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episode14 「騎士様はまだ本調子でないように思います」

「……そいつはまずいな。カルムに来なくとも、近隣の村や街で被害が出る可能性がある。うちと良くしてもらってるところに行かれちゃ、たまったもんじゃねぇ」


 私は訪れたことはないが、カルムより少し離れた場所に同じように村があると聞いた。村長や長鎗の彼女、副村長がときたま何日か村からいなくなることがあるのは、そのためである。特に長鎗の彼女は村長か副村長、そのどちらかが他の村を訪ねるときに護衛として着いて行く。

 村の周囲はある程度散策したつもりだ。

 しかしそれでも、カルム以外の村を見つけたことは一度しかない。なので、それほど村と他の村の距離は離れているのだろう。

 村間の交流の大事さを、私は知らない。

 自分たちの居住区ではないのに、と私は思う。だが村長がそう言うからには、きっと大切な事なのだろう。

 ただ、だからと言って打って出るには厄介な相手である。巨体に加え、赤く赫奕する謎の魔法。そういえば、あれほどの輝きで口から放たれたにしては随分と威力のない攻撃である。もしかしたら、強く煌めくことで、目くらましを狙う魔法なのかもしれない。


「周囲の村々にも危機を与える存在であることは分かります。ですが、魔獣は巨体であるにも関わらずこちらからは普段見つけることが出来ないような存在です」

「あぁ、捜索するにはちと危なすぎる。他の村には、なるべく自分らで対処してもらうしかねぇ」


 村長の言うことに、肯定するように短く返事をした。

 あれほどの巨体ならば、普段発見出来てもおかしくはない。それなのに、今までに一度も、狼の魔獣を見かけたという報告はないのだ。なので、対象はカタツムリの魔獣のように身を隠す術を持っている可能性がある。

 しかしその場合、村に近づいてから姿を現せばいいのではという疑問が浮かぶ。フリストレールの人間に敵意を持っている存在なのだ、わざわざ身を晒して迫る必要はないだろう。

 何か条件があるのか。

 例えば、夜にだけ実体化していた王のように。

 ……直近であった出来事のため、どうしてもカタツムリの魔獣と比べてしまう。

 二体は別個体だ。連想はあくまで、可能性として見るだけにしておかねばならない。恐らく人のような思考に巨大な存在、その点に印象が引っ張られて、似た存在として分析してしまっているだろう。

 人の理解の領域外に対して、そして村を守護しなければいけない身としては、その凝り固まった理論構築は破棄しなければならない。


「騎士様、本当にどこも悪くはなんでしょうか」


 憂わしげな表情で、奥様が言った。

 その額には、眉間からうっすらと影が走る。


「お気遣い感謝致します、奥様。ですが、私は平気ですので」

「騎士様本人がそう言っているんだ。警戒体勢は緩めていないし、また魔獣が来たら出てもらおうじゃないか」


 人を食ったような表情で、副村長が語り掛ける。本人が言っているのだから、やらせればいいじゃないかという思惑。私もそのつもりなので、とりわけ思うことはない。

 しかし、「ですが」そう言ったあと、奥様は言葉を呑み込んだ。

 長鎗の彼女といい、奥様といい。言葉を発していない間があるのが気になる。その隙間にどんな意味が内包されているのか、私には感じ取る力がない。

 まだ人が発する空気を、読み取れない。


「お父様、騎士様はまだ本調子ではないように思います。なので、そろそろ」


 分からなかった点を、図ったかのようなタイミングで長鎗の彼女が補助に入る。まるで私が奥様の意図を察することが出来ないと、分かっていたかのように。


「リーデ様。先ほども申し上げました通り、私に不調はありません。ですから」


 言葉の続きを発する前に、長鎗の彼女が「騎士様」という言葉で遮る。


「あぁ、そうだな。病み上がりだろうからな」


 言って、踵を返す。

 副村長が何か物足りなさを感じてか、すぐに物を言い出しそうに唇を噛むのが見て取れた。しかしすぐにそれをやめると、短く息を吐く。


「いいのかい、もっと聞いておくことがあると思うけどね」

「リーデが言うんだ、病み上がりなのは事実なんだろうぜ」


 じゃあ、お疲れさん。

 そう言い残し、村長はそのまま扉を開けて出て行ってしまった。

 何か用事でもあるのかと思うくらい、颯爽と。意外なほどにさっさと出て行ってしまったため、残された副村長と奥様の動きが一瞬停止してしまっている。

 だがしかし、魂ごと抜けてしまうのではないかと思うくらい、大きな溜め息を吐いた、その後に。続くようにして副村長も出て行ってしまった。

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