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要望

ーside『バックヤード』



「ーなんだ……これは…?」

『……』

 イエロトルボ国会議事堂の第一会議室のモニターに表示された映像に、重役の誰かがポツリと呟いた。他の重役達も唖然としながら見ていた。…その映像は、今日の夕方エネルギープラントで発生した『害獣』…いや『大災害』と言っても過言ではない『事故』の様子を撮影した物だった。

「…『グラトニー』が何故こんなに出没したのかも『ベヒモス』が出没してしまったのもそうだが、『あの白銀のトラ』は一体…?」

「…本当に、この映像は『ノンフィクション』なのか?」

『白銀のトラ』がたった一体で大災害を止めた事実を、誰も信じる事が出来なかった。そんな中、会議室に設けられた通信ツールが鳴る。…その瞬間重役達は冷汗を流した。

「ー…私だ。……っ、そうか。…直ぐにお通ししろ」

「…もう、到着なされたのですか?」

「…ああ。恐らく、『白銀のトリ』を運んで来た高速輸送船に同乗していたのだろう」

「…『守護の翼』ですか」

「…ああ。先日ホワイトメルで発生した襲撃事件が犠牲ゼロだったのは、間違いなく『あの船』が居たからだろう。

 しかし、まさか『トラ』だけでなく『トリ』も『実在』していたとはな…」


「…あの、今も絶大な人気のある『冒険ノベル』に登場する『12の獣』。確か、およそ半世紀前に当時の政府と今や大企業となった『あのメーカー』は、『トラ』に助けられという話でしたね…」

「…あれを見るまで鼻で笑っていたが、もしかすると笑われていたのは私の方だったのかも知れないな」

「ー大統領、『宰相閣下』が間もなくお越しになります」

 そんな会話をしていると、秘書が耳元で報告した。

「…分かった」

『……』

 彼が頷くと、重役達は一斉に席を立った。それから間もなくして重厚なドアは開き一人の壮年が入って来た。

「ーご機嫌よう、イエロトルボ政府の方々。帝国政府宰相、アルバート=ブラウジスと申します」

 彼は会釈をし会議室に入りまっすぐ奥に向かう。…その光景を重役達は固唾を呑んで見ていた。何故なら、彼の表情は普段の穏やかな様子とはかけ離れた厳格な物だったからだ。


「…お久しぶりです、宰相閣下。どうぞ、こちらに」

「…ええ。…ありがとうマクダエル大統領閣下ー」

 そして、会議室の奥に着いた彼を大統領自らが『上座』の椅子を引く。そして彼も軽く礼を言い自然な動作で座った。

「…さて、既に『事件当時』の映像はご覧になったと思いますが何かご質問はありますか?」

 すると、彼は前置きなしで重役達が『一番聞きたい』事についての質問をした。

「…宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

 挙手した妙齢の女性役員に許可を出した。

「…『あの白銀のトラ』は一体何なのでしょうか?」

「…その件にお答えするには、まず先に『約束』して頂きたい事があります。

 ―内容は、『白銀のトラ』と『白銀のトリ』について一切の公言の『禁止』です」

『……っ』

 その『要請』に彼らは少しざわついた。

「…重ねて質問しても宜しいでしょうか?」

「…貴女の予想通り、『あの船』は『帝国政府直属の特務船』です」

 彼女の質問を、彼は的確に予想し解答を先んじて返した。

「…ありがとうございます、閣下」


「…他に、質問はある方は?」

「…宜しいでしょうか?」

 次に挙手したのは中年の男性だ。

「どうぞ」

「…『かの船』は一体どうやって『ベヒモス』を打ち倒せたのか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

