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118話 ほんのお礼です

 2人で庭の後片付けの作業を開始して約1時間後――


「ありがとうございます、お陰様ですっかりお庭が綺麗になりました」


イレーネがケヴィンに礼を述べた。


「いえ、いいんですよ。地元住民として協力しただけですから。それではそろそろ帰りますね」


ケヴィンが軍手を外し、帰り支度を始めるのを見てイレーネは声をかけた。


「あ、そうですわ。少し、お待ちいただけますか? すぐに戻りますので」


「え? ええ、いいですけど?」


イレーネはケヴィンをその場に残すと、いそいそと家の中に入っていった。そして数分後、トレーを手にして戻ってきた。


「これ、ほんのお礼です。どうぞ」


トレーの上にはグラスに注がれた飲み物に、スコーンが乗っている。


「え? 頂いてもよろしいのですか?」


「はい、これはミントティーです。疲れた身体にいいですよ? こちらのスコーンも私のお手製です」


するとケヴィンが笑った。


「アハハハハッ。大丈夫ですよ、僕の職業をお忘れですか? 警察官で体を鍛えていますからこれくらい、どうってことないです。でも折角なのでいただきますね」


「ええ。どうぞ」


ケヴィンは早速グラスを手に取ると、ミントティーを口にした。

余程喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干しとグラスをトレーに戻した。


「さっぱりした味で美味しいです。ありがとうございます。あの、スコーンはお土産に頂いて帰ってもいいですか? 家に帰ってからの楽しみにしたいので」


「それでしたらもっと持って行って下さい。まだ沢山ありますので。今取ってまいりますね」


「い、いえ。何もそこまでして頂かなくても……」


しかしイレーネは最後まで聞かずに家の中に入ると、今度は紙袋を手に戻ってきた。


「どうぞ、ケヴィンさん。5個差し上げますわ」


そして笑顔で差し出す。


「え? そんなに頂いてもいいのですか?」


「ええ、勿論です。ケヴィンさんには今までにも色々お世話になっておりますから。どうぞお持ちになって下さい」


「……どうもありがとうございます。では、遠慮なく頂きますね」


顔を薄っすら赤らめながらケヴィンは受け取った。


「それでは僕はこの辺で」


「はい、今日は本当にありがとうございました」


ケヴィンは馬にまたがると、イレーネを見つめる。


「イレーネさん」


「はい。何でしょう?」


「今日は……一緒に働けて楽しかったです。それでは失礼しますね」


「え? は、はい」


キョトンとするイレーネに見送られ、ケヴィンは馬に乗って去って行った。

その後姿を見送るイレーネはポツリと呟く。


「ケヴィンさんて……働くのが余程好きな方なのね。さすがはお巡りさんだわ」


ケヴィンの協力のお陰で、畑はすっかり元通りになっていた。


「これなら、明日にでもルシアン様の元へ戻れそうね。フフフ……何だか我が家に帰る気分だわ」


イレーネは青空を見上げて、伸びをすると家の中へ入って行った。


マイスター家に帰宅する準備をするために――





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