-…さて、どこかな。
俺は車を降り丘の周辺を見渡した。しかし、『いかにも』な所はなかった。……ん?
とりあえず裏手に行こうとしたその時、前から車が来ているのが見えた。やがて、その車は軽トラックの真横で静止して地面に着地した。
「-やあ、オリバー君。こんばんは」
車からライトとエンジン音が切れ、車から身なりの良い服を来た壮年が挨拶しながら降りて来た。
「…し、市長っ!?………はい、こんばんは」
俺は驚くが、直ぐに冷静になって挨拶を返した。
「…ふふ、流石はヴィクターさんの孫だ。どうして私がこんな時間にこんなに場所に来たのか、気付いたようだね?」
「…ええ。市長も、祖父に何か頼まれていたんですね?」
「ああ。…彼に頼まれていたのは、『今日の夜』に君を『遺産』の元へと導く事だ」
「…っ!?」
「…実はね、昔彼が市庁舎に寄贈してくれたアンティークの柱時計と惑星模型には、とある仕掛けが有ってね。
それは、今日の19時を告げる鐘の音が鳴ると模型の台座から『これ』が出て来るようになっていたんだ」
そう言いながら市長は、ポケットからカードキーを取り出した。…ここまでするって事は、相当大事で相当凄いモノが此処に……。
「…じゃあ、案内しよう」
「…お願いします」
市長は一旦キーをポケットに戻し、腕に着けたデバイスを操作し明かりを点しゆっくりと歩き出した。
-そして、数分後。市長と俺は普通のドアの前に立っていた。…あれ、此処って。
「…そう。この先は、非常事用の食料や物資なんかがある貯蔵庫さ。
…そして、そんな場所だからこそ『秘密』を守るに最適なのさ」
市長はデバイスでドアを開けながら、こちらを見てニヤリと笑った。…確かに、此処なら滅多な事では人が入らないな。その上、管理は市庁がしているから……なんだこの完璧な布陣は。
俺は、物凄くワクワクしながら市長の後に続きドアをくぐり抜けた。…それから少し、明かりの点いた通路を進み再び普通のドアの前にたどり着いた。
「-…さて、いよいよこれの出番だ」
そして、明るくなった貯蔵庫で市長は再びカードキーを取り出し正面の一見何もない壁に向かって歩き出した。…まさか。
すると、俺の予想通り市長が壁の前に立った瞬間、彼の眼前にカードリーダーが出現した。…『ステルスバリア』か。全く、祖父ちゃんの『知り合い』ってのはなんちゅうモノを……。
どんどんテンションが上がるなか、市長はロックを解除した。
「-さあ、此処からは君自身の目で確かめなさい」
「…分かりました」
俺は頷き、開かれた秘密のドアをくぐり抜け中に入った。直後、案の定ドアは閉まった。…さて、どうするかな?
何もない部屋で、俺はどうするか考える。…しかし、答えは直ぐに出た。…となると、問題は『何を鍵にしているか』だ。
俺は、祖父ちゃんが思い付きそうな『コト』を考えた。…まてよ?
だが、ふと疑問が浮かぶ。『ここまでした祖父ちゃん』が、最後の最後で『行き詰まる』ような事をするのかと。…だとすれば、ヒントは直ぐ近くに…っ!そうか…。
俺は確信を抱きつつ、息を吐きそして勢い良く息を吸い込む。
「-カノープスッ!」
部屋中に響き渡る大きな声で、この丘の名前の一部であると同時に古代文明における『水先案内人』の意味を持つ星の名前を叫んだ。
『-声紋認証、並びにキーワードを確認しました。転送ポータルのステルスを解除します』
直後、機械音声とは思えない程流暢で華やかな女性の声が聞こえたかと思ったら、目の前の床に『転送ポータル』が出現した。…スゲーの出た。
俺は驚きながらポータルに乗る。すると、瞬時に別の場所に移動した。そこは、まるで船のドックのような場所だった。…っ!
