-その日。地震とは無縁の宇宙に激震が走った。
『-運送ギルドの本拠地ポターランの首都惑星-ファスイボコ-にて毎年行われる、超人達の祭典-ポターランカップ-。
今年の優勝商品はなんと、秘宝-の手掛かり入りロストチップっ!』
その情報は瞬く間に宇宙全土に広がり、『秘宝』を追い求める者は勿論『観客』に腕を売り込みたい者や、腕試しをしたい者等様々な目的を持つ者達がファストイボコに集まった。
…しかし、彼らの大半は知らない。
その大会を『ならず者』が狙っている事を。そして、自分達が『盛り上げ役』であるという事を。
○
『-マスター、そろそろ時間です』
「分かった。…ふう」
いつもの日課をしていると、アナウンスが流れた。…やれやれ、続きは翌日からだな。
仕方ないので、俺はさっさと汗を流し身支度を整えてコクピットに向かった。
「-マスター、通信です」
「繋いでくれ」
そしてコクピットに入ると、ちょうど『約束の時間』になり『迎え』からの連絡が来た。
『-こちら、ファロースク運送です。宜しくお願いいたします』
「こちら、カノープス号です。こちらこそ、宜しくお願します」
すると、メインモニターにデカイ船が映し出されパーソナルモニターには船長らしきガタイの良い男性が映った。
『それでは、誘導致しますので-お乗り下さい-』
すると、貨物船前方のライトから誘導用のビームが照射されたので、スラスターでゆっくりと向かう。
『-格納完了。エンジンをお切り下さい』
そして、船の貨物エリアに入ると下からアームが伸びて来てしっかりと固定してくれた。なので、言われた通りエンジンを停止した。
『エンジン停止確認。改めて、ようこそファロークス運送特急船-タフスホーン-号へ。
それでは、このままファストイボコまでお送り致します』
「お願いします-」
そこで通信は切れ、それから数十分後にはファストイボコの宇宙港にて船の人が手続きを代行してくれたおかげで非常にラクが出来た。そして、一旦貨物船を降り『会社専用』の軌道エレベーターに向かった。…うわー。あっちは凄い人の数だな。
その道中、一般の軌道エレベーター前は早朝にも関わらず人でごった返していた。…俺はなんか申し訳なくなりながらそこを通過し、ギルド専用の軌道エレベーターに乗って地上に降りた。
-…おお。
エレベーターステーションを出ると、真っ先に街全体に広がる『水色の地面』を見て感動した。
これこそ、半世紀前まで『過負荷の銀河』と呼ばれるほど過酷な『過重環境』だったこのポターランを、『輸送の銀河』に変えた奇跡の地面。…その名も『S.Sロード』。つまり、『真っ直ぐ立って歩ける道』って事だ。いやー、『名物』が見れただけでも此処に来たかいはあるなーっ!
「…プラトー様、宜しけば後程『フォトスポット』にご案内致しましょか?」
ご機嫌になっていると、今回俺に同行してくれるスタッフの人が聞いて来た。
「っ!是非お願いしますっ!」
「畏まりました。それでは、エントリー会場にご案内します」
「ありがとうございます」
そして、スタッフの案内の元ステーション近くのエントリー会場に向かった。すると、少しして賑わい声が聞こえて来た。
『-ポターランカップ参加はこちらで行っておりまーすっ!』
『五列でお並びくださーいっ!』
「…それでは、エントリーが終わりましたらお呼び下さい」
「分かりました(…しかし、朝っぱらからスゲー人数だ)」
彼と分かれた俺は係の人の誘導に従い列に並び、チラリと周りを見渡す。
「-うわ。スゲー数…」
「…やっと降りれたと思ったらまた行列か。…じゃあ、『さっきの続き』でも話してるか」
ギラギラとした顔をしている参加者達を見ていると、俺の左横に二人の男性が来た。
「…えっと、確かブルタウオウの水賊騒動が収まった所まで聞いたんだったな」
すると、一番右端の列に並ぶ男性がわりとタイムリーな話題を口にした。
「そうそう。…んで、その後がなかなか衝撃的なんだが……。…なんと、帝国政府とブルタウオウ政府は連中を第一惑星の『海洋調査隊』として『雇う』事にしたんだ」
「…っ、マジで?…その水賊、非加盟エリアの武器商人とつるんでヤバい事をしようとしてたんだろ?」
「…いやいや、その情報にはちょっと誤りがあるんだな」
隣の男性は非難するが、相方の男性は即座に否定した。
「…へ?」
「…実は、水賊側は武器商人…リゾートに来ていた重役の男に騙されていた事が分かってな。まあ、要はそいつに良いように利用されていたんだ。しかも、そいつは身分までも偽っていたらしい」
「…?何でそんな事を?」
「…これは未確定情報なんだが、なんでもその水賊達は元々別の星系…それも非加盟エリア出身なんだが武器商人同士のいざこざで職を失った人達の集まりらしいんだ。つまり、武器商人に酷く恨んでいる集団なんだよ」
「…確かにそりゃ、身分隠さなきゃ命が危ないな。しかし、そこまでしてその重役は何がしたかったんだ?」
すると、相方に聞かれた彼は電子メモを取り出した。
「…確か、三つ程あった筈だ。
えっと、一つ目は新商品のテスト。…なんでも、『ステルス装置』と『殺傷武装』の試作品を水賊に渡していたらしい。
当然、両政府には許可は取ってないから密輸してな」
「…うわ。その時点で重罪じゃないか……。…ちょっと待て?その重役は武器商人って事を黙っていたんだろ?
