「-…てな訳で『ここ』を見つけたんだけど、親父知ってた?」
「…いや、全然知らなかった。というか、良く開けられたな?」
数分後、俺は親父を連れてドアの奥の小部屋に戻ったのだが親父も困惑していた。…そして、親父はこちらに視線を向けて、
「俺も驚いてるよ。…まあ、考えられるとしたら物心付く前に登録されていたんじゃないか?」
「…ああ?一体誰がそん……」
そこまで言い掛けた親父は、俺と同じ推測を立てたようだ。
「祖父ちゃんだろうな~。母さんの話じゃ、俺は凄い可愛がられてたみたいだし」
当然覚えていないが、母さんは事ある毎に俺に祖父の話しを聞かせてくれたので自然と推測出来た訳だ。
「…そういや、俺達が忙しい時は決まって親父…先代がお前の面倒を見てくれてたんだよな。それも自ら進んで。
しかも、ある時お袋が目を離した隙にいつの間にか先代とお前が消えて、んで探し出た途端二人して泥だらけになって帰って来たもんだから、お袋は先代をシバいて……」
「…その時だろね~。泥だらけになったのは、納屋に入った事をカモフラージュする為だったのかな?」
「…あ?…まるで先代がスパイ系データノベルの登場人物みたいな言い方だな?」
「…じゃあ、なんでこの納屋を建てた本人は大掛かりな仕掛けと厳重なセキュリティ付きの頑丈なドアを追加したんだろうね?」
「……。…マジか?」
俺の言葉に、親父は更に困惑した表情になった。…まあ、自分の父親が実は凄い過去の持ち主かも知れないんだから、当然の反応だろう。
「…ま、あくまでも可能性の話だよ。
…まあ、今はそれは一旦置いて置くとして問題は『これ』だ」
俺は隠し部屋の中央にある台の上に置かれた、小さな『宝箱』に目を向けた。…ここまでするって事は相当な物が入っているのだろう。
そう考える俺だが、不思議と不安はなかった。…だから、迷わず近付き宝箱を開ける。
「…っ!お、おい……。…ったく、好奇心は先代譲りだな……」
親父は俺の行動に驚くが、直ぐにやれやれといった感じでこちらに来た。
「…こいつは、『コンパス』か……?また、随分とアンティークだな」
宝箱に入っていた物を見た親父は、俺と同じ感想を抱いた。…確か、物凄く単純な仕組みだったよな?
今じゃ、博物館でしか拝めない代物に俺は若干ワクワクしてきた。
「…だが、何だってこんなのを保管する入れ物が『真空式保管ボックス』なんだ?」
-『真空式保管ボックス』とは、長期航行が当たり前になった現代において最も最先端の『保管庫』だ。…確か、祖父ちゃんが三十代後半…つまりこの星でライス農家を始めて数年後に試作品が出来たんだったよな?…って、ちょっと待て。それが今此処にあるって事はー。
「-なあ、オリバーよ。俺は今、とんでもない妄想が頭に浮かんだんだか?」
「…奇遇だね。俺も、親父と全く同じ想像をしていたよ」
「…本当に、俺の親父って何者だよ……?」
親父は、頭を抱えてしまった。
「…まあ、今はとりあえず『これ』を持ち帰るとしよう。でないと、いつまでも掃除は終わらないだろうしね」
「…そうだな。じゃあ、一旦俺が持ち帰ろう。
んで、夕食の後母さんを交えてお袋に話を聞いてみるとしよう」
「…そっか、この家で祖父ちゃんに詳しいのって祖母ちゃんだもんね」
俺は親父にコンパスを渡しつつ、親父の提案に納得した。
「ああ。…んじゃ後は頼んだぞ」
「了解~」
親父は駆け足で隠し部屋を出て行き、俺もそこを出たのだった。
…そして、予想通り階段を昇り切った直後、床は元に戻るのだった-。
◯
「-…なるほど。納屋の地下にねぇ~」
そして、夜の帳が降り切った頃。親父と俺はコンパスと見つけた経緯を母さんと祖母ちゃんに話した。…それを聞いた母さんは唖然として言葉が出なかったが、祖母ちゃんは大して驚いたようには見えなかった。むしろー。
「…祖母ちゃん、もしかして薄々勘づいていたの?祖父ちゃんが、ただ者じゃないって…」
すると祖母ちゃんは、ゆっくりと頷いた。
「…時たま祖父さま宛にいろんな所から紙のメールが来るし、昔あの人が世話になったていう凄い身なりの良い人がちょくちょく来てたからね~。