すると、広いドックの明かりが点き『それ』が姿を現した。
『-…一見すると、その宇宙船は重力下の青空を翔る貨物艇のようだった。白銀の船体は流線型で中間あたりから大きなウィングが生えていて、船尾には一つのブースターがあった。…そして勿論だが、戦艦や戦闘用の船と違いコクピットは丸出しで甲板には厳つい武装等は無く宇宙に出ればたちまち海賊達の餌食になってしまうだろう。
…しかし、その見た目に騙されてはいけない。何故なら-』
…その宇宙船を見た瞬間、ふと子供の頃夢中になった…いや今尚大人子供問わず大人気の冒険系データノベルの金字塔たる『名作』の一説を思い出した。
『-通路を展開します』
有り得ない必然に物凄く驚愕していると、目の前にある『船』に乗る為の通路が上から降りて来た。…『事実はデータノベルより奇なり』ってか……?
俺は、偉人が遺した格言を思い出しながらそこを通りドアの前に立った。…すると、コンパスが再び発光し直後にドアが開いた。
どうやら、これはカギの役割もあるようだ。
『-ごきげんよう、マスターオリバー』
そして中に入ると、明るい通路の天井付近に設置されたスピーカーの一つから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。…さっきと同じ声だ。
『マスター、どうぞ右方向にお進み下さい』
俺はその声に従って通路を進んだ。…そして、外見で目算した時間ぴったりで『コントロールルーム』と書かれたドアの前にたどり着いた。
「-初めてまして、マスターオリバー」
コントロールルームに入ると、青いショートヘアの出るトコ出たスタイルの良い美女が、髪と同じ系統の膝までしかないスカートに袖も短い所謂改造メイド服姿で出迎えてくれた。…おい、此処宇宙船の中だよな?
一瞬、『文化の銀河』の端っこの星にありそうな『そういう店』に来たのかと錯覚したが、彼女の容姿を見て『違う』と確信した。
すると、青い髪の『あのデータノベルに出て来る、主人公のサポートを務める女性型アンドロイドと瓜二つ』の人間離れした金の瞳の美女はにっこりと微笑む。
「…流石は先代の血を引くお方。見事な洞察力でございます。
私は『広域探索船-カノープス-』の管理人格にして、マスター専属ガイノイド(女性型アンドロイド)の『カノン』と申します。
どうぞ、宜しくお願いします」
彼女…カノンは深いお辞儀をした。…うわー、『あの(ry…』ガイノイドと同じ名前だー(棒)。…という、茶番を脳内でしてしまうくらいの衝撃が襲って来た。
「…はあ、まさか『あのデータノベル』の主人公のモデルが自分の祖父だったとはなー。…そして、その船が実在してしかも生まれ育った星に眠っていたって…。…どんな確率だよ?」
「…そうですね。
『かのデータノベル』で描かれている、『幻のトレジャーのヒントを実は最初から所持していた』くらいの奇跡的な確率でしょうか?」
俺の呟きに彼女は『ユーモラスな例え』を交えて応えた。
「…ああ、そういえばそんな展開もあったな。あれはちょっとご都合……なるほど。
祖父ちゃんの昔の仕事は『秘宝』の探索だったのか」
「はい。…とは言っても、最初は先代にそんなつもりは無かったんですけどね」
「…あー、『冒険系』によくある『巻き込まれ』のパターンか?」
彼女は、困ったような顔で頷く。
「…はい。元々、先代と私は『傭兵稼業』をしながら気ままな旅をしていました。しかし、その道中でことあるごとに『秘宝』の手掛かりを見つけていきいつしか『最有力候補』になっていたんです。
…只でさえ傭兵は、良い意味でも悪い意味でも注目を集める仕事です。その上、『秘宝』の争奪戦にまで参戦したとなると-」
「-まあ、個人じゃ到底捌き切れない『ラブコール』が四方八方から一斉に飛んで来るわな…。…んで、帝国政府の保護…いや、かつて助けた人が恩を返す為に『政府公認』の探索人…『ファインダー』の役割を祖父ちゃんに与えたのか…。
…しかし、流石は『導きの星』の名前を持つ船だな。あれか?実は『知らない内にマーキングしてました』とかか?」
「…その可能性は否定出来ませんが…というか、流石ですね」
彼女は再びにっこりと笑った。…要するに、祖父ちゃんは『彼女』と出会った瞬間から『最有力候補』になる運命だったのだ。…おっと。
ふとデバイスを見ると、家を出てからそこそこ時間が経っていた。
「あ、お帰りになられるのですね?」
「ああ。…色々と家族に伝えないといけない事もあるし。
それに、明日から『忙しくなる』だろうから早めに寝ておかないとな。…じゃあ、また明日」
「はい、マスターオリバー。お休みなさいませ」
そして、俺は彼女に見送られて家に帰るのだった-。