どうやって『渡し』たんだ?」
「…なんでも、秘書を水賊達に『保護』させて『お礼』と称して渡していたようだ」
「…なんて綿密な。…そういや、首領には愛人がいたんだったな。なるほど、『同情心』を誘った訳か。
…俺だったら、人間不振になるな」
「…それだけだったら良かった…て言い方もあれだが、もっと酷い事実があるんだ」
「……?」
「…その試作品、『殺傷武装』の方だが安全テストは行われていなかったんだよ」
「………は?…っ、まさか、『モルモット』にしたっていうのか?」
「…恐ろしい話しだよな。下手をすれば、水賊は勿論物資輸送船や乗組員、討伐任務の警備隊の全部が『星』になっていたのだから」
「………。…?
…て、事はその『殺傷武装』が渡される前に終息したのか?」
「…そこん所の情報は、どれだけ探っても『噂』さえも出て来ないんだよな~。
こりゃ、かなりの情報規制が掛けられているだろう」
「…なら、しょうがないか……。
んで、残りは?」
「…えっと。
あ、二つ目は水賊に強奪させた『生』の食材や化粧品なんかの嗜好品を非加盟エリアで売り捌こうとしていたんだ」
「…うわ、キッチリ利益を考えてるな~。確かに、銀河連盟で出回ってる『生モノ』や嗜好品は向こうじゃ一つ売るだけでかなり稼げるからな~。
しかも、関税してないから利益しか出ないと…。…えげつな」
「…もっとえげつない話しがあるぞ?」
若干引いている相方に、彼は神妙な雰囲気を醸し出しながら言った。
「…なんだ?」
「…三つ目にやろうとしていた事。
それこそ、その重役が真にやろうとしていた事だ。…実は、そいつの所属する『会社』は黒い噂の絶えないトコらしくてな。
『ヤバい薬』とか流してたりとか、『ヤバい組織』と繋がっているとか…とにかくそんな噂が流れているんだが…。
その中でも、特にヤバい噂は『人身売買』をやっている可能性があるんだよ」
「………」
あまりの衝撃に、相方は言葉を失った。
「…つまり、だ。その重役は最終的に水賊を使って『観光客』の中にいた『か弱い人達』を拉致し、『それ』で利益を得ようとしていたらしいんだよ」
「…マジかよ。…あ、でも『お人好し』なそいつらが果たして言う通りに動くのか?」
「…そこでさっきの秘書の出番だ。
なんと、その重役は『リゾートエリアにいる観光客は-罪無き人達を食い物にしている極悪人-』ってデマを秘書を通して連中に吹き込んだのさ」
「…確かに、それだったら遠慮なくやるか……。…はあ、しかしホント良く『直前』で解決したよな~?」
「…だな。もしかしたら、連盟が総力を挙げて『潰し』に掛かるだろうし…」
「…それがきっかけで、『またあんな事』になるのは勘弁だな。
…なるほど。それで『雇った』て訳か」
「まあ、対外的には『罰』になるからな。
そもそも『第一惑星送り』っていうのは基本的に『重罪刑罰』だし」
『-次の方、どうぞ』
…おっと。
二人の話しが一段落したところで呼ばれたので、俺は仮設テントに入るのだった-。