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オールドバンデッド

ーブルタウオウ星系第三都市惑星『セサアシス』。そこは、別名『常夏の惑星』と呼ばれるリゾート地だ。

 そして、『レジャーシーズン』が春の後半から秋の前半までとなるこの星には帝国本土や周辺銀河は勿論、遠い地の友好国である『共和国』や『連邦』等からも毎年多くの観光客が訪れそれが財源となっているのだ。

 …しかし、いつもなら気の早い人達やその人達をターゲットにした商売の人で賑わう市街地は閑散としていた。

「ー…信じられませんね」

「…我々現地の人間にとっては、まさに悪夢のような光景だよ……ー」

 そんな異様な光景を見ながら、俺は少佐の運転する車で『セサアシス地上警備隊』に向かった。



 ーっ。…凄い空気だな。

 そして、施設に到着し車を降りた直後ピリピリした空気が伝わって来た。…どうやら、かなり『辛酸を舐めされて』いるようだ。

「ーこっちだ」

 少佐の後に続き施設の中に入り、やがて『ブリーフィングルーム』にたどり着いた。

「ーっ!総員敬礼!」

 部屋に入ると、副隊長っぽい人が号令を出し中にいた男女が一斉に敬礼した。

「休めっ!」

「…おはよう諸君。早速、『水賊討伐』のミーティングを始める」

 気付けば、少佐は先程までとは違う真剣な表情になった。

 ーそう、今この惑星を窮地に立たせている原因は『水賊』…要は『地上の海賊』と呼ばれる連中なのだ。

 本来ならば、『オールドバンデット』…即ち『時代に取り残された連中』と呼ばれる『空を飛べない海賊』相手に彼ら警備隊が遅れを取る筈はない。…にも関わらず、観光客の訪れない程に『暴れまくって』いるのは何故か?

「ーまずは、これからの『予定』を確認する」

 すると、少佐は全員にそう告げた。直後、部屋の中心にあるモニターに『船舶の運行予定表』が表示された。


「…まず、『ヒトヒトマルマル(11時丁度)』に巡視船が二度目の巡回を行います」

 副隊長の人が説明を始めると、そのモニターには大きな水上船が脇に表示された。

「それから、1時間後の『ヒトフタマルマル(12時丁度)』にー」

 次の予定を副隊長の人が口にした瞬間、部屋の空気は張り詰めた。…つまり、この時間に出没するのだ。それだけではないー。

「ー現在『別荘エリア』に滞在中のへの『運搬船』の『第一陣』が航行します」

 要は、とても気が早い『金持ち達』が足止めを喰らい別荘での生活を維持する為に運搬船が大量に通り、それを狙って水賊が出没。…そして、一度に大量に船が通るせいで警備隊だけではカバー出来ず結果殆どの運搬船の物資ー『高級な-生-食材や生活雑貨』は勿論、ワイン等の『嗜好品』やご婦人やお嬢様の為の化粧品などが奪われてしまっているのだ。…ちなみに、巡視船ではそもそも『法律上』別荘エリアは近けないのであしからず。

 話しを戻そう。…そんで、当然不満を抱いた金持ちが制止を無視して本土に戻ろうとして水賊に拉致されそうになり結果、安全保証体制が維持出来なくなり『渡航制限』が発令されてしまった…というのが今この惑星の現状だ。

 …なら、本国から直接『軍など』に迎えに来て貰えば良いと思うが『自然保護法』に違反する為、そういう訳にもいかないのだ。


 ー…しかし、本来は歓迎される筈の観光客がこの事態を招いているとはな。ホント、『成金』は面倒くさいや…。

「ー以上が、本日の予定である。

 では次に、担当者だか……ー」

 内心辟易としながら会議の内容を聞く。そして、いよいよ『俺の事』になった。

「ー…さて、彼に関してだが実の所私もあまり詳しくない。なので、少しの間質疑応答の時間を取ろうと思う」

 自ら名乗った後、少佐は『流星の如き無茶振り(予想外かつ高速の意味)』をかまして来た。…しかし、隊員は誰一人として手を挙げなかった。

 当然だ。何せ、彼らの殆どは俺の事を懐疑的な目で見ていたのだ。まあ、カーリー従姉さんの行動で予想はしていたので、俺は特に気にせずに……自ら『行動で証明』する事にした。

