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守護の翼②

-そもそも、何故このシステムは考え出されたのだろうか?…それを解決する答えは、最初に論文を発表したとある『医療従事者』のインタビューにある。


『-このシステムは、元々私の大切な家族を救ってくれた恩人が考案した物です。…その恩人は、つい先日星になりました。だからこそ、未だ返し切れていない恩を返すつもりで今まで研究して来ました。

 しかし、昨日私は恩返しの手段の一つとなる筈だったそれを、-仇-となる前に破棄しました』

 …つまり、その医療従事者は恩人から託されたモノをリアルにしようとしただけなのだ。

 …しかし、ここで新たな疑問が浮かぶ。

 その『恩人』は、どういう経緯でその発想に至ったのだろうか?

 …その答えを知る者は、おそらくこの広い宇宙の中で僅かしかいないだろう。



 -…なーんて特番では締めくくられてたが、まさか今日自分がその一人になるなんてな~。

 俺は、数秒前の危機をすっかり忘れて興味津々で『不思議な空間』のあちこちを見ていた。

「…い、一体此処は……?」

「私達は、どうやって此処に…?」

『真下』にいる護衛チームの人も、混乱しつつ周囲を警戒していた。…そう、今この空間は無重力状態なのだ。それが意味するのはー。

『-フロア内のバイタルチェック、完了。緊急輸送者二十名の内軽傷者十五名確認。

 治療の為搬送チームを派遣します』

 すると、フロア内に凄く聞き覚えのある声のアナウンスが流れたかと思ったら下にある大きなドアが開き、そこから『二人一組』で担架式のカプセルベッドを持った大型のドローンが怪我人分入って来た。

『っ!?』

「あー、ご安心下さい。先程も説明しましたが『この船』は帝国政府が極秘裏に開発していた『特殊医療船』です」

 いきなり現れたドローンの大群に『一緒に輸送された』警備隊の人達は驚くが、閣下が『微妙に嘘の混じった』説明を再度してくれた。

『……』

 そして、怪我人は自らカプセルベッドに入りどこかへ搬送されて行った。…さて、そろそろ俺も行こうかな。

「…行くんだね?」

「ええ。…『受け継いだのは』俺ですから」

 俺はそう答え、ドローン部隊と共に来ていた鳥型ドローンの脚に掴まり、船のコクピットに向かった。



「-マスター、お迎えに上がりました」

 コクピットに入りると、やはりカノンが出迎えてくれた。

「ナイスタイミングだ、カノン。

 …しかし、これがあの『レスキューカノープス』か」

 …そう、なんとこの船は例のノベルに出てくる『-何故なら、その船はあらゆる状況を迅速に解決する12の-獣-がいるのだから。そして、導きの船と獣が一つとなる時あらゆる逆境は打ち砕かれる』…と言ったワクワクする説明がされていた、『合体形態』の一つなのだ。

 その正体と名前は、『獣の一体』である『EJ-10(イージェイイチゼロ):レスキューウィング』とカノープスが『合体』した『広域救援船-レスキューカノープス-』。…いやー、最高だね。

