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133話 運命のレセプション ②

 馬車が到着したのは、デリアの町の中心部にある市民ホールだった。


真っ白な石造りの大ホールを初めて目にしたイレーネは目を丸くした。


「まぁ……なんて美しい建物なのでしょう。しかもあんなに大勢の人々が集まってくるなんて」


開け放たれた大扉に、正装した大勢の人々が吸い込まれるように入場していく姿は圧巻だった。


「確かに、これはすごいな。貴族に政治家、会社経営者から著名人まで集まるレセプションだからかもしれない……イレーネ。はぐれないように俺の腕に掴まるんだ」


ルシアンが左腕を差し出してきた。


「はい、ルシアン様」


2人は腕を組むと、会場へと向かった。



「……ルシアン・マイスター伯爵様でいらっしゃいますね」


招待状を確認する男性にルシアンは頷く。


「そうです。そしてこちらが連れのイレーネ・シエラ嬢です」


ルシアンから受付の人物にはお辞儀だけすれば良いと言われていたイレーネは笑みを浮かべると、軽くお辞儀をした。


「はい、確かに確認致しました。それではどう中へお入りください」


「ありがとう、それでは行こうか? イレーネ」


「はい、ルシアン様」


そして2人は腕を組んだまま、レセプションが行われる会場へ入って行った。



「まぁ……! 本当になんて大勢の人たちが集まっているのでしょう!」


今まで社交界とは無縁の世界で生きてきたイレーネには目に映るもの、何もかもが新鮮だった。


「イレーネ、はしゃぎたくなる気持ちも分かるが、ここは自制してくれよ? 何しろこれから大事な発表をするのだからな」


ルシアンがイレーネに耳打ちする。


「はい、ルシアン様。あの……私、緊張して喉が乾いておりますので、あのボーイさんから飲み物を頂いてきても宜しいでしょうか?」


イレーネの視線の先には飲み物が乗ったトレーを手にするボーイがいる。


「分かった。 一緒に行きたいところだが、実はこの場所で取引先の社長と待ち合わせをしている。悪いが、1人で取りに行ってもらえるか? ここで待つから」


「はい、では行って参りますね」


早速、イレーネは飲み物を取りにボーイの元へ向かった。


「すみません、飲み物をいただけますか?」


「ええ。勿論です。どちらの飲み物にいたしますか? こちらはシャンパンで、こちらはワインになります」


 ボーイは笑顔でイレーネに飲み物を見せる。


「そうですね……ではシャンペンをお願い致します」


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


ボーイがシャンパンのグラスを手渡してきたので、早速イレーネはシャンペンを口にした。


「……とても美味しいですわ。ありがとうございます」


「お好きなだけどうぞお飲みください。もう1杯いかがでしょうか?」


「いいえ、1杯だけで大丈夫です。それでは失礼します」


イレーネは礼を述べると、ルシアンの元へ戻ろうとし……首を傾げた。


「……あら? ルシアン様はどちらかしら?」


先程立っていた場所からルシアンの姿が見えない。


「どちらかに行かれたのかしら……?」


イレーネはとりあえず先程の場所に戻り、ルシアンを待つものの中々戻ってくる気配がない。


「……困ったわね……捜しに行ってみようかしら?」


そこでイレーネはその場を離れてルシアンを捜し始めた――




****


「困ったわ……一体ルシアン様はどちらに行かれたのかしら?」


捜し疲れたイレーネは会場のバルコニー近くで立ち尽くしていた。


「このまま会えなかったらどうしようかしら……」


脳天気なイレーネもさすがに不安になってきた。


「こんなことなら、飲み物をがまんするべきだったわね……」


俯いて、ため息をついたとき。


「あれ? もしかして……イレーネさんではありませんか?」


不意に声をかけられたイレーネは顔を上げて驚いた。


「え……? もしかしてケヴィンさんですか?」


現れたのはいつもとは違う、タキシード姿のケヴィンだった。


「はい、そうです。それにしても、まさかこんな場所でお会い出来るなんて……そのドレス、とても似合っています。……お美しいですよ」


ケヴィンは顔を赤らめながらドレス姿のイレーネを褒める。


「ありがとうございます、ケヴィンさんもスーツ姿素敵です。今夜は警備のお仕事ですか?」


「いえ。今回は仕事ではなく、私事なんです。一応これでも伯爵家の次男なんです。尤も兄が後を継ぎますので、警察官をやっていますけど」


「まぁ……ケヴィンさんは貴族だったのですね? それなのに警察官のお仕事をされているなんて立派ですわ」


「いえ、それ程のことではありませんが……イレーネさんはこのレセプションにはどなたかといらしたのですか?」


ケヴィンがためらいがちに尋ねてきた。


「はい、婚約者と来ました」


「ええ!? 婚約者? そ、そんな方が……イレーネさんに……?」


「はい、そうですけど?」


何処か傷ついた表情を見せるケヴィンに返事をする。


「それで……お相手の方は……」


その時会場で大きな騒ぎが起こり、イレーネとケヴィンは振り返った。



「マイスター伯爵! それではベアトリス令嬢が婚約者だったのかね!」


1人の男性の声が響き渡った。


「え……?」


その光景にイレーネは目を見開いた。


「ルシアン……様……?」


そこにはベアトリスとルシアンが並んで立っている姿があった――


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