「…申し訳ありませんが、『それ』に関しては『帝国の最高機密』になりますのでお答えする事は出来ません」

「…畏まりました。…重ねて質問しても宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

「…『あの船』に乗る人物は、一体何者なのでしょうか?」

「彼は、『帝国政府公認』のトレジャーハンターです。つまりは、帝国の『同志』になります。

 名前は、『プラトー三世』」

『…っ!?』

「…『英雄』の後継者という事ですか。ありがとうございます、閣下」


「…他に質問のある方は?」

『……』

「…無いようですね。

 ーでは、本題に入りましょう」

『……っ』

 その瞬間、室内の空気は張りつめた物になった。

「…まずは、何故今回のような『大災害』並みの『事件』が起こったかについてです」

『……』

 彼の言葉に、大統領さえも『やはり』という表情になる。

「…ここからは推測になりますが、ご容赦ください。

 まず、今回の事件は先日報告させて頂いたホワイトメル襲撃事件の首謀者である『反社会勢力』が引き起こしたものです。

 次に、『発生時期』は様々な方面の記録から『2ヶ月前』となるでしょう」

『……っ』

 思いあたる節があるのか、重役達はハッとした。

「…そして『方法』ですが、『反社会勢力』がドレインワームを極秘裏に『極秘事項のシステム』とイエロトルボ第一惑星『ボルガノス』の自然エネルギーを悪用して急速成長させた…と、我々は考えています」

『……』

「…馬鹿な。あの星は全域が絶えず巨大な落雷が降り注ぐ危険地帯ですよ?…とても、無事に出られるとは……」


「…おや、不思議な事を言いますね。

 ー『初代プラトー』は、その星で『雷獣』を見つけたというのに」

「……あ」

 大統領は言われてハッとした。そう、決して『不可能』では無いのだ。…ただし、『余程特別な船』限定だが。

「…では次に、『こちら側』の原因を説明しましょう」

『……』

 すると、重役達は一斉に顔を強ばらせた。

「まず、第一の原因は『危険地帯』だからという理由で…つまりは『誰も来ない』と思い『防衛隊』が巡回していない事が挙げられます。

 それがなければ、少なくとも『早期発覚』は出来たでししょう」

『……』

「次に、第二の原因…いや『最大の原因』はー」

『ー…会議中に、失礼致します』

 彼が一旦言葉を切り会議テーブルの中心にある『ホログラムモニター』に目線を移すと、それと同時に顔面蒼白の肥満体型の壮年が出現した。

「『最大の原因』は貴方達ですよ?」

『……』

 その壮年…かつて『先代のプラトー』が助けた企業の後継者、すなわち四代目の社長はだらだらと汗を流した。

「…貴方達が『早期報告』していれば、ここまでの『事件』にはならなかったハズです」

『…べ、弁明をー』

「ー『防衛専門部署の怠慢』…とは言いませんよね?」


『…っ』

 彼の低い声を聞いた社長は、息を詰まらせた。

「…私が『何も知らずに』此処に来たと思っているのですか?

 貴方達の『近年の内部事情』は、既に把握済みです」

『……』

 その言葉に、社長は勿論政府の人達も冷や汗を流した。

「…まあ、この場での言及は控えておきましょう。何より、時間の無駄だ。

 …今回の一件、『陛下』はとても心を痛めておりました。

 当然です。何せ一つの企業が『評判』を気にした結果、下手をすれば『惑星がただの星』になってしまいかねない『大災害』が起こる寸前の『事件』が起きたのですから」

『……』

「よって、我々帝国はイエロトルボ政府と『私設防衛部署』を持つ企業に対し、『要請』を発令します」

『……っ!?』

「まず、政府には速やかな防衛隊の配備変更と『一連の事件』の解決の協力を要請します」

「…了解しました」

 大統領は即座に頷いた。

「そして、『私設防衛部署』を持つ企業はそれを解散し『防衛専門企業』への依頼を要請します」


『……っ。…了解しました……』

「それともう二つほど、お知らせしたい事があります」

 苦渋の表情で頷く社長に、彼は『追い討ち』を掛ける。

『……?』

「今回貴方が雇った傭兵の方々への報酬、又は『修理金』は全額帝国政府が『肩代わり』しますのでどうかご安心下さい」

『……っ』

 つまり、『賠償金』はしっかり払えという事である。そして、『キチンと返せよ』と言うのと同時に『私腹を肥やすなよ』というぶっとい『スパイク』を刺したのだ。

『……か、感謝……致します……』

「もう一つは、『直接お伝えしましょう』ー」


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