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瞬迅の牙

ーside『ドリーマー』



 ー数分前までは静かだったその場所は、今やけたたましい警報がそこかしこで鳴り響いていた。…そして、似たような煩ささのアラートも『彼女達』の乗る船のコクピットでも鳴り響いていた。

「ーああっ、もうっ!次から次へとっ!」

「…キリがない」

 その二人…アイーシャとイアンは次々と地面から出て来る『大量の敵』に辟易としながら、他の傭兵の駆る船と協力しながら一体ずつ倒していった。

『ーっ!?敵更に10追加っ!』

『はぁっ!?どんだけ居るんだよっ!』

 直後、別の船から『おかわり』の報告が飛んで来た。

「…ホント、どれだけ居るんですかね?」

「…っ!キャプテン・アイーシャ、防衛隊と警備隊が来た」

「…やっとですか。

 ー各位に連絡っ!こっちにも増援が来ました!」

『マジかっ!』

『ふぅ、危なかった~』

 彼女の報告に、他の船から安堵の声が聞こえた。


「…とりあえず、なんとかなりそうですね」

「……」

 二つの部隊が巨大な『害獣』に攻撃を始めた辺りで彼女も安堵するが、相棒でもあるイアンは気を緩めずにセンサーを注視していた。

「…どうしました?」

「…おかしい」

 それを見た彼女は瞬時に気を引き締め、彼に聞く。すると彼はポツリと呟いた。

「…確かに、この量はおかしいですね。…今までも定期的に退治していたハズですし、なにより『グラトニータイプ』しかいない」

 彼の言葉を正確に補足した彼女は、再びモニターを見た。

 ー今、彼女達が戦っている存在。それは、こういったエネルギーに満ち溢れた星に必ず出没する『害獣』だ。

 その名は『ドレインワーム』。文字通り、エネルギーを吸収してしまう恐るべき獣だ。だが、本来のドレインワームは余程『食い荒らしでもしない限り』こんなに大きくはならないし、ましてや多くとも数十匹しか出没しないのだ。

 しかし、現に大型種に進化したドレインワーム…通称『グラトニータイプ』が大量に出没しているのだ。


「ー…これは、匂いますね」

「…うん。流石に、こうなる前に『絞り取られて』いるよ」

「…はあ、朝に最高の一枚が撮れたというのになんでこんなヤバげな状況に巻き込まれているんでしょうかね?」

「…僕に聞かないでよ」

「…只の愚痴ですよ。…っ!」

 直後、一旦は止んだアラートが再度鳴り響いた。…同時に、空に居る彼女達でもはっきりと分かる程大地が揺れた。しかし、しばらくして揺れは収まる。

『ーなっ……』

『…おいおいおいおいっ!冗談キツイぞっ!?』

 だが、それは『ソイツ』が現れる予備動作に過ぎなかった。次の瞬間、グラトニータイプの数十倍のドレインワームが大地を突き破って出て来た。

「…これは流石に、予想外ですよっ!」

「…『ベヒモスタイプ』」

 ー…それは、文字通り『総てを破壊する獣』。それは、『惑星を死の星に変えるモノ』。

 そんな恐ろしい逸話のある『化け物』が、今彼女達の目の前に現れた。


『…全員、今すぐ戦域より離脱しろ。コイツは戦艦でも厳しい相手だっ!』

『…くそっ!』

「…キャプテン・アイーシャ。僕達も離脱を」

「…反転。戦域より離ー」

『ー…!?おいっ!なんだあれっ!』

 悔しそうに彼女が指示を出そうとしたその時、誰かが慌てて何かを告げた。イアンは直ぐに、モニターに『それ』を表示させた。

 直後、『ベヒモス』は口から伸びた複数の触手から極太のビームを上空に向けて『数本』放った。

「……は?」

「…なにあれ」

 ビームは上空を飛ぶ戦闘機達をギリギリで掠め、宇宙にまで伸びていった。

「…直ぐに離脱する!」

「…イエス、キャプテン」

 それを見た二人は、冷や汗を流しながら撤退行動を始めるが……直後、その場に居合わせた全員が『最悪なショー』を見る事になる。

『ー…ふざけんなよっ!…-そんなの-アリかよっ!』

『…グラトニータイプが、復活しているっ!?』

 なんと、彼女達が必死に倒したグラトニータイプの大群が高速で『再生』しているのだ。…そして、復活した『奴ら』は一斉に地中に消えた。


『ー…まずい。下から来るぞっ!』

『…っ!…がっ!?』

『…うわっ!?』

『…はぁ!?』

 誰かが警戒の言葉を放った直後、別の誰か達に異常が襲い掛かった。

「…っ!嘘…」

『どうし……な……』

 彼女と別の傭兵は唖然とし、直後に恐怖する。…さっきまで自分達と共に逃げていた傭兵の船が『三隻』減っているのだ。つまり、目にも止まらぬ速さで彼らは地中に引きずり込まれたのだ。

