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101話 頭を抱えるルシアン

「え? 今日1日、私の為に時間を割く……? 今、そう仰ったのですか?」


朝食の席で、イレーネは向かい合って座るルシアンを見つめた。


「ああ、そうだ。俺は無事に祖父から次期後継者にすると任命された。こんなに早く決まったのはイレーネ、君のお陰だ。あの気難しい祖父に気に入られたのだから」


「ありがとうございます。でも私は何もしておりません。ただ伯爵様とおしゃべりをしてきただけですから。ルシアン様が選ばれたのは元々次期後継者に相応しい方だと伯爵様が判断したからです。それにゲオルグ様が失態を犯してしまったこともルシアン様の勝因に繋がったのだと思います」


「そうか? そう言ってもらえると光栄だな」


元々次期後継者に相応しいと言われ、満更でもないルシアン。


「それで、イレーネ。今日は何をしたい? どこかに買い物に行きたいのであれば、連れて行ってやろう。何でも好きなものをプレゼントするぞ。臨時ボーナスとしてな」


すると、食事をしていたイレーネの手が止まる。


「本当に……何でもよろしいのでしょうか?」


真剣な眼差しで見つめてくるイレーネ。


「あ? あ、ああ……もちろんだ」


(何だ? い、一体イレーネは俺に何を頼んでくるつもりなのだ……?)


ルシアンはゴクリと息を呑んだ――



****



「お呼びでしょうか? ルシアン様」


食後、書斎に戻ったルシアンはリカルドを呼び出していた。


「ああ……呼んだ。何故俺がお前を呼んだのかは分かるか?」


ジロリとリカルドを見るルシアン。


「さ、さぁ……ですが何か、お叱りするために呼ばれたのですよね……?」


「ほ〜う……中々お前は察しが良いな……」


ルシアンは立ち上がると窓に近付き、外を眺めた。


「ル、ルシアン様……?」


「リカルド、そう言えばお前……イレーネ嬢と契約を交わした際に空き家を一軒プレゼントすると伝えてたよな?」


「ええ、そうです。何しろイレーネさんは生家を手放したそうですから。ルシアン様との契約が終了すれば住む場所を無くしてしまいますよね?」


「ま、まぁ確かにそうだな……」


『契約が終了すれば』という言葉に何故かルシアンの胸がズキリと痛む。


「そこで、私が契約終了時にルシアン様から託された屋敷をプレゼントさせていただくことにしたのです。でも、今から渡しても良いのですけ……えぇっ!? な、何故そんな恨めしそうな目で私を見るのですかぁ!?」


ルシアンの視線にたじろぐリカルド。


「当たり前じゃないか……どこの番地にある屋敷か聞いて驚いた……『ミューズ』通りの1番地らしいな……」


「え、ええ……そうですが……?」


すると――


「リカルド!! お前という奴は……一体何を考えているんだ!! な、何であの屋敷をイレーネにプレゼントすると言った!!」


ルシアンの怒声が飛ぶ。


「そ、それはルシアン様が私にあの屋敷を託したからじゃないですか!! 売るなり、更地にするなり好きにしろと! だからイレーネさんにプレゼントすることにしたのです! だって気の毒じゃありませんか! イレーネさんはここを出れば、住む場所を無くしてしまうのですよ!?」


リカルドも負けじと言い返す。


「確かに……お前にあの屋敷の処分を頼んだが……まさか、まだ残していたとは思わなかった」


深いため息をつくと、ルシアンはドサリと椅子に座る。


「いいではありませんか? あの屋敷にルシアン様が足を運ぶことはもう無いのですから。過去は捨てて、イレーネさんに譲渡いたしましょう。というか、もう約束してしまったので今更取り消しできませんよ」


「……もう足を運ぶことは無いだと? だがな……そういうわけにはいかなくなったんだよ! 今日イレーネにあの屋敷に連れて行ってくれと頼まれたんだよ!」


「え……えぇ!! そ、そうなのですか!!」


その言葉にリカルドが目を見開く。


「ああ、そうだ! くそっ……もう二度とあの屋敷に行くことは無いと思っていたのに……」


ルシアンは頭を抱え、ため息をつくのだった――




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