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光明の銀河②

「ー…じゃ、後は任せた」

「畏まりました」

 ハイパードライブに入った事を確認し、船をカノンに任せた俺はカノープスの後部に設けられた資料室に向かった。

 …えっと、確かここだったかな?

 昨日の内に一通り確認しておいたので、目的のデータは直ぐに見つかった。そして、それを端末に読み込ませる。

 すると、画面にはこれから向かう星系…『イエロトルボ』の情報が表示された。…えっと、首都惑星はー。

 キーワードを入力すると、マップは拡大し星系で三番目に大きい惑星を表示した。…で、何でこんな事をしているかと言うと何を隠そうこのイエロトルボ…、通称『光明の銀河』にはカノープスをサポートする12の『獣』の一体が眠っているのだ。…おわ、流石『宇宙船用電化製品』発祥の星。大手メーカーが星の数程あるなー。

 まずは基本情報を確認し、それから『それらしい』情報を探す。…すると、目的の情報はあった。

 ー『ファストフラシー記念公園』。…首都惑星の郊外にある穏やかな感じの公園だ。その中心には『分かりやすいモニュメント』が置かれていた。…まあ、手間が省けるから良いんだけどね。


『ーマスター、後数分でイエロトルボ第三惑星付近に到着します』

 なんか微妙な気分になっていると、船内放送が流れた。

「…分かった。直ぐに戻る」

 俺は端末をシャットダウンしデータチップを取り出し、元の場所に戻してから資料室を後にした。…そして、コクピットに戻り操縦席に座りため息を吐いた。

「…あれは無いだろ……」

「…あはは。心中お察しします」

 彼女は苦笑いを浮かべた。…押し切られたな?

「…すみません。『その時』は、いさかさ疲労しておりまして少し思考力が低下しておりました。…それに、見届け役の方も居ましたので大丈夫かと思っていたのですが。まさか、先代と同じく『ストレートなセンス』をお持ちの方だったとは…」

「…マジか。何考えてんだよ……いやかえってストレート過ぎるからブラフになるのか?」

「…こう言ってはなんですが、多分そこまでは考えていなかったと思います」

「…だよな~」

「…あ、マスター。そろそろハイパードライブを終了します」

 俺も苦笑いしていると彼女が報告する。

「分かった」

 俺はシートベルトを再度しめ、操縦桿に手を添えた。

「ーハイパードライブ終了まで、残り10。

 9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」

 彼女がカウントを終えた直後、ハイパードライブ空間から通常の宇宙空間に出た。

「…レーダーに反応なし」

「…良し、行くか」

 周囲の安全を確認しオートパイロットを解除。そして、直ぐさま首都惑星に向かったー。



『ーはい。船籍番号並びにIDを確認しました。ようこそ、ファストフラシーへ』

「ありがとうございます」

 歓迎してくれた管制官にお礼を言い、エンジンを停止させる。

「…さて、それじゃ留守は任せた」

「畏まりました。行ってらっしゃいませ、マスター」

 カノンに見送られながら船を降り、地上に降りる為の軌道エレベーターに向かう。…おお、もう宣伝が始まってる。

 まだ港なのに、道中には家電メーカーの宣伝が至るところから流れていた。これは、地上はもっと凄い事になっているだろう。

「ー…なあ、聞いたか?」

「…聞いた聞いた」

 そして、エレベーターホールの待合席で待っているとまたもや背後で二人組がひそひそと話していた。…おいおい。着いた早々かよ…。

「…『今年』の賞品、スゲーよな~?」

 この間の事を思い出し思わず身構える。…しかし、予想に反して明るいニュースが飛び出した。

「…ああ。『あの社長』も中々に太っ腹だ」

「…誰が手にすると思う?」

 …ふむ。どうやら何処ぞの企業の代表が何らのイベントを開くようだ。しかも、勝利者には中々に高価な物がプレゼントされるらしい。

「…うーん。今年は『有名人』が沢山参加するだろうから予想しにくいなー。…お前はどう思う?」

「…そうだな。個人的には『ランスター』の弟に勝って欲しいかな?」

 ほう。…多分だが、参加者の大半は男性になるようだ。力自慢とかかな?

「…なるほど。確かに、彼だったら良いとこまで行けるだろう」

『ー地上行きエレベーター、まもなく到着致します。ご利用のお客様は、お並びください』

 …ま、後で調べてみるか。

 ちょうど良いところでアナウンスが流れたので、仕方なく列に並んだ。そして、人の流れに従いエレベーターに乗り地上へと降り立った。


 ー…おわ、スゲーなこりゃ。

 地上のエレベーターホールを抜けエレベーターステーションを出ると、そこには文字通り大都会が広がっていた。先日訪れたファストピタルもかなりの都会だったがここはその比ではない。何故なら、あそこ以上の高層ビルがざっと見渡しただけでも山ほどあったのだから。…まあ、ファストピタルは医療都市だから搬送の邪魔になるであろう高層ビルはあまりないのは当然だとしても、流石に多すぎるな。つか、これ全部メーカーのビルなんだよな?