嫌でもそんな予感は立っちまうさ」
「…そういえば、たまに大量の高級な生お菓子が出てきて同期のやつらと食ってた記憶が。…やっぱり、マジなのか……」
祖母ちゃんの昔話に、親父も唖然とし始めた。
「…おそらくは、その恩人と手紙の主ははどこぞのお偉方だね。それも、『生』を大量に『輸送』出来るくらいの」
「…今思えば、初めてその人と会った時随分と喜んでいたっけね…。
当時は、『やっと彼も身を固めたか』なんて思っていたけど。……ー」
「-『やっと、穏やかなで当たり前の幸せを掴んだか』って事だったのかな?」
言葉に詰まる祖母ちゃんに変わって、俺は予想を口にした。
「…一体、お義父さんはどんな人生を歩んで来たのですか……?」
すると、今まで黙ったいた母さんが皆の気持ちを代弁した。
「…政府の高官が足繁く通って来る時点で、一般人の俺達には想像すら出来ない人生だったのは簡単に予想がついちゃうね……。
あ、そういえば祖母ちゃん。それについて祖父ちゃんは何か言ってた?」
「…ああ。そういえばそれが聞きたいんだったね?
…あ、一つだけ祖父さまに頼まれた事があったね」
「…っ、本当?」
「ああ。…そう、あれはオリバーがまだ小さな頃。時たま忙しくなるあんた達夫婦に代わって、祖父さまと一緒にあんたの面倒を見てた日の事何だけど」
…っ!ピンポイントだな。
「その日、いつものように祖父さまと一緒にオリバーと遊んでいたんだけどちょっと離れてる間に、二人が居なくなってね。
んで、あわくって探しに出たんだが直後に二人が泥だらけになって戻って来たんだわ。…正直、あの時程頭に血が上った日はなかったよ。
けれども、オリバーを洗ってやる為になんとか怒りを抑えて綺麗にしてやって、一旦家の奥に連れて行った後、思っいきり祖父さまをシバいてやったのよ。
…んで、ようやく怒りが収まった頃なんでもこんな事したか聞いてみたんだよ。したら『今日俺はあの子に託したのさ』…って、当時のオリバーみたいキラキラした顔で言ったのさ。
…だから、そのコンパスは祖父さまがオリバーに託したモノだろうよ」
「…けれど、オリバーとこの人の話じゃ凄く厳重に守られていたんでしょう?この年代物のコンパスにはそれ程の価値があるのかしら?」
「…そこなんだよな~」
母さんの当然の疑問に、俺も同意した。
「…そう言えば、こうも言ってたね。
『託したモノが真にあの子の手に渡った時、全てが始まる』…って」
「…つまりは、今日か明日には確実に何かが起こるって訳だ」
「…一体何が……?」
「……?」
俺は再びコンパスを見た。…すると、僅かに発光していた。
「…っ!」
「…早速か」
両親もそれに気付き身構える。…しかし、祖母ちゃんはゆっくりと動き出しリビングの端にある小さなタンスから、ここらで余り見掛けない綺麗な乳白色のライダーゴーグルを取り出した。
「…それは?」
「祖父さまがお星さまになる前に『これだけは、絶対棺に入れるな』って私に預けてくれたものだよ。…もしかすると、『この時』の為の物かも知れないよ?」
「…分かった」
俺は祖母ちゃんの元に行き、そのゴーグルを受け取りそれを装着した。…その瞬間-。
-っ!VRシステムか…。
俺の周りの景色はリビングから、外の景色に変わっていた。そして、目の前にはこの辺りのランドマークになっている小高い丘があった。…此処に行けって事だよな。全く、随分と手の込んだギミックだな~。
「-…どうやら、当たりみたいだね?」
「…一体、何が見えたの?」
自然とにやけながらゴーグルを外すと、祖母ちゃんは優しく母さんは不安げに聞いてきた。
「…ちょっくら丘に言って来る」
「…え?…まさか、そこが本命か?」
「多分ね。…親父、車貸して」
「…分かった。あ、キーの場所は分かるか?」
「小さな頃から仕事手伝ってるから分かってるよ。…じゃ、行ってきます」
俺は逸る気持ちを抑えながらキーの保管場所に行き、そして親父の『軽トラック』で丘に向かうのだった-。