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偽装

「-あふぁふぁ…」

 そして、時間は流れて2日目の朝。俺は欠伸を噛み殺しながら、警備隊の野外訓練場にいた。

「…大丈夫ですか?昨日も遅くまで『仕事』をしていたみたいですけど…」

「…眠いのなら、もう休んでも良いのだぞ?」

 すると、俺の横に立つウェンディ少尉とジュール中尉が心配そうに聞いてきた。

「…あ、すみません。

 …ええ、大丈夫ですよ。『夜通し』には慣れてますから」

「…確か、故郷では害獣駆除をしていたのだったな。なるほど、『夜行性』のもいて当然か…」

「…むしろ、そっちがほとんどですよ。当時は、良く徹夜でプラントを見張ってましたよ…」

「…いやー、ホント生産者の方には頭があがりませんね……」

「…全くだ。…あっ、ちょっと失礼」

 少尉の言葉に深く頷いた彼は、ふと離れた場所に移動し、スピーカーを口に当てる。

『-そこっ!遅れているぞっ!』

 先程まで穏やかに話していた彼は、途端に厳しい口調でへばり始めた新兵に渇を入れた。


 -そう、俺は現在ほんの数日前にここに配属された新人達と共に『新人教育』を受けていたのだ。…ちなみに、俺は最初の試練である『ヘルマラソン』を既に終え実働部隊の班長である二人の元で簡易チェアに座り休んでいた。…あー、なんか『体育の先生』を思い出すなー。やっぱり、あの人も軍の人だったのだろうか?

「…ふう。

 しかし、なぜわざわざ『新人教育』を見たい等と言ったのだ?」

「…あ、それ私も気になってました」

「…まあ、簡潔に言うと『データ収集』です。次のプランでは、彼らの『挙動』を駆使する必要があるので」

 興味津々に聞いてきた二人に、俺は概要を話した。

「…驚いた。まさか、既に準備を始めていたとは…」

「…ですが、新人の動きなんて一体どのように任務に生かすのですか?」

「…そうですね。

 時に少尉は、昨日の調査で『何か気になった』事はありましたか?」

 簡単に答えてもつまらないので、逆に聞いてみた。


「…えっ、そうですね……。…昨日貴方に頼まれたのは『味方と敵の判別』と『不自然な人間を探して』ってだけでしたし……」

 急に聞かれた彼女は、答える事は出来なかった。一方…-。

「-…『味方の雇われ護衛』の様子か?」

 中尉はズバリこちらの質問の意図に気付いた。…これで戦法はバリバリの脳筋なのだから、ホントここの人達って面白い。

「…へ?」

「…その通りです。

 私の見た限り、彼らは余り実戦慣れしているようには思えませんでした。まあ、元々平和な惑星…それもリゾート惑星に認定されているこの星でそうそう荒事は発生しません。…故に、雇われている護衛は素人に毛が生えた程度の練度しかないと推測出来るんです」

「…あ、言われて見れば確かにデカイ武器は持っていましたが、正直『水賊』よりも『大した事』ない気がしてたんですよね……。…あ、もしかしてそれで新人の動きをコピーしたいと?