 …そんな圧巻の光景を見ながら、バスターミナルに向かう。

「ーご利用、ありがとうございます。目的地はどちらでしょうか?」

「記念公園です」

「では、二番乗り場にお向かい下さい」

「ありがとうございます」

 そして、案内所のヒトにバスステーションを聞きそこで少し待つ。…流石都会、故郷と違って路線も多いな。

『ーまもなく、ファストフラシー記念公園行きのバスが到着します』

 またもやカルチャーショックを受けつつ、俺はバスに乗り込んだ。…それから数分後、バスはあまり乗客を乗せずに発車した。どうやら、こっち方面には企業とかはないらしいー。



『ー本日はファストフラシー交通をご利用頂き誠にありがとうございました。どなた様もお忘れ物のないようお気をつけ下さい』

 …んあ。

 朝も早かったからか、少し居眠りをしていた俺はアナウンスで目を覚ました。

「…あふ」

 あくびをしながら窓の外を見ると、都会の郊外らしい小さなビルが建ち並ぶ風景が広がっていた。…そんな風景の中に、自然溢れる公園の端が突如姿を現した。

『ーファストフラシー記念公園、ファストフラシー記念公園。終点でございます』

 ちょうどその時バスは停まった。なので、ゆっくり席から立ち上がり一人きりで降車した。

「…くあ~」

 直後、大きなあくびをしながら身体を伸ばしのんびりと公園に向かって歩き出す。

 ーそして、公園に到着した俺はそのまままっすぐ『モニュメント』の場所に向かう。…だがー。

「ー…うーん、微妙ですね~」

「…そうかな?」

 モニュメントの前では、二人の男女がフォトツールを見ながらなにやら相談していた。…あの二人血縁者か?

 そう思った理由は、二人の髪の色か綺麗なシルバーカラーだったからたわ。それに、同じデザインのユニセックススタイルの『傭兵服』を着ているから間違いないだろう。


「…はあ、せっかく『早く来た』のにこのままじゃ最高の一枚が……」

 …ほう、まさか最初に立ち寄った惑星で『同好の士』に会えるとはな。…確かー。

 瞬時に少女が『何をしたいのか』を悟り、『必要な情報』を高速で思い出す。

「…あ、誰か来た」

「…え?…あ、すみませんちょっとだけー」

「『ーその船は、絶えず稲妻の降る星に眠っていた』」

「……?」

 突然語り出す俺に、男性の方は怪訝な表情になる。

「……」

 …しかし、少女の方は仰天して言葉を失っていた。

 そして、俺は続ける。

「『その船は、何よりも速くそして無限に駆ける事が出来た。だからこそ、キャプテン・プラトーは危険を承知でその星に向かった。

 そして、なんとか無事に船の眠る場所にたどり着いた彼を待っていたのはー』」

「『ーただ速く長い一本道を駆け抜けるという、単純にして過酷な試練だった』」

 ちょうど良い所で言葉を切ると、彼女はすらすらと続きを口にした。


「…やっぱ、『これ』を撮るなら『試練』を彷彿とさせる構図が良いと思うんですよね」

「…いやはや、すっかり忘れてましたよ」

 俺の言葉に、彼女はおでこに手を当てて天を仰いだ。

「……?…あ、『姉さんと同類』の人か」

 蚊帳の外に置かれた男性は、少し悩んだ後に正解を口にした。…あっぶね、『失言する』ところだった。

「…やはり、『同好の士』でしたか」

「…いえいえ、私など……。たった今自分の『未熟さ』を思い知った所ですよ」

「……」

 自然と固い握手を交わした俺と彼女に、俺と同じくらいの背の弟さんはきょとんとした。

「…ご教授頂きありがとうございます。早速、やってみます」

 一方、平均身長よりも小柄なお姉さんはすたすたとモニュメントは前に立ちしゃがむ。そして、片膝を地に付け『クラウチングスタート』の姿勢を取った。

「イアン、お願い」

「……了解、キャプテン・アイーシャ」

 弟さん…イアンさんは、船長でもあるお姉さん…アイーシャさんに敬語で応じフォトツールで彼女を撮影した。 


「…さて、どうですかね。……おお」

 彼女は、最高の一枚に瞳を輝かせた。

「…ありがとうございました。おかげで、最高の記念になりました」

「力になれたのなら幸いです」

「…あの、良ければー」

 彼女が何かを言いかけたその時、その腕の通信ツールが鳴った。…多分、仕事関係だろう。

「ー…っ。…すみません。このお礼はいつか必ずします」

「いえいえ、お気になさらずに」

「……。…失礼します」

 俺の言葉に、彼女は一瞬言葉を失う。だが、すぐさまお辞儀をしてバスステーションに掛けて行った。

「…失礼します」

 イアンさんも、遅れてお辞儀をして彼女を追いかけた。…いや、良い出会いだった。

 俺は感動しながら、公園の管理事務所に向かった。


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