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一難去ってまた一難

「-はあ、良い夜だな…。

 そう思いませんか?『重役』さん?」

 一方その頃、俺は『成金趣味の屋敷』のバルコニーから静かに輝く次々と満天の星空を眺めていた。そして、ふと後ろで脂汗を流す男に同意を求める。

「……お前は、一体何者だ?」

「…あれ?さっき名乗ったと思うんだけどな?

 俺は、帝国政府公認-」

「-ふざけるなっ!ただの『民間協力者』ごときが、地上警備隊の本体を動かす権限を持っている訳がないだろうがっ!」

 再び名乗ろうとすると、その男は『馬鹿にされたと思った』のか激昂した。

「ハハハ、『動かした』のは俺の上司…すなわち『帝国政府』ですけどね」

「…っ!?まさか、お前は『エージェント』なのか…。…いくらエージェントとはいえ、『不法侵入』が許される-」

『-フフフ、馬鹿は扱い易くて良いな。まさか、自分達が-モルモット-にされているなど夢にも思っていないのだから』

「-っ!?」

 こちらを非難して来る男に、俺は『とっておきのネタ』を返した。


「…いやはや、非加盟の『武器商人』は随分と悪辣な事を考えますねぇ?まさか、水賊達を『テスター』にしていなんて。…それも、ろくに『安全テスト』を行っていない『試作段階の新商品』を押し付けるとは。

 いやー、恐ろしい限りです」

「…っ!…盗聴までしているとは。これはプライバシーの侵害だっ!」

「…はあ、まだ分かってないようだな?」

 己の置かれている状況に気付かず、『棚上げ』する男に俺はため息を吐いた。

「…なんだと?」

「-何がプライバシーの侵害だ。『盗撮』していた人間が言って良い言葉じゃないな…」

 俺は、そう言いながらドローンに指示を出した。すると、複数のドローンは『書面』を出した。

「…っ!?」

 それを見て男は途端に青ざめる。何故なら、その書面の表題には『裁判』の文字があったからだ。

「…いやはや、『人気者』だな?」


「-…っ!?」

 飛びっきりの皮肉を言ってやった直後、俺と男のいる部屋に地上警備隊が突入して来た。

「…っ。覚えて-」

「-はい?悪いが、記憶容量の無駄だから覚えたくもないな」

 その瞬間、男は腕の通信ツール…に偽装していた『マルチワープシステム』をインストールしていた特殊ツールを発動しつつ、悪鬼のごとき表情で俺を見た。…しかし、俺は鼻で笑う。

「-っ!?な、何故だっ!?」

「…おいおい、『そのシステム』は元々こっちのモノだぞ?

 対策くらい立てているっての」

 特殊ツールが機能せず慌てる男に、俺は超馬鹿にした顔をしながらフィンガースナップをした。…すると、突如『白いバリアフィールド』が屋敷の周囲にした。

「…っ。まさか、本当に『後継者』だと言うのか…」

「ようやく信じたようだな。

 -良くもヒトの船の技術をパクった上に悪用してくれたな?…じきに、あんたの所属する会社に『帝国政府』からの要請が行くから覚悟しておけ」


「…っ。……」

「確保ーっ!」

 その瞬間、男が膝から崩れ落ちたので警備隊の数人が駆け出し拘束し連行して行った。

「-今回は水賊討伐並びに、民間人の救助にご協力頂き誠にありがとうございます」

 すると、警備隊の責任者が近付いて来て感謝を述べて来た。

「いえ。私は『任務』を全うしただけです。

 それに、現地の警備隊の方々の協力あっての事です」

「…そうでしたな。いやはや、彼らは我々は誇りだ」

『……』

 彼は後ろに居るセサアシス分隊を見ながら、最大限の称賛をした。当然彼らは、物凄く恐縮していた。

「…それにしても、まさか非加盟星系の『武器商人』が水賊を『サポート』…いや『不正雇用』していたとは…」

 すると、彼…大佐は厳しい表情で呟いた。…そう。彼らの地上拠点の場所提供や設備も、全部『例の会社』がやっていたのだ。その代わりとして、水賊に危険な『テスター』をいたのだから正直恐ろしい連中だ。


「…あ、それで『どうなりました』?」

「…ん?ああ、『あの件』ですな?