 -『その護衛』に『変装』する為に」

 そこで、ようやく彼女もこちらの意図に気付いた。


「正解です。いや、流石ですね」

「どういたしまして。

 それで、その作戦はいつ始めるのですか?」

「…とりあえず、『避難経路』を完成させてからですね」

「…ちょっと待て。『何を』するつもりだ?」

 すると、やや険しい表情で中尉が聞いてきた。

「…あ、大丈夫ですよ。『環境に配慮』したやり方で作るので」

「…えっと?」

 瞬時に察した俺は軽く返す。しかし、少尉も不安になったようだ。

「…非常に申し訳ありませんが、此処から先は『最高機密』になるので詳しくは言えないんです……」

 なので、切り札を使い切り抜ける事にした。

「…っ。ホントに、貴方はエージェントなのですね…」

「…ならば、君を信じて引き下がるしかないか」

「すみません」

 俺は二人に謝罪した。…けれども二人は流石軍人だけあって気にした様子はなかった-。



 ○



 -Side『バンデット』



「-…っ!カシラ、来ましたっ!」

 セサアシス中心の島より南西の無人島に来た男は、島の洞窟内で『その時間』を待っていた。そして、約束の時間が来た時外にいた手下が男を呼んだ。

「-…久しぶりですね。マリアベル嬢」

「ええ。スタイン団長」

 男は灰色のセミロングに青いスーツを来た美女と握手を交わした。

「…さて、それでは『ご所望』の物をお見せしましょう」

 彼女は、バックからツールを取り出し『それ』を見せた。…そこには、『新たな兵器』が表示されていた。

「…素晴らしい。

 これならば、また『荒稼ぎ』が出来ます」

「ありがとうございます。それでは、三日後にお持ちします。

 …そういえば、帝国政府からエージェントが来たようですが、大丈夫でしたか?」

「ああ、それでしたら問題ありませんよ。既に『彼女』の身柄は抑えています」

 心配そうに聞いた彼女に、俺はニヤリとしながら答えた。


「…本当ですか?…いやはや、迅速な対応ですね」

「当然です。…あ、そうだ」

 今度は男がツールを操作し、そして彼女な渡した。

「…これは?」

「…実は、『親切な方』に二種類の『船』を貸して貰える事になりましてね。それなら、『即席の対応』がなされている今でも邪魔されずに『受け渡し』が出来ると思うのですが、いかがですか?」

 表示された座標を見て首を傾げる彼女に、男は昨日来た『素敵な知らせ』の事を告げた。

「…何者ですか?その太っ腹な方は…」

「…私も気になって聞いてみたのですが、どうやら彼は我々の『おこぼれ』が欲しいようです。だから、キチンと『見返り』を出せば裏切る事はないと思います」

「…なるほど。では、『此処』にお届けさせて頂きます」

「お願いします-」

 そうして、短いやり取りは終わり男と彼女は別れた。

 その後、男はツールで『右腕』に連絡をした。その際、電話口から『頼み』があったのでついでに叶えてやると約束し通信を切った-。



 -それから数時間後。今度は、別の人物達が男の元にやって来た。

「-こんちは。『オティアル』さん」

「…ああ」

 その屈強な見た目の男は短く答えた。彼こそ、船を譲った人物である。すると、彼は持っていたアタッシュケースを地面に置き後退りした。

「…フフ、慎重な方だ-」

「-はいっ」

 男は昨日も見せた彼の行動に感心しつつ、手下に目で回収を命じた。そして、男はその中に入っているタブレットを取り『情報』を見る。

「…なるほど、上手く考えられましたね。

 確かにこれならば、『スルー』は容易いでしょう」

「…どういたしまして。それで、『いつ』だ?」

 彼は鋭い眼光で男を見た。すなわち、『いつ見返りが貰えるのか』という事だ。

『…っ』

「…そう慌てずとも、見返りは直ぐに『お渡し』できます…」

「カシラ、準備出来ました」

 男が言葉を切ると、手下が先程のアタッシュケースを抱えて持って来た。 


「…ありがとう-」

 男はそれを受け取り数歩進み、地面に置いて後退りした。

「-……なるほど。確かにこれは『良い見返り』だ」

 彼は中を開け、タブレットに入った『新しい情報』を見て満足した。

「気に入って頂けたようでなによりです。

『当日』は、『その場所』に担当者を派遣しますので細かい事は彼に聞いて下さい」

「…分かった。それじゃ-」

 彼は頷き、そそくさと洞窟を出て行った。

「-…フフ。『ユカイ』な事になりそうだ」

 男はその後ろ姿を見ながら、狂気の笑みを浮かべるのだった-。


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