「-やれやれ。…ナメているのはどっちだよ?」
『ぎゃっ!』
そう呟いた直後、俺に迫る海賊達は一斉にスッ転んだ。
「…な、なに……?」
「おいおい。まさか、『何の対策』も無しにただお前達を転送したと思っていたのか?
そんな訳ないだろ」
フィンガースナップをすると、直後俺の周囲にはペアの『トラ型ドローン』と彼らによって生み出されたワイヤートラップが出現した。
「…っ、小賢しいマネを……。
おいっ!さっさと起き上が……」
そこまで言い掛けた首領は、転んだ手下達が気絶している事に気付いた。
「…ああ、言い忘れていたけどそのワイヤー『エレキショック』になってるから」
「くそっ!?…なら、飛び越えれば良いだけの事だっ!」
『…っ、おおっ!』
「ハイフロート」
海賊達はパワードスーツの背中からフライトユニットを展開し、ワイヤーを飛び越えて再び俺に迫って来た。なので、俺は『次のトラップ』に誘い込む為あえて高い位置に移動する。
『喰らえっ!』
すると、海賊達は俺を撃ち落とそうとビームガンを撃ちまくって来た。だが、ビームは全てオートシールドに弾かれ明後日の方向に飛んでいった。…しかし、次の瞬間。
『-うおっ!』
ビームは『何か』に弾かれ、フライトユニットに直撃した。すると当然、海賊達は次々と地面に落下して行き『エレキワイヤー』で次々気絶していった。
「残念~」
「な…」
直後、二度目の合図を出すと空中に『シールド』を構えた数十の『小型スワンドローン』が姿を現した。
「…さて、残りはどうしてやろうかな?」
「っ!調子に乗るなよ、ガキィっ!
野郎共、あのクソガキに『大人の怖さ』を教えてやれっ!」
『おおっ!』
地上に降り不敵に笑うと、怒りの臨界点を越えた首領は怒声を出した。すると、残った手下達は半々に分かれ片方6シールド展開し、もう片方は素早く『何か』を組み上げていった。…ほう、『そう来たか』。
シールドの内側で組み上げられる物を見て、俺は感心した。
「-喰らいやがれっ!」
組み上げられた瞬間、シールドは消え『それ』から太いビームが発射された。
「モード・フォートレス」
俺は慌てずに二つのドローン部隊にオーダーを出す。すると、彼らはハイスピードで俺の前に集結し『トラ型ドローン』は『小型のスワン型ドローン』にコードを接続。そして『スワン型ドローン』は一枚の『大型シールド』を展開した。
「無駄だっ!そんなチンケなシールドごときでこれを防せ……っ!?」
嘲笑う首領だが、即座に唖然としそして手下達と一緒に仲良く青ざめた。…なにせ、シールドに当たる直前でビームは消え直後自分達に向かって来たのだから。
「-シールドォーーーっ!?」
『ぐわーーーっ!?』
海賊達は慌ててシールドを展開するが、直後海賊達は呆気なく自滅した。
「…ほう、なかなか悪運の強い連中だな」
すぐさま『小型ペリカンドローン』に消火させていると、パワードスーツを着ているお陰か海賊達はピクピクしなががら地面に這いつくばっていた。…で、何でわざわざ口にしたのかと言うと-。
「……っ、く、そがぁーっ!」
首領は僅かに焦げているものの、真っ直ぐ立ってこちらを凄まじい形相で睨み付けていた。恐らく、直前で空中に逃げたのだろう。
「…ここまで、コケにされたのはぁー、初めてだ…。テメェだけは、この場で潰すっ!」
直後、首領は俺目掛けて突進してきた。…さあ、クライマックスと行こうか。
「『ロングバトン』」
俺はビームガンを抜き、『近接モード』のオーダーを出した。すると、2つのビームガンは瞬時に合体し長い『ロッド』に変形した。
「ゴー!」
それを掴み、ボードを加速させる。
「オラァっ!」
「ジャンプ」
直後、首領は力の限り殴り掛かって来るが即座に上に逃げ-。
「-せいっ!」
俺は首領のヘルメット目掛けて、力の限りロッドを振り下ろした。
「…ガッ!?」
直後、ヘルメットに亀裂が入り同時に首領はよろけた。
「はあーっ!」
すかさず腹部に接近し、鳩尾辺りにロッドの先端を打ち込んだ。
「…かはっ……」
すると首領は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。その直後、『妨害フィールド』は解除された。…多分、こっちの様子がフィールドを展開していた連中に伝わっていたのだろう。潔くて助かる。…お。
