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96話 優先事項は

「一体どういうことなのだ? ブリジット嬢には手紙を出しているのに、俺に手紙をよこさないとは……」


「ああ、イレーネさん。イレーネさんにとっては、私たちよりも友情の方が大切なのでしょうか? この私がこんなにも心配しておりますのに……」


ルシアンとリカルドは互いにブツブツ呟きあっている。


「あ、あの〜……それでブリジット様はいかが致しましょうか? イレーネ様は今どうなっているのだと尋ねられて、強引に上がり込んでしまっているのですけど…… やむを得ず、今応接室でお待ちいただいております」


オロオロしながらフットマンが状況を告げる。


「何ですって! 屋敷にあげてしまったのですか!?」


「何故彼女をあげてしまうんだ!!」


リカルドとルシアンの両方から責められるフットマン。


「そ、そんなこと仰られても、私の一存でブリジット様を追い返せるはず無いではありませんか! あの方は由緒正しい伯爵家の御令嬢なのですよ!?」


半分涙目になり、弁明に走るフットマン。


「むぅ……言われてみれば当然だな……よし、こうなったら仕方がない。リカルド、お前がブリジット嬢の対応にあたれ」


「ええ!? 何故私が!? いやですよ!」


首をブンブン振るリカルド。


「即答するな! 少しくらい躊躇したらどうなのだ!?」


「勘弁してくださいよ。私だってブリジット様が苦手なのですよ!?」


「とにかく、我々ではブリジット様は手に負えません。メイドたちも困り果てております。ルシアン様かリカルド様を出すように言っておられるのですよ!」


言い合う2人に、オロオロするフットマン。


「「う……」」


ブリジットに名指しされたと聞かされ、ルシアンとリカルドは同時に呻く。


「リカルド……」


ルシアンは恨めしそうな目でリカルドを見る。


「仕方ありませんね……分かりました。私が対応を……」


リカルドが言いかけたとき――


「ルシアン様! ご報告があります!!」


突然、メイド長が開け放たれた書斎に慌てた様子で飛び込んできた。


「今度は何だ? 揉め事なら、もう勘弁してくれ。ただでさえ頭を悩ませているのに」


頭を抱えながらメイド長に尋ねるルシアン。


「いいえ、揉め事なのではありません。お喜び下さい! イレーネ様がお戻りになられたのですよ!」


「何だって! イレーネが!?」


ルシアンが席を立つ。


「本当ですか!?」


リカルドの顔には笑みが浮かぶ。


「よし、分かった! すぐに会いに行こう! 彼女と話したいことが山ほどあるからな! それで今イレーネは何処にいるのだ? ひょっとして、ここへ向かっているのか?」


一気にまくしたてるルシアン。


(祖父とどの様な会話をしたのか、尋ねなければ! 何しろ後継者問題が絡んでいるのだからな!)


しかし周囲の者から見れば、今のルシアンはイレーネの帰還を大喜びしているようにしか見えない。

勿論その中にはリカルドも含まれている。


「まぁ、ルシアン様はイレーネ様がお帰りになったのがそんなに嬉しいのですね?」


メイド長はニコニコしながら尋ねる。


「いや、それは違うぞ? 俺は……」


「ですが、すぐにお会いになるのは難しいかと思われます。何故ならブリジット様と今、応接室でお話になっておられますから」


「「な……何だって〜!!」」


再び、ルシアンとリカルドの声がハモるのだった――

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