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episode55 「じゃあ、そいつを見つけないとだね」

 突如飛来した魔弾は中空を奔り、そのまま自警団の一人に直撃した。


「なんだぁ?」


 恐らく見たことがないであろう兵器の襲撃に、巨躯の彼が思わずそう漏らす。いち村人が、本来は首都の兵士だけが持つ武器と相対する機会などないだろう。

 その驚愕はすぐさま他の自警団も感じ取った。

 今まで野盗と剣戟を交わしていた仲間が、硝煙を上げながら倒れたのだから。白目を向いて地に横たわったその様を見るに、もう事切れている可能性が高い。

 突然飛来し、仲間の命を奪う謎の物体。これまで村を自衛してきたといっても、見た限り自警団は三十人程度だ。その事実は波紋が広がるように瞬く間に伝播した。

 なんだ今のは。

 自警団の一人が叫ぶ。

 何人かは事が呑み込めず動きを停止してしまっている。


「おい騎士様! ありゃなんだ!?」


 焦燥感を含む声で、巨躯の彼が私に問う。


「あれは魔弾と呼ばれる武器です。筒状の装置から弾を込めて発射するという構造です」

「なるほどな! だがどういうことだ、発射する奴がいねぇぞ!」


 焦りからか、叱る様な大きい声を出す。


「使用したことがないので詳しくは分からないのですが、どうやら長距離を攻撃出来るようです」

「じゃあ、そいつを見つけないとだね」


 会話していたはずの巨躯の彼の代わりに答える別の声。それはいつの間にか私たちに接近していた、双剣の彼女だった。


「セシルか、無事だったんだな」

「このくらいは、ね!」


 言いながら、野盗の背中を的確に貫く。

 だがその間に弾丸はもう一つ飛来して、名も知らぬ自警団の頭部に炸裂した。

 やはり記憶のとおり、きちんと頭部に命中すれば命を奪うことの出来る武器だ。私のときはたまたま、弾が劣化していたに違いない。


「おう、そりゃ同意だが……」

「私が行ってまいります」


 方向も記憶している。その場に留まり同じ場所にいるわけはないが、方角は同じはずだ。


「騎士様が? 行けるの?」

「どのみち、あれは脅威です。早くに処理しなければ被害が増えるだけかと」

「分かった、頼む」


 その提案と理由付けに、巨躯の彼が即答した。

 この場に戦力が一つ減るのと、遠くから狙撃され続けるのとでは流石に天秤に掛けようがない。倍以上いるであろう敵を押しつけて離脱するのは心苦しいが、仕方がない。それは私が早く戻ってくればいいだけのことだ。

 だが会話を聞いていた野盗達が、私が向かうべき方向への道筋を塞ぐ。


「邪魔だ、どけ」


 すぐさま巨躯の彼が一歩、前に出た。そして背中に背負った大きな戦斧を手に取ると、そのまま横薙ぎに振り払う。一陣の豪風が奔り、周囲にまで影響を与えるような、そんな一撃。

 斧は刃で断ち切るのではなく、平で殴るように揮われた。なので、密集した野盗達はその剛力によって纏めて吹き飛んでいく。


「行け、騎士様!」

「感謝致します!」


 謝意の述べながら、切り開かれた道を駆け抜ける。その後ろではげしい金属音と、肉に刃物が突き刺さる音がひっきりなしに上がった。私を追撃しようとした者に、彼らが対応した音だろう。血を吐くような喚声が、その応戦を物語る。

 射手の主はそれで察したのか、魔弾を私目掛けて撃ち込んできた。遠距離武器の対処としては、距離という優位性を無くしてしまうのが手っ取り早い。

 戦場で接近されて殺されてしまった射手を何度も見ている。魔弾といえど、それは変わらないはずだ。

 厄介なのはその速度だが、ありがたいことに魔弾はしっかりと軌跡を残しながら接近してくる。結局は点の攻撃だ、捌くことはさほど難しい話ではない。

 飛んできた弾丸を、預かった剣によって弾き飛ばす。弓やボウガンで経験があったため、可能だろうと踏んでの対応であった。躱してもよかったのだが、それは同時に後ろへ魔弾を送るということでもある。それは厄介事をそのまま流すということであり、味方に対しては避けるべき行為だろう。懸念すべきは威力であったが、上手く弾くことが出来た。もちろん、手に奔る衝撃は矢やボウガンの比ではない。反動が柄を伝わって、掌から腕まで痺れる。

 だが対処は可能だと分かった。間髪入れずに飛来した二発目も、そうして対応する。

 しかしそう何度も来られても困るというもの。遮蔽物のない平原は射手にとって、私を狙いやすいことこの上ないだろう。頻繁に襲来する魔弾を弾き続けながら、両腿に意志という鞭を入れて地面を蹴り続ける。

 やがて平原が砂丘のように、ゆるやかに起状した果てに、まばらに木がそびえ立つ林が立ち塞がった。走った距離を考えると、なかなかの距離から狙撃していた。流石に目視ではなく何かしらの補助器具を用いての射撃だろうが、それでもだ。野盗というならず者の集団に身を置いておくのは、惜しいと言えるかもしれない。

 同時に、あれだけ撃ち込んできていた魔弾が嘘のように鳴りを潜める。残弾がなくなったのだろうか、たしかにあれだけ撃てば納得出来る理由だ。当然、そう見せかけて発射を止めたということも考えられるが。

 林は先日の森ほど木が密集しているというわけではなく、空も見あげることが出来る程度の緑だ。等間隔でまばらに叢がる木々。見た限りでは誰かいる気配はない。

 物陰や木の上から狙われると面倒だが、立ち入らないわけにはいかないだろう。既に林から移動したという可能性は考えられる。林の後ろは巨大な一枚岩があり、私が木々に隠れるという理由で射撃が止んだというのもあるかもしれない。

 なんにせよ、可能性でしかない。

 林を注意深く進まなければならないのには変わりない。

 行く道はわずかに湿っていて、足裏には弾むような感覚がある。だが見たところ、足跡らしきものは見当たらない。そのため、木の上を移動している可能性が高い。

 そうして林道を進んでいると、やがて木に何かが当たる音がした。小さい、小石のような大きさの何か。

 反射的に、音のしたほうへ視線を向ける。

 途端に、頭上から中空を引き裂くような金属音が林に響き渡った。

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