そんな事を考えていると、向こうから警備隊の護送車が近いて来るのだった-。
◯
『-海賊達に告ぐ。君達のボスは倒された。大人しく投降しなさい。繰り返す-』
そして数分後。警備隊は拘束された首領の映像を街の至る所にある街頭モニターで流しながら、残りの海賊達を容易く捕まえていた。
「-お疲れ様、同志オリバー」
それを『館内放送』で聞きながら、俺は待ち合わせの場所に入る。すると、閣下が労いと共に出迎えてくれた。
「ありがとうございます。…あの、ところでそちらの方は?」
何故かその場には、閣下と護衛チームの他にビシッとしたビジネススーツに身を包んだオレンジのショートヘアーの、気品溢れる女性が居た。
「紹介しよう。彼女はこのホワイトメルの大統領を務めるアンリ=ブリック女史だ」
「初めまして。オリバー=ブライトさん」
「…こちらこそ、初めまして。(何で星系のトップが…?)」
衝撃の紹介に、俺はびっくりしながらお辞儀を返した。
「…ああ、大丈夫。彼女は『こちら側』だから」
すると、閣下は抱いた疑問の答えを告げた。
「(…あ、まさか。)…なるほど。かつて祖父が『かのシステム』の原案を託した医療船団『ホワイトメル』の技術顧問、クラウス=ブリック博士の血縁者でしたか」
「…お詳しいですね」
「まあ、祖父がモデルになった『データノベル』にも書いてありましたし、『かのシステム』を調べていれば自然と関連情報は見ますからね」
「…あの、大変失礼な事をお聞きしますが本当に貴方はヴィクター氏のお孫さんなのでしょうか?」
すると、ブリック大統領は非常に申し訳なさそうに聞いて来た。…それが意味するのはー。
「-…なるほど。どうやら、当時から祖父はかなり『ハチャメチャ』だったようですね?」
「…ああ。非常時や探索時は冴え渡る直感や類い希なるセンスで様々な状況を乗り越えた彼だが、それ以外の時はもう『酷かった』…っ!」
余程苦労させられたのか、閣下は若干声を荒らげる。
「…っ、失礼。
…まあ要するに、同志ヴィクターの後を継ぐこの彼が『困らないように』かつて『かの船』に救われた人間達で『家庭教師チーム』を結成したのさ」
すぐさま落ち着いた閣下は、咳払いをしてから事情を説明した。
「…な、なるほど。
…あ、失礼しました」
「いえ。…実を言うと、故郷でも同じ状況が多々発生してましたし」
謝る大統領に、俺は苦笑いしながら補足する。
「…確か、ライシェリアでしたよね?」
「ええ。なにぶん田舎なので、情報は通信と同じ速度で伝わりますからね。
…ところで、どうして大統領閣下はこちらに?」
「…あ、そうでした。
実は、オリバーさんに折り入ってお願いしたい事があり参上した次第です」
「……『プロテクトウィング』、すなわち『かのシステムを無力化するシステム』についてですね?」
「…っ、はい。
…そもそも今回の一件は、我々の管理不足が招いた失態です」
…なるほど。確かに、此処にある『データ』…すなわち遺品でもあるクラウス博士の『論文』なら容易いか。…とんでもない冒涜行為だな。
「…故に、我々はこの事態の収拾に努めなければなりません。
…ですが、情けない事に我々だけではどうする事も出来ません。ですから、どうか我々にもう一度『託して』下さい!」
大統領は深く頭を下げて懇願してきた。
「…どうか頭を上げて下さい。
寧ろ、頭を下げるのは俺のほうです」
「……」
「…『私の船』の力で誰かが不幸になる前に、どうか、貴女方の力を貸して下さい」
「…私達を、許してくれるのですか?」
頭を下げた俺に、大統領は不安そうに聞いて来た。
「…ふむ、どうやら閣下は一つ大きな勘違いをされているようですね」
「…え?」
「そもそも、貴女方に何も非は無いんですよ」
「…っ」
「悪いのは全部、『盗んだ連中』です。
だから、俺は勿論…恐らくは祖父も貴女方を責めるつもりは毛頭ありません」
「……っ、ありがとうございます……」
ふと大統領は一筋の涙を流した。…余程責任を感じていたんだな。
「…ブリック閣下……。
…全く、許せんな」
「同感です。…ブラウジス閣下」
「分かっている。帝国の威信に掛けて実行犯並びに黒幕を必ず処断する事を、此処に誓おう」
俺が皆まで言わずとも、閣下は低い声で宣誓した。
「お願いします。
…さて、それでは早速情報をお渡ししましょうー」
俺はパッと雰囲気を変え、専用のタブレットを取り出すのだった-。