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第二工程

「-…つう訳で、今日からコイツが加わる事になった」

「…どうも」

 夕暮れの砂浜で、男に紹介された俺は頭を下げた。あの後、無事にテストを突破出来たのでそのまま『リゾートエリア』に来たのだ。…しかし、まさかコイツが『責任者』だったとは。

 改めて『とんでもない状況』になっている事を認識し冷や汗を流した。

『了解~』

 大半の『同僚』は気楽に返すが、数人はこちらをじっと見るだけだった。…恐らく、『警戒』しているのだろう。何せ、その数人は『真っ当な人間』なのだから。

 そう、先程気楽に返した全員は水賊の息の掛かったろくでなし野郎共なのだ。

「…次に、『ちょっと面倒』な情報を掴んだのでそれについて説明しとく」

『……?』

 その言葉で、全員怪訝な表情になった。…『あれ』の事だな。

 内心ニヤリとしつつ、『なんか本土に怪しいヤツらが現れ夜に此処に来るとか言ってたので夜は厳重警戒』しろとの指示を受けた。…説明が上手いな。これなら、コイツが余計に水賊だと疑われにくくなるだろう。


「-つう訳だ。…ちなみに、発見した奴には『ご褒美』を。捕まえたり仕留めた奴には『協力者含め前払い』するので頑張ってくれ」

『はいっ!』

『コバンザメ』組はやる気に満ちた表情で頷いた。…引くわ~。

「…んじゃ、仕事に戻ってくれ。

 あ、お前は『ポジション』を教えてやるからついて来い」

「分かった」

 そうして俺は再び男の後ろに続き、リゾートエリアの西側に向かった。そして、数十分後には俺は西側の端にある屋敷の周辺警備に加わった。…ビンゴだ。

 下調べの時点で此処の守りがやや薄いと感じていたので、案の定そこに配置された。しかもこの位置、昨日調査の時に使った侵入経路なのだ。つまり、かなり良いポジションなのだ。…ただ、問題が『二つある』。

「-よお、新入り。宜しくな~」

「一緒に頑張ろうぜっ!」

 一つは、当然の事ながら『コバンザメ』組とチームを組む事。つまりは、彼らをどうにかしない事には救出作業は出来ない。

 そして、二つ目は-。

「…ケッ、野郎が増えやがった……」

「…最悪」

『プロ』組も一緒のチームにいるのだ。しかもこの二人、どちらも女性だ。多分、此処の屋敷の住人である『女性社長』の専属護衛だろう。


 …正直言ってかなり面倒くさい配置である。『コバンザメ』組だけなら無力化は簡単だが、彼女達が居るとなると慎重に事を運ばなければならない。…まあ、一番早いのは身分を明かして協力を頼めば良いんだろうが多分この二人、『基地の人達以上』に『エリート嫌い』でしかも『男嫌い』だろうな。つまり、かえってややこしくなる可能性が高い。故に、これから行う救出作業はマジで一人でやらなければならないのだ。…あー、大変だ。

 そんな事を考えながら、悪態をついてきた二人を見送る。すると、『コバンザメ』組の奴が気安く肩に手を置いた。

「…気にすんなよ。あの二人『相当』だからな。まあ、どのみちアイツらは-」

 そいつは小声で下卑た表情をした。…なるほど、コイツは『屈服させたがり』って奴か。そして、案の定俺を同類と認識したようだ。

 正直勘弁願いたいが、ぐっと堪えて『仕込み』を始める。

「…ところで、『さっきの件』どうする?」


「…っ、そうか。…可能性としちゃあここが一番か。…相手によるかな?」

「…なるほど。危険な橋は渡らないと?」

「…そうは言ってねぇよ。ただ、相手がボスより『ヤバい』連中だった場合下手すりゃ俺らが『星』になりかねない。確かに、『前払い』は魅力的だが『ご褒美』に留めておくさ」

