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『-いやー、今まで数々の豪華賞品を出して来た運送ギルドですが今年は凄いですねっ!』

 キャスターは興奮した様子でコメントした。…確か、それがきっかけで他の『本物』が見つかるようになりやがて『秘宝』という伝説が広まるようになったんだよな……。

 ニュースを見ながら、俺はぼんやりと歴史を思い出していた。

『そして肝心要の中身ですが、皆さんさんの予想通り-座標-が記されていますっ!

 さあ、秘宝を追い求めし方々は奮ってご参加くださいっ!会場は例年通り、首都惑星コハトヤマの運送ギルド本社隣の大闘技場です。締め切りは-』

 すると、そこでムービーは止まり再び閣下に顔が映った。

「…心中お察しします、閣下」

『…君の進言を受けて、対策会議を始めた矢先にこの情報が飛び込んで来たのでな。おかげで、会議は先伸ばしになってしまったよ…』


「…しかし、運送ギルドは何を考えているのでしょうか?

 彼らも『混乱』を起こし、『ならず者』を呼び込む事は充分に分かっている筈です。なのに-」

『-…それなのだが。

 同志プラトー。実は、もう一つ君に伝えなければならない事がある』

 すると、画面には再びムービーが流れた。

『-初めまして、銀河連盟の皆々様。私はファロークス運送二代目社長、ゼノ=ファロークスと申します』

 すると、若いインディゴ色の髪のスーツの男性が映し出された。

『まずは、既にニュースにて流れた情報の真意をお伝えしましょう。

 …今回、ロストチップを-手放す事-になった理由。それは、ファロークス運送の創設者にして星系の救世主たるカール=ファロークスが近い将来-星-になる可能性が出てきたからです』

「…っ」

『そして、彼は自分の持つ-手掛かり-を誰かに託すべく今回の賞品にロストチップを出す事にしたのです』

 …なるほどね。そして、恐らく『その人』が祖父ちゃんの飲み仲間なんだろう。


 そんな事を考えていると、ふとムービーはそこで止まり……突如背景が変わり社長の横に介護ベッドが出現した。そして、リクライニングされたそれに鎮座する老齢の人物が口を開いた。

『…というのは、建前の話しじゃ。

 -よお、元気しとっか帝国の小僧共っ!』

『…ちょ、会長っ!いきなり何失礼な事言ってるんですかっ!?』

 …なんかコントが始まったんだが……。…つか、あの人ホントに近い将来『星』になるのか?めっちゃ元気そうなんだが?

『…たく、相変わらずケツの穴が小さい跡継ぎじゃの~。向こうはそんな些細な事は気にせんて。

 …っと、話しが逸れてしもうたの。…さて、さっきも言うたがコイツが経緯は建前じゃ。

 つまり、ワシは-つまらんヤツ-にワシの宝を渡す気はサラサラないんじゃよ』

 …何が言いたいんだこの人?

『…要は、渡したいヤツはある程度決めておるんじゃ。そいつは誰かというと、ワシ同様に-これ-を持っとる人間、すなわちこの宇宙で-一歩抜きん出とる運の良いヤツ-に託したいんじゃよ』


『…かと言って、その方々だけで決めてしまうと盛り上がりに欠ける…というより-チャンスを逃した-とか-ケチ-とかの不評を買うわけにも行かないので、いつも通り大々的に宣伝した訳です。…もちろん、-最近の情勢-はしっかりと把握しておりますので万全の態勢で大会を開く事にを約束します…とは、とても口が裂けても言えないのが実状です』

『…まあ、一応連盟から主力艦隊と地上の制圧チームをいくらか貸して貰う事にしたんじゃが…。…より盤石にする為に帝国の秘蔵っ子、つまりヴィクターの孫も借りたいんじゃ。

 この話しは、そいつにとっても悪い話しじゃない筈じゃ。…もし、引き受けてくれるなら-VIP待遇-と『こっちで預かっとるアレの引き渡し』を約束しよう。

 返答を待っとる』

 …っ!やっぱり、船の一つは彼が預かっていたのか。

『…それでは、帝国政府の重役の方々。これにて我々からのメッセージを終了させて頂きます-』

 当代の社長が最後に挨拶し、ムービーは止まった。

『-既に防衛隊の艦隊と地上部隊の選抜は始まっている。…同志プラトー、後は君がどうしたいかだ』


「…当然、参加しますよ。

 -…少し不謹慎ですが、『こんな面白そうなイベント』を逃すなんてあり得ないです」

 閣下の問いかけに、既に話しの途中でノリ気になっていた俺は即答した。

『…血は争えんな。

 分かった、では直ぐに開催時期等の詳細情報を転送しよう-』

「ありがとうございます」

「-マスター、情報の受け取りが完了しました。直ぐに確認なさいますか?」

「…いや、今見たら余計に興奮して寝れなくなるから『出発した後』に見るよ」

「畏まりました」

『-さて、それでは同志プラトー。

 頼んだぞ』

「お任せ下さい、閣下。

 …それでは、失礼します」

『ああ。…今日はゆっくり休んでくれ』

「ありがとうございます、閣下。

 閣下も、無理をなさらぬように」

『…ありがとう-』

 俺の心からの心配に、閣下はしみじみとお礼をいうのだった-。


 ○


 -それから、急速にセサアシスは日常を取り戻していき市街地も観光客を迎える準備で忙しく…いや、とても賑やかになった。勿論、俺も出発までの間地上警備隊の人達と共に準備を手伝ったりしていた。

 …そして、出発の日の朝方。

 -……っ。……?