「…レーグニッツ少佐。発言しても宜しいでしょうか?」

「…許可する」

「ありがとうございます。

 …では、大変恐縮ですが『シミュレーター』と『トレーニングルーム』をお借りしても宜しいでしょうか?」


『…っ』

 その発言で、部屋に緊張感が走る。

「…理由を聞こう」

「…何、簡単な話ですよ。

 ー皆様に、私の力量の一端をお見せしようと思いまして」

『……』

 すると、彼らの視線は一斉に少佐に向いた。…どうやら、『全員賛成』のようだ。

「……。……分かった」

 少佐はかなり悩んだ後、許可してくれた。

「…直ぐにセッティングして来ますね」

 直後、最前列にいた背の高い筋肉質の男性隊員が素早く部屋を出て行った。

「…君の武装は何?」

 そして、三列目から細身でアッシュブロンドのショートの女性が前に出て来て質問してくる。その口は、うっすらと笑っていた。

「あ、『自前のが有るんで』大丈夫です」

「…っ。そう…」

 なので俺も満面の笑みで返した。すると、彼女は途端に鋭い眼光で俺を見て直ぐに部屋を出て行った。

「…では、まずは彼女…少尉殿の方に行って来ます。失礼します」

「……ー」

 まるで、近所に出掛けるような雰囲気の俺に少佐は何も言えなかったー。


「ー失礼します」

『…どうぞ』

 俺は律儀に部屋のチャイムを鳴らし、許可を得てトレーニングルームに入った。

 すると、軍服からトレーニングウェアに着替えた先程の女性少尉…アルスター少尉が部屋の中心で待ち構えていた。

「…それで、君の武器は?」

「これですー」

 俺はホルスターからビームガンを抜き、ロングバトンに変形させる。

「…なるほど。『非殺傷制圧術』の使い手か」

「ええ。『特務捜査官』ですので」

「…じゃあ、『これ』を着て」

 彼女は、小さな機械があちこちに付いたジャケットを渡してくれた。…おお、流石警備隊の施設だけあって『本格的』な『マーカージャケット』だ。

 俺は少しワクワクしながら『マーカージャケット』…要は動くターゲットに『ビームガン』当てる訓練の為の服を装着した。

「…それで、『決め方』はどうするの?」

「そうですね。『三本勝負』にしましょう」

「……上等」

 彼女は不敵に笑いツールを操作した。直後、床から太い柱と壁…遮蔽物が出現した。


『ートレーニングを開始します。カウント3』

 直後、アナウンスが流れた。どうやら、彼女と同じ『白兵戦部隊』の人が有難い事に手伝ってくれるようだ。

『3、2、1、GO!』

 次の瞬間、俺は近くの壁に走り出した。

「…っ」

 彼女は訓練用のビームガンを構えるが、無駄だと判断し撃たなかった。そして、こちらに向かって移動を始める。…うわ、流石プロ。見事なスニーク(隠密歩法)だ。

 耳で位置を捉えようとするが、彼女の足音は全く聞こえなかった。…うん、次はあっちかな?

 じっとしている訳にもいかないので、斜め前の柱に素早く移動する。

 ーっ!マジか…。

 だが、その瞬間左側から殺気を感じた。直後、俺に向かって『攻撃』が飛んで来た。

 しかし、完全に不意を付いた攻撃は俺にヒットする事はなかった。

「…っ!?」

 …ふう、危ない。

 俺は身を屈め、直後に柱に向かって飛びアクロバットな着地を決めすかさず影に入ったからだ。


「…っ」

 彼女は舌打ちし、再びスニークで移動を開始したようだ。…さて、次はどうしよう。

 俺は僅かな時間で判断し、遮蔽物の無い地点に向かって駆け出した。

「(ー…来た。)ハイジャンプ」

 直後、後方から殺気を感じる。なので、俺は攻撃が来る前にロングバトンの先端を床に付け『飛ぶ』。

「…っ!?」

 ロングバトンの先端は安定した形状になりそしてその硬質の見た目からは想像できない凄まじい柔軟性を発揮し、俺を空中に運んだ。

「…っと」

 俺は壁の上に着地し下を見る。案の定、彼女の位置は丸見えだ。…さあ、『ゆっくり待とう』。

 その後、彼女は遠くから撃って来るが俺は反復横飛びを繰り返し次々と避けた。…そしてー。

「…っ」

 ビームガンはエネルギー切れを起こした。しかし、彼女は直ぐさまバッテリーを交換…する直前で俺は隠していた『スワロー』を使い高速でロングバトンを拾い、彼女のビームガンを叩き落とし先端を喉に突き付けた。


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