取る事はないんじゃよ」
…やっぱり、この人祖父ちゃんの『友人』だ。だってスゲー負けず嫌いなんだもの。…しかし、なんでこんなにも『普通の人達』に渡る事を良しとしないのだろうか?
「…おっと、つい話し込んでしまったの」
ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ時会長のベッドからアラームが聞こえて来た。
「(…主治医の検診かな?)いえ、とても貴重なお話でした。…ますます、大会が楽しみになりました」
「…そうか。そういうところは、アイツそっくりじゃ。…やれやれ、『後数年』早く生まれとれば三つ巴になったんじゃがな~。じゃから、早く嫁を娶れと言っとったのに…」
ふと、穏やかな微笑みを浮かべたかと思えば会長は不満を呟いた。
「…ひょっとして、会長の『後継者』の方は参加されないのですか?」
「…ああ。参加条件である『20歳』にギリギリと届いてないからの。じゃから、『代理』を出す事になった」
「…なるほど。ちなみに、どんな方ですか?」
「ちょっと待っとれ-」
会長は、小物タンスからタブレットを取り出し少し操作した。
「-ほれ、こいつじゃ」
そして、タブレットを渡しその人の画像を見せてくれた。…おお、これはまた。
そこには、ガタイの良い男性が写っていた。
「そいつはミュラー=クレイグ。そんな見た目をしとるが、ウチのNo.3じゃ」
「…え、てっきり現役の方かと思ってたんですけど……」
「まあ、重役になった今でもトレーニングは欠かしてないからの。
それと、こいつの他に『貨物警備』の連中も『運営』として出すつもりじゃ」
「…良いんですか?そんな情報を頂いて…」
「なに、どうせ後で参加者に伝える情報じゃしな。…それに、『分かっていた方』が『方針』も決まるじゃろ?」
「…っ。なるほど、これも『VIP待遇』の一つと言う訳ですか。
お心遣い、感謝します」
「…なに、お前さんには『いろいろ』と期待しておるからの」
「(…そうか。『荒事』の対策を整える…って意味もあるのか。流石は商売人だな。)
あ、それじゃあそろそろ失礼します。…えっと-」
「-ああ。『連絡』は入れとるから心配は要らんぞ?それに、『用事』も直ぐに終わるからの」
会長はこちらが言わんとしている事を察して、過不足なく答えた。
「ありがとうございます」
俺は会長にお礼を言い、『鍵』で隠しドアを開け『そこ』に向かった-。