 ふと、隣の部屋から『この家の主』が出ていく気配がしたので目を覚ました。

「……あふ(久しぶりの-非番-だっつうのに、規則正しいな~)」

 丁度良かったので、俺は身支度を整えて一階のリビングに向かう。

「-…おう、おはようさん」

 リビングに入ると、ニュースタブレットを読んでいた少佐のお父様であるゼクスさんがこちらに気付いた。

「おはようございます、ゼクス義伯父様…しかし、退役されてもうすぐ10年って聞いていたけど未だ衰えとは無縁な人だよな~

 もうすぐ還暦を迎えるその身体は実年齢とは掛け離れた屈強さを維持しており、皺が出てきた顔も凛としたモノだった。


「…いつも、この時間に起きているのか?」

「はい。『日課』がありますので」

「…そういえば、カーリーがそんな事を言ってた気が。まあ、なんにしても感心だ」

「…あら、誰かと思えばオリバー君じゃない。おはよう」

「おはようございます、シュザンヌ義伯母様。…あれ、そういえば少…グラハム義従兄さんと従姉さんはどちらに?」

 うっかり敬称で呼びそうになったが、彼のご自宅に厄介になる際に義伯母様に忠告を受けたので、『家族らしい』呼び方にしつつ二人の所在を聞いた。

「…ああ。アイツらなら多分-」

 すると、義伯父様が教えてくれたのでそこに向かう事にした。

「「-……」」

 すると、予想通り家の裏手にある展望台には早朝の海を無心で眺めるグラハムさんとカーリー従姉さんがいた。

「…はあー、絶景ですね~」

 俺は挨拶がてら隣に立ち柵に寄りかかった。…そして、自然と感嘆の言葉が出た。


「…この景色に惚れ込んだから、あそこに居を構える事にしたのよ」

「…非番の日はトレーニングしてから毎朝この景色を二人で眺めるのが私達の日課だ」

 …うわ、既に終わっていたのか。マジ早ぇ…。

「「…おはよう、オリバー」」

「はい、おはようございます。グラハム義従兄さん、カーリー従姉さん」

「…改めて、ありがとうオリバー」

「私からも、お礼を言わせて。本当にありがとう」

 挨拶を交わすと、二人は感謝は言葉を述べ深く頭を下げる。

「…君が協力してくれたおかげで、セサアシスいやブルタウオウの日常を取り戻す事出来た」

「…流石、私の『弟』だわ」

「…どういたしまして」

「…そういえば、今日発つのよね?」


「うん。…そろそろ『現地入り』しておきたいからね」

「…そうか。確か『負荷状況』での『ゲーム』もあるから身体を慣らしておく必要があるのか。…なら、『メニュー』に加えておく必要があるな」

 ふと、グラハムさんはポツリと呟いた。

「…あ、もしかして義従兄さん『選抜試験』に参加するの?」

「…ああ。本部から『現場指揮』打診されてな」

「…ホントは、貴方には危険な所に言って欲しくはないのだけどね…」

 すると、今度は従姉さんがぼやいた。…まあ、確実に荒れるだろうな。

「カーリー…」

「…分かっているわ。貴方が必要とされるくららい優秀な事も、貴方や他の人達がいなければ多くの罪なき人達が傷付いてしまう事も…」


「……」

「…だから、貴方達は自分の身を盾にしてでもその人達を守らければいけない…それは分かるわ。でも-」

 従姉さんは彼の腕に触れた。…今は最新医療のおかげでなんともないが、多分かなりの負傷を何度も負っているのだろう。

「-大丈夫さ。君との『約束』は必ず守る。…それに今回は『心強い助っ人』が来るからね」

 彼は彼女を抱きしめ、ふとこちらを向いた。…まあ、当然話しは聞いているよな。

「…え?…そういえば、オリバーは『ゲーム』に参加するのよね。…あ、まさか?」

「…そのまさかさ。しかも、『主催者』に招待される形で」

「…っ!?な、なんで?」

「…祖父ちゃんと創設者の『飲み仲間』だから」

「…それは初耳だな……」

「……ホント、ヴィクターお祖父さんってあんたの先生方含め『いろんな』知り合いがいるわよね……。…けど、その縁のおかげで『頼りになる弟』が『最愛の人』を守ってくれるのなら安心できるわ」

 不安を抱いていた従姉さんは、やっと笑顔を取り戻した。



 -…その後、何故か俺の『日課』を二人に見せたり二人の馴れ初めなんかを聞いたり、すっかり虜になった伯母様と従姉さんの合作朝食を食べたりして最後の朝を過ごし、そしてグラハムさんの運転で起動エレベーターステーションに向かい、皆に別れを告げて宇宙港に向かうのだった。


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