「(なかなか慎重だな。)…そうか。

 -せっかく『良い案』があるのに残念だ。…悪いが『前払い』一番乗りは-」

「-っ!?ちょ、ちょっと待て…」

『耳寄り情報』を口にしてから会話を中断し、男から離れようとする。当然、男は食いついた。

「…本当に、『良い案』があるのか?」

「…ああ。実は俺『オモチャ作り』が得意でな-」

 俺は自慢気に、胸ポケットから『コイン』とリモコンを取り出しコインを地面に落とす。そして、その上に小石を投げた。

「-っ!」

 するとコインからは、少し大きな電磁バリアが発生した。

「…こいつは『スタンマイン』。その名の通り踏むと電磁波が発生する地雷だ」

 俺は、電磁波が収まったコインを回収した。


「…そんなモノを持ってやがったのかよ。…そうか、それなら安全に侵入者を捕まえられるな」

「…ちなみに、俺のバックにはかなりの数がある。正直、一人で埋めるのはしんどいと思っていたが…-」

「-…手伝わせて貰おう。その代わり、『分け前』は先に貰うぞ?」

「労働を頼むのだから当然だ。…じゃ、休憩時間になったら協力者を募るとしようか?」

「ああ。…ククク、良い奴が来てくれたぜ」

 ハメられている事に微塵も気付かない男は、気色の悪い笑いをこちらに向けるのだった-。



 ○



 -そして、『お間抜け』な連中と協力しながらトラップを仕掛けいよいよ『楽しい』夜を迎える。

『-全員、最大限警戒しろ』

「了解」

 責任者の男から無線で連絡が入り、俺は返事を返した。…さあ、『フェーズツー、スタート』だ。

 俺は心の中で宣言し、近くに居る奴二人に『物音がした』と言い誘導する。そして、二人が『トラップ』の付近に来た瞬間『スイッチ』を押す。

「「…っ!?」」

 直後、二人は仲良く夢の中に入った。そして、次の瞬間近くからぬっとダイバースーツを着た二人の人物が現れた。

「お疲れ様です」

「「お疲れ様です」」

 俺は慌てる事なく敬礼した。すると、彼らも敬礼を返した。

「…じゃあ、お願いします」

「「了解」」

 彼らは頷くと、気絶した『コバンザメ』組に近付く。…直後、四人が『入れ替わった』。


 -彼らは、帝国軍が誇る潜入を得意する『工作班』の人達なのだ。まあ、流石に『他人になりきる』のは俺には無理だからな。

「…どうだい。うまく出来てるか?」

「感想くれよ」

「…お見事ですね」

「…いやいや、エージェントプラトーがしっかりと『調べて』くれたおかげです」

「感謝します」

「どういたしまして。…じゃ、連絡します。

 -ダンナ、今良いか?」

『-どうした?…まさか、本当に出たのか?』

「…間違い無いと思うぜ。ご丁寧にダイバースーツまで着ているし」

『直ぐに応募を向かわせる。…大手柄だ』

「どうも。…てな訳で、ちゃちゃっと拘束して下さい」

「「あいよ」」

 二人は声を揃えて頷き、『普通』のロープで『偽りの救出メンバー』を拘束した。



 -それから直ぐ後に応援が駆けつけ、そいつらは『仲間』と知らずにせっせと何処かに運んで言った。恐らく、情報を入手する為に尋問でもするのだろう。しかし、残念な事に『しゃべれない』ようにして貰っているので連中に『バレる』事はない。…ただ-。

『-……』

 その最中、『真っ当』な方達は物凄く懐疑的な雰囲気を漂わせていた。結構気を付けたつもりだが、それでも疑う当たり流石プロと言えよう。

「-…いやはや、まさか初日に成果を出すとはな。本当、最高だなお前っ!」

 その一方で、微塵も疑っていない責任者の男は『事務所』の中で上機嫌で俺を称賛した。

「…どういたしまして。それもこれも、彼らが手伝ってくれたおかげだ」

「「…ああ」」

「…なるほど。そうなると『手伝った』ヤツに先に『払う事』になるが…」

「…あ、それは事前に話しているから大丈夫だ」

「…なら良い。じゃあ、二人は『それ』で『早速』楽しんできな」

「「了解」」

 男は二人の持つ『コイン』を指差しながら言った。…いやはや、案の定『悪用』してきたか。

 俺は内心呆れながら、二人が出て行くのを見送った。


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