 …恐らく問題ないでしょう。何せ彼らは誰一人として『星』にしていないのだから」

 …良かった。

 俺は自分の勘が当たっていたのて、とてもホッとした。

「…しかし、何故彼らが『民間人を傷付けていない』と分かったのですか?」

「…そうですね。

 きっかけは、首領補佐の男の過去が気になったからです。…なんと言いますか、彼は『場馴れ』している気がしたんです」

「『場馴れ』…?…まさか、何処かの星系の軍人崩れですか?」

「…だったら良かったんですが、いろいろ調べている内に今回協力して頂いた『特殊チーム』以上に『秘匿性』の高いミッションに従事していた人間の可能性が浮上したんです」

「…っ!…なんと。

 …という事は、『政治的な理由』で男は…?」


「…それより『もっとヒドイ理由』かも知れません」

「…と言うと?」

「…これはあくまで私見ですが、彼は『醜い嫉妬によって人生を狂わされた』のだと思います」

「……は?」

 その返答に、大佐は唖然とした。…いや、本当に信じられないが最初遭遇した時の彼の様子から考えると、『それ』が一番しっくり来てしまうんだよな~。

「『個人の嫉妬』で、『戦力』を一つ捨てたというのですか?…まさか、そんな馬鹿げた話しがまかり通る程非加盟の星系の政治は『乱れて』いると…?」

「…全部がそうでないと信じたいですが、ついさっき『あんな会社』があると知ってしまいましたからね……。

 …なので、『安全保証』の為にも既に閣下には『この予想』をお伝えして『対策』を考えて貰っています」

「…流石です。

 ならば、我々もでき得る限りの『備え』をしておかなければならないなりませんな。

 -総員、直ちに帰還するぞっ!」


『サー、イエッサーっ!』

 既に作業を終えた警備隊の人達は、敬礼した後迅速に部屋から出て行った。

「…では、これにて失礼します」

「…はい」

 大佐も俺に敬礼し部屋から出て行った。そして、俺もカノープスに向かう。

『-マスター、申し訳ありませんが至急コクピットに来て頂きますか?』

「…どうした?」

 そして、いざ乗り込もうとした時ふと通信ツールが鳴り、カノンがなにやら困った表情をしていた。なので、駆け足で乗り込み彼女の元に向かった。

「-お疲れのところ申し訳ありません…」

「…まさか、捕獲チームに何かあったのか?」

 ただならぬ様子に、冷や汗が流れる。しかし、彼女は首を振った。

「いえ、あちらの方は今の所問題は発生していません。…っ!マスター、ブラウジス閣下から通信です」


「……?…繋げてくれ」

 悩んでいてもしょうがないので、俺は背筋を伸ばし指示を出した。

『-…こんばんは、同志プラトー。まずは、お疲れ様と言っておこう』

 閣下はまず任務成功を称賛してくれた。…しかし、なんというか物凄く『疲れて』いる気がした。

「…閣下、もしや『案件』が発生しましたか?」

『……っ。…参ったな。どうやら、精神疲労が表情に出ていたようだ』

 俺の確認に、閣下はやれやれといった様子で頭を抱えた。…?なんか、違う気がするな?

『…失礼。…とりあえず、まずは-これ-を見てくれ』

 閣下は咳払いをしてから表情を真面目なモノに変え、ムービーを流した。

『-皆さん、こんにちは~っ!ポターランTVが朝のニュースをお伝えしまーすっ!』

 すると、女性キャスターが明気良く挨拶した。…ポターランって確か、運送ギルドの本拠地だったよな?

『まずは、今朝届いたばかりのフレッシュでビッグなこちらのニュースからですっ!』

 すると、エアウィンドウが展開しそこに表題が表示された。………なるほど。カノンが慌て閣下が『頭を抱える』訳だ。

『-ポターランカップ開幕!今年の優勝賞品は-ロストチップ-っ!』

 かくいう俺も物凄く頭を抱えた。…何故かといえばお察しの通り優勝賞品が原因だ。



 -『ロストチップ』。…それは、文字通り『失われし文明の情報が入ったデータチップ』だ。つまり、その中には古代文明の情報が入っている…って話しだが、実際はデタラメなデータが入っているパチモンやただのガラクタなだけの眉唾なシロモノだ。…だが、稀に『本物』が見つかる時がある。

 まあ、入っているのは精々見ず知らずの人間のメモリーデータとかダイアリーデータとかが多数だから、好き好んで見るのは『古代学者』くらいのモノだ。だから、普通の人間が手に入れた所で何の意味もないモノ…の筈だった。

 しかし、今から半世紀前のある日。ある運び屋が見つけた一つのロストチップが、時代に大きな『うねり』を巻き起こした。


 そのロストチップには、『座標』のみが記されているだけだったのだが興味が湧いたその男はたまたま近くに星系にいた事もあり、すぐさまそこに向かった。…だが、そこには大きな小惑星のみがあるだけだった。

 男はがっかりして、帰ろうとしたその瞬間。突如、小惑星から光が放たれかと思ったら船に『別の座標』と『あるモノの作り方』と『量産方法』のデータが転送されて来たのだ。

 …座標はともかく、後二つのデータに男は驚いた。何故なら、その二つのデータは男の『故郷に必要な技術』だったからだ。

 そして、男はこの技術を故郷と故郷と同じような環境の星系を援助する為に帝国に売り、それによって発生した莫大な利益によって財をなし一つの星系に『自分のようなフリーの運び屋達』の為の拠点を作った。

 -それこそが、運送ギルドの本拠地…すなわち輸送の銀河『ポターラン』である。


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