-Side『アウトロー』
「-……はあ?」
海賊の首領は手下の報告を聞いて、間抜けな声を出した。…その報告が余りに現実離れしていたからだ。
「…なんだ、その笑えない冗談は……?
『泳げなくなった』戦艦と戦闘機が復活した…?制圧に回した連中が、警備隊ごときに捕まった…?
何が、どうなってやがるっ!?」
首領は近くの壁に八つ当たりをする。直後、パワードスーツによって強化された拳は硬質素材の壁に容易く亀裂を入れた。
『……っ』
手下達は、その鬼気迫る様子に息を飲んだ。
「…はあはあはあ。…おい、『上』の連中は何か『おかしな事』を言ってなかったか?」
その行動で、なんとか冷静さを取り戻した首領は手下に確認を取る。
「『おかしな事』…?…そう言えば、『翼』がどうのって-」
「…っ、やっぱりか。…迂闊だった。まさか、ホワイトメルに『あれ』が隠されていたなんて。いや、よく考えれば此処の国旗は……」
「ボス?」
「もしかして、その船に心当たりが…?」
苦渋の表情をする首領を見た手下達は、嫌な汗を流した。…すると、首領は顔を上げ口を開く。
「…テメェら若い連中は知らないだろうが、今から半世紀前かつての『大物達』を恐怖のどん底に落とした一隻の船がいたんだ。
その船は、大規模船団や同類でさえドン引く策を使う連中を次々と監獄送りにした『最悪の処刑人』。…その『やり方』は、全部で12通りある。
例えば、『身代金目的の奴』相手に、船を内部から壊し武装もパワードスーツもスクラップに変える、『ネズミ』を使ったり。
例えば、『硬い奴』相手には凄まじいパワーの大型の『暴れウシ』になり、船団を突進しながら薙ぎ倒したり。
…そのやり方の中でも、特に大物達相手にする時は決まって『白いトリ』になり無限に討伐部隊を復活させたらしい」
「…まさか、その『白いトリ』が……?」
「でも、それって昔の話じゃあ……?」
「確かにそうだ。…だが、その船にはもう一つ恐れられた点がある。
それは、その船自体が『不死身』かも知れないって事だ」
『……?』
突然のオカルト話に、手下達は怪訝な表情をした。
「…その船は、何も無敗だったわけじゃない。時には、ボロ負け…いや『藻屑』寸前まで追い込まれた事もあったらしい。
だが、決まってトドメを刺そうとすると運よく『ジャマ』が入りその隙に逃げ仰せられて、その数日後にはまるで何事もなかったかのように再び立ち塞がった…ってのを、昔世話になったボスが言ってた。
…俺も今の今まで信じちゃいなかったが、報告を聞くどうやら本当かも知れねぇ。恐らくだが、『コールドスリープ』の機能も持っているのかもな…」
『……』
「…はあ~、全くもってなかなかの危機だな-」
冷や汗を流す手下に、首領は頭を抱える。しかし、その表情は悪どい笑みだった。
「-普通なら。
だが、とても幸運な事に俺達はトリの『弱点』を知っている」
『……』
手下達は、聞かされていなかったのか互いに顔を見合せた。
「…そう言えば、『例の御仁』にあの兵器と一緒にデータチップを貰ってましたね。もしかして…?」
幹部の男が聞くと、首領は頷く。
「…ああ。ただ、内容は『この星系でコトが上手くいかない時は、とりあえず建物…特に-動けない人間-が居る場所を制圧すれば万事上手く行く』…とだけしか書いてなかったが。…まさか、真っ先に目指した場所が『そこ』だったとは自分の強運が恐ろしいぜ。
-…いいかお前ら、これはチャンスだ。
『大先輩』達が手も足も出なかったかの船を倒せば、俺達は一気に『人気者』だ。
そして、かの船と大量に抱えている『秘宝』への手掛かりも同時に手に入れちまえば、最早争奪戦は勝ったも同然!」
『っ!』
手下達は、ギラギラとした欲望を目に宿した。
「…さて、まだか?」
首領は、自分の前にある『清潔感溢れる重厚なドア』…そのセキュリティを『破ろう』としている手下に声を掛けた。
「…クリア」
直後、手下が呟くと同時に重厚なドアはゆっくりと開いていった。
「…良くやった。
さあ、行くぞ野郎共!」
『おおっ!』
首領は一番に中に入り、手下達はその後にぞろぞろと続くのだった-。
◯
-…やれやれ、面倒な事になったな。
俺は、先程まで見ていた映像を切りため息を吐いた。…そう、実は海賊達の本隊の様子は彼らの背後に『密着』した『ネズミ型ドローン』を通して、バッチリ把握していたのだ。
「(…ホント、スパイになった気分だ。)…しかし、なかなかの『人気』だな?」
『…困ったものです。まさか、かつての-賞金首-の残党がまだいたとは…』
俺の言葉に、カノンは心底うんざりした表情になった。
「…それだけだったらまだ良かったが……。一体何処の『誰達』だろうな?
