食後の紅茶を2人が飲み終わる頃、ようやくリカルドがダイニングルームに戻ってきた。
「リカルド、お前は今まで一体何処に行っていたのだ?」
ルシアンがじろりと睨みつける。
「はい、それが……厨房に顔を出して、2人分のお食事を用意して貰いたいと伝えたところ……その場にいた使用人達に囲まれてしまいました。それで、イレーネさんのことを根掘り葉掘り尋ねられてしまって……」
「何だって……それで何と答えたんだ?」
「そ、それは……」
リカルドは興味津々の眼差しで自分を見つめるイレーネに視線を移す。
「私の口から無責任なことを伝えるわけにはいかないので、ルシアン様から後ほど直接話があるので待つように伝えました」
何とも無責任な台詞を口にするリカルド。ルシアンが切れたのは言うまでも無い。
「リカルド! それでは俺に全て丸投げしているも同然じゃ……」
そこでルシアンは口を閉ざす。何故ならイレーネがじっと自分を見つめていたからだ。
女性の前で声を荒げることをしたくないルシアンは、ゴホンと咳払いをするとリカルドに命じた。
「リカルド。イレーネ嬢は紅茶を飲み終えたようだし……ひとまず今は部屋に案内してあげてくれ。そうだな……1時間後、俺の書斎に来て欲しい。まだまだ話し合わなければならないことが山積みだからな」
「はい、かしこまりました。私が責任を持ってイレーネさんをお部屋までご案内します」
笑顔で返事をするリカルドにルシアンは釘を刺す。
「言っておくが、お前にはまだ言いたいことが残っている。イレーネ嬢を部屋に案内したらすぐにここへ戻ってこい」
「はい……」
落ち込んだ様子で返事をするリカルド。そこへイレーネが会話に入ってきた。
「ルシアン様、私なら大丈夫です。部屋の場所は覚えているので1人で戻れます」
「いや、しかしだな……万一、リカルドのように使用人に捕まってしまえば……」
ルシアンは言葉を濁す。
「そのことなら御安心下さい。私、こう見えても口は固いです。何か問われても、ルシアン様から伺って下さいと伝えますから」
「そ、そうか……?」
引きつった笑いを浮かべるルシアン。
(やはり、2人とも……俺に全て委託するというわけだな……)
「分かった。では申し訳ないが……イレーネ嬢は一旦席を外してくれ。リカルドと2人で話をしたいからな。そして1時間後、今度は俺の書斎へ来てくれないか」
「はい、ルシアン様。今朝も美味しい朝食をご馳走になりまして、ありがとうございます。それでは失礼いたしますね」
イレーネは笑顔で席を立つと、ダイニングルームを後にした。
その様子を黙って見届けるルシアンとリカルド。
「リカルド……」
ルシアンが低い声でリカルドを呼ぶ。
「な、何でしょうか? ルシアン様」
「イレーネ嬢を見たか? あんなに質素な身なりに、痩せすぎた体……」
「はい?」
(一体ルシアン様は何を言い出すのだろう?)
「彼女はあんなに細い体なのに、用意した食事を完食した。スープ一滴すら残さずに」
「はぁ………そうなのですか?」
増々訳が分からなくなるリカルド。
「明日から……いや、昼食からもっと食事の量を増やしてくれ。あんな細い体で祖父の前に連れていけば、何を言われるか分かったものではない。そしてあの服装もだ! 彼女に俺の妻として見劣りしないように支度金を用意しろ」
「はい。かしこまりました」
(良かった……てっきり又何か叱責されると思っていた)
「では、すぐに準備に入ります。それでは私はこれで……」
「まだ話は終わっていないそ」
逃げ腰だったリカルドを引き止めるルシアン。
その後、リカルドはルシアンから30分以上叱責されることとなるのだった――