「…それに、まさか『かのシステム』のルーツがこの船の『瞬時緊急離脱システム-レスキューエスケープ-』だったとは驚きだ」

「流石マスター。その通りでございます」

 俺はコクピットのモニターに表示された『宇宙空間』を見ながら、更にニヤニヤした。…場所は恐らく、さっきまでいた中心部の高層商業ビルの『反対側』だろうか?…と。

 そんな時、ふと通信を知らせる音が鳴った。

「マスター、こちらを」

「ありがとう」

 俺は、彼女が差し出した特殊な機能…『別人の顔』になるゴーグルを装着し操縦席に座った。

 直後、モニターに帝国軍の指揮官服に身を包んだ壮年の軍人が表示された。

『-こちらは、帝国軍ホワイトメル星系防衛隊です。…速やかにこの星系より退避して下さい』

「ご忠告、ありがとうございます。…ですが、その忠告は聞けません。何故なら-」


『-艦長っ!敵の中隊が移動を開始っ!標的はあの船です』

 あくまで冷静に避難勧告をしてくる戦艦の艦長に、俺も冷静に『ノー』と返した。それと同時に観測手が悲痛な叫び声を上げた。

『…くそっ!良いから、早く退-』

 彼が強い言葉で再度避難勧告をするなか、コクピットにアラートが鳴り響いた。…うわー、悪趣味な色だ。

 血のように赤い船団を見て思わず顔をしかめていると、船団から一斉にビームが発射された。

「-『カウンターシールド』展開します」

 しかし、俺の隣に控える彼女は凛とした表情を崩す事なく冷静に告げた。

 直後、船は純白のバリアに包まれた。…だが、当然ビームはシールドに当たる直前で突如『穴』に吸い込まれ-。

『-な、なに……』

 次の瞬間、俺の船に群がる船団は次々と航行不能に陥った。

 その理由は簡単だ。この船のバリアで、海賊達が放ったビームを『返却』してやったからだ。

「-…とまあ、当船はこのように『マルチショートワープキャンセラー』を搭載しておりますので、何の心配はいりません。

 -ああ、申し遅れました。

 当船は、『広域救援船-レスキューカノープス』号です。そして、わたしは船長の『プラトー三世』です」


『-っ!?』

『…レスキューカノープス…っ!?』

『それって、あのデータノベルの…?』

『…この星系の国旗のモチーフになった、-守護の翼-…?』

『しかも、プラトーだって…』

 こちらの名乗りに、あちらさんは騒然とした。

「あ、こちらがIDカードになります」

 間髪入れずに、俺は食事の前に受け取ったもう一つの身分証を見せた。

『-っ!?そ、それはっ!?…まさか、貴殿は『同志』だというのか……?』

『-っ!二番艦より通達っ!防衛網持ちませんっ!』

「…さて、それでは『支援行動』を開始するとしましょう-」

 緊急の通達に、俺は船に搭載されている大量の『無人機』の内『状況打破』と『遊撃』に適した三つの部隊にスクランブルのオーダーを出した。

「-ハッチ解放。チーム『ブースターコンドル』、チーム『ガードスワン』、チーム『スイープピジョン』発艦します」

 直後、船から三種類の大型鳥をモチーフにした乳白色の大きい無人機が星系全域に飛び立って行った。

 そして、その内の二部隊の『鳥達』は変形しながら合体を繰り返し『ブースターコンドル』は文字通りブースターに。『ガードスワン』は大きな翼となった。


『-っ!?ブースター、オートパージ開始っ!』

『何だとっ!?』

感動しながらそれを見ていると、戦艦の方が慌ただしくなった。まあ、言葉のとおり機能停止したブースターがオートで切り離されているのだから驚くのは当然だろう。

すると、『スイープピジョン』は速やかにパージされたブースターを回収し、その直後『ブースターコンドル』と『ガードスワン』は航行不能となった戦艦と戦闘機に次々と『ドッキング』していった。。…おー、中々『仕込み上手』な人が設計しているなー。

 恐らく、最新の艦隊と戦闘機には『非常用』としてオートパージとドッキングシステムが採用されているのだろう。


『…この戦艦に着任した時幾つか分からない機構があったが…。この為の物だったのか』

 次々と息を吹き返していく艦隊を見て、彼はポツリと粒やいた。

「…ふふ。驚くのはまだ早いですよ」

『なに…?』

 俺がそう言った直後、海賊の船団が次々と『自滅』していった。

『…まさか、この翼にもそのシールドと同じ機能が……?』

「当然の備えですよ。…おや?」

 再びアラートが鳴り、操縦席のモニターを確認する。すると、小隊規模の船団がこちらに突撃してきた。ほう、中々良い判断だ。確かに、この船は無人機のコントロールとシールドと医療設備にエネルギーを割いているので、まともな武装は何一つない。そして、シールドもビームカウンターに特化しているから、取りつかれて自爆でもされたら流石にアウトだろう。

「-…無礼られたものですね。まさか、『その対策』をしていないと思っているのでしょうか?」

「なら、教えてやるとしよう。

『-何人もこの船の羽ばたきを止める事は出来ない』とっ!」

 俺は高らかに言い放ち、『敵に使用するのを前提』にした部隊にオーダーを出した。

「ハッチ解放。チーム『ファニーレイブン』、発艦します」

 直後、グレーの小型鳥をモチーフにした無人機が次々と飛び立って行き、先程と同様合体していくがそれほど大きな翼にはならなかった。


 そして、グレーの翼の集団は船団に向かって行き船に取りつこうとした。しかし、船団はバリアを展開しそれを阻止しようとするが…-。

「-甘い」

 なんと、グレーの翼達の付け根にあたる部分が強烈に発光しそのままバリアに張り付いたのだ。…次の瞬間、バリアの『面白い位置』に張り付いた翼の『面白い位置』に搭載された二基のブースターが火を吹いた。

 当然、二つの意味で『面白い位置』に付いているブースターでまともに航行出来るわけもなく、船団は『面白可笑しく』明後日の方向に向かったり衝突したりした。

「(…もう大丈夫かな?)では、後は防衛隊の皆様にお任せするとしましょう。…失礼しても宜しいですかな?」

『…ああ。貴官の協力に感謝する!全艦、速やかに海賊を掃討せよ!』

 彼は敬礼し、味方に指示を出した。そのタイミングで通信は切れた。


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