目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
134話 運命のレセプション ③

 約40分前のこと――


顔にヴェールをかぶせ、イブニングドレス姿のベアトリスがレセプション会場に入場した。


「ベアトリス、君は今や世界的に有名な歌姫なんだ。時間になるまではヴェールを取らない方がいい」


一緒に会場入りしたカインが耳打ちしてきた。


「ええ。大丈夫、心得ているわ」


ベアトリスは周囲を見渡しながら返事をする。


「一体さっきから何を捜しているんだ?」


「別に、何でも無いわ」


そっけなく返事をするベアトリスにカインは肩をすくめる。


「やれやれ、相変わらずそっけない態度だな。もっともそういうところもいいけどな」


「妙な言い方をしないでくれる? 言っておくけど、私とあなたは団員としての仲間。それだけの関係なのだから」


ベアトリスが周囲を見渡しているのには、ある理由があった。


本当は、このレセプションに参加するつもりはベアトリスには無かった。だが、貴族も参加するという話を耳にし、急遽出席することにしたのだ。


(今夜のレセプションは周辺貴族は全て参加しているはず……絶対にルシアンは何処かにいるはずよ……!)


ルシアンを捜すには、隣にいるカインが邪魔だった。そこでベアトリスは声をかけた。


「ねぇ、カイン」


「どうしたんだ?」


「私、喉が乾いてしまったわ。あのボーイから何か持ってきてもらえないかしら?」


「分かった。ここで待っていてくれ」


「ええ」


頷くと、カインは足早に飲み物を取りに向かった。


「行ったわね……ルシアンを捜さなくちゃ」


ベアトリスは早速ルシアンを捜しに向かった――




「あ……あれは……ルシアンだわ!」


捜索を初めて、約10分後。

ベアトリスは人混みの中、ついにルシアンを発見した。


「ルシアン……」


懐かしさが込み上げて近づこうとした矢先、ベアトリスの表情が険しくなる。


(だ、誰なの……!? 隣にいる女性は……!)


ルシアンの隣には彼女の知らない女性が立っていた。

金色の美しい髪に、人目を引く美貌。品の良い青のドレスがより一層女性の美しさを際立たせていた。

彼女は笑顔でルシアンを見つめ、彼も優しい眼差しで女性を見つめている。

それは誰が見ても恋人同士に思える姿だった。


「あ、あんな表情を……私以外の女性に向けるなんて……!」


途端にベアトリスの心に嫉妬の炎が燃える。


(毎日厳しいレッスンの中でも、この2年……私は一度も貴方のことを忘れたことなど無かったのに……! まさか、新しい恋人が出来たっていうの……!?)


「……許さない。ルシアンは私のものよ……!」


世界の歌姫は、人一倍熱い情熱を持っていたのだ。

何と声をかけて2人に近づこうかと思案していると、幸いなことに女性がルシアンから離れていく様子が見えた。


「今のうちだわ!」


ベアトリスは人混みをかき分けて、ルシアンのもとに近付くと背後から声をかけた。


「あの、少し宜しいでしょうか?」


「え?」


ルシアンは振り向き、ヴェールを被った女性を怪訝そうに見つめる。


「……どちらさまですか?」


そこでベアトリスは口元に笑みを浮かべると、被っていたヴェールをそっと上げた。


「私よ、ルシアン」


「! き、君は……!」


ルシアンの顔に驚愕の表情が浮かぶ。


「久しぶりね、ルシアン。……元気だった?」


ベアトリスは極上の笑みを浮かべて、ルシアンを見上げた――



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?