「…なんて出鱈目な……」

『ーっ!?おい、ランスターっ!?』

 その刹那の油断が、彼女の乗る船に危機をもたらした。誰かが叫んだその瞬間、船が急に静止したかと思えば凄まじい速度で『落下』を始めたのだ。

「「……っ」」

 その瞬間、二人の見る光景はスローになり頭の中に走馬灯が過った。…だがー。

『ー諦めるなっ!今、助けるっ!』

 星になる事を覚悟した二人の耳に、傭兵以外の低くそれでいて勇ましい声が聞こえた。すると、二人の視界は元に戻る。そして、次の瞬間。

「ーっ!?…っ!」

 船は自由を取り戻した。直後、彼女は操縦桿を力の限り前に倒した。

『ー…っ、おい、大丈夫かっ!』

「…はい、大丈夫です……っ!」

 なんとか返事をした彼女だが、モニターを見て驚愕した。


『ーっ!な、なんだ-アレ-っ!?』

 同時に、他の傭兵が彼女の船を助けた『存在』を見て叫んだ。

 ーそれは、子供の頃…いや今でも時折読み返している『あのノベル』に登場し、そして夢の一つである『ツーショットフォトコンプリート』の為だけに此処での仕事を探し、今日の朝にようやく撮れた『憧れの船』の一つ。

「…『インフィニットカノープス』……」

 黄色のバリアを纏った、自分達の髪よりもなお玲瓏な白銀の輝きを放つ巨大な『トラ』を見た彼女は、呆然とその船の名前を呟くのだったー。



 ◯



 ー…ふう。ギリギリだったな……。

 なんとか一隻の船を救出した俺は、冷や汗を流した。そして、『高速機動モード』…通称『ラピッドムーヴ』を解除する。

「っ!マスター、『アクティブセンサー』に反応あり。10秒後、右方向に来ます」

 すると、俺の後ろに座るカノンが報告した。

「分かった。…しかし、とんでも状況だなっ!」

 俺は操縦席の両側から伸びた二本の操縦桿を握りしめ、右のを手前に引いた。すると、『船』は右方向に進路を変更した。…それから数秒後、アラートが鳴り出す。

「『ラピッドムーヴ』、発動」

「イエスキャプテンー」

 なので、再び高速機動モードを発動させる。…直後、モニターは消え二つの操縦席の周囲にバリアが展開した。そしてー。

 次の瞬間、船は『凄まじい速さ』で大地を駆け抜けた。…いやー、『Gキャンセルバリア』が搭載されてなきゃ今頃大変だな。

 本来なら、スピードに応じて『反動』が増すが『バリア』のおかげでなんともなかった。


「ー熱反応、低下。『グラトニータイプ』、撃破完了」

「分かった。…『ラピッドムーヴ』解除」

「イエス、キャプテン」

 すると、バリアは消えモニターが機動する。

「…はあ、『グラトニータイプ』が大量に出没しているって聞いた時から嫌な予感はしていたが、案の定『ベヒモスタイプ』もいたな。

 ー間違いなく、『連中』が背後にいる」

「…間違いないかと。そもそも、『グラトニー』一体だけでも大災害レベル…この星ぐらいの大きさの惑星なら3ヶ月で『吸い尽くされます』」

「…だが、今朝の時点で一番エネルギーを使う『軌道エレベーター』は問題なく稼働していた。つまり、『目に見える異常』は発生していないって事だ。

 …奇妙な話しだな?」

「…ええ。

 故に、あの『害獣達』は『極めて特殊な方法』で成長してしまったのでしょう。…そして、『その方法』はー」

「ーこの船…『長期地上探査船:インフィニットカノープス』の、『エネルギー最大効率化システム』がパクられてるって事だ。…おまけに、『元となる二つの船』が眠っていた『第一惑星』で得られる文字通り『無尽蔵』のパワーを回収し、エサにしやがったんだ。…どこまでも、ふざけた連中だ……」

 俺は怒りで震えた。…だが、直ぐに冷静になり『害獣達』を見る。


「ーっ、『ベヒモス』より、高エネルギー反応確認。『グラトニー』にエネルギーを供給しています」

「…いくら害獣とはいえ、流石に可哀想になってくるな。あれ、『無理やり繋げられている』だろう?」

「…『外道』という言葉が一番適合する人種ですね……」

 それを見た俺とカノンは、二人して顔をしかめた。…そして、『グラトニー』達は瞬時に再生した。

「…『コイツ』には申し訳ないが、やっぱり『あれ』しかないか~?」

 しかし、俺は別の事…『逆転の秘策』について考えていた。

「…それが、一番効果的です。問題はー」

 カノンもやはり落ち着いた様子で、『それ』を推奨してきた。…やだなー。

『ーっ!今度は何だっ!』

 げんなりしていると、まだ戦域に残っていた防衛隊の誰かが叫んだ。…うわ、なんだありぁ?

 モニターを見ると、『ベヒモス』が口から触手…いや『グラトニー』を出した。

「…っ!まさか…。

 ー『ラピッドムーヴ』発動っ!それから、『ブーストジャンプ』の準備をっ!

 直感的に俺は、『ヤツ』がなにをしようとしているのかを察した。…ついでに、『チャンス』だと思ったからだ。


「イエス、キャプテン。『ラピッドムーヴ』発動します。その30秒後に、『ブーストジャンプ』に切り替えます」

 カノンが応じた直後、『準備』は終わり船は凄まじい速さで直進した。

 ーそして、きっかり30秒後に船内に伝わっていたGは消え同時に浮遊感が襲って来た。…はあ、まさか『自ら喰われに行く羽目』になるとはな~。

 復活したモニターを見ると、どこまでも続く暗闇が見えた。…つまり、この船は『ベヒモス』の腹の中に墜ちて行くのだったー。


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