『あのシステム』を完成させ、『このカノーブス』の弱点を海賊に渡したのは」
『…-レスキューカノープス-の機能を直接見た人物は、敵味方を合わせても数える程しかいません。…勿論、敵の場合は必ず全員捕縛するように先代も私も心掛けて来ましたが、まさか取り零しがあったなんて……』
「…その可能性もあるだろうが、もう一つ『宜しくない』可能性がある。
…それは、この一件に元『内部』の人間が関わっている可能性だ」
『…なるほど。あり得ない話ではありませんね。
いえ、むしろその可能性の方が確率的に高いと思われます』
カノンは納得したように頷き、画面にグラフを表示した。
「…全く、なんで『追放されるような人間』を事前に判断するシステムってのは無いんだろうな?…ただ、そう推測する場合一つの疑問が浮上する」
『-どうやって、厳重なセキュリティを破り保管されていた大量のデータを持ち出せたのか?-…ですね?』
「そこなんだよな~?…まあ、『全部』ではなかったのが唯一の救いか。
-…どうやら今日は、いろんな意味で『始まりの日』らしい」
俺はそう締めくくり深いため息を吐いた。
「…カノン、『避難状況』はどうなっている?」
『一階の外来患者並びに職員の避難は完了。現在は、二階の検査入院患者の避難中です』
「…良し。なら、階段入り口に『テレポートドローン』を派遣してくれ」
『畏まりました-』
…ふう、ホント『これ』が漏れてなくて良かったぜ。でなければ、マジで詰んでいた。
『-派遣完了』
「…さて、それじゃあ-」
正面を向いた瞬間、『そこ』にエネルギー状のドアが形成された。
『-っ!?』
そして、そのドアから海賊の本隊が出現した。…連中は、実に良いリアクションをしてくれる。
「よお、海賊の皆さん。よくぞ来やがりました。
あ、初めまして。俺は『プラトー三世』って者だ」
俺は清々しい笑顔で海賊達に名乗った。
『…っ!?』
「…そうか、テメェが新たな『あの船』のキャプテンか」
その名前に手下達はビビるが、いかにもな風貌の大男は並みの人間なら竦み上がるような眼光でこちらを睨み付けた。
「正解」
「…しかし驚きだ。まさか、既に病院に仕込んでいたとはな。…それに-」
俺が平然と頷いた事に、男は殺気をどんどんと膨れ上がらせる。…いや、正確には『この状況』が一番男の神経を逆撫でしているのだろう。
「-いくら強い『トリ達』がいるとはいえ、たった一人で待ち構えて居やがるとはな…?」
「その方が戦い易いんでな。
-…じゃあ、掃討させて貰おう」
「…ナメんじゃねぇぞっ!
おい、やれっ!」
俺が浮遊すると、男は凄まじい形相で吠え手下に怒号を飛ばした。…直後、俺と海賊を囲むように『赤いバリアフィールド』が展開してしまった。
「ほう。…まさか、『別タイプ』まで流出していたとは」
「…本当なら制圧した時に使いたかったが、テメェを倒せれるなら惜しくはねぇっ!
さあ、これでテメェは文字通り『孤立』したっ!野郎共!」
『おおっ!』
男の『勝ち誇った号令』に、手下達は一斉に襲い掛かって来た。