「リカルド……夜のお勤めとは……一体どういうことだ?」
ルシアンが口元に笑みを浮かべながらリカルドを見る。しかし、目は少しも笑っていない。これが一番マズイ状況であるということを、リカルドは知り尽くしている。
「ル、ルシアン様……こ、これはそう! 誤解、誤解なのです!」
「ほう? 誤解? 一体どんな誤解なのだ? 詳しく教えて貰おうじゃないか? だがその前に……」
ルシアンはイレーネに視線を移す。
「イレーネ嬢」
「はい、何でしょうか? ルシアン様」
「もう、メイドの仕事はしなくていい。とりあえず、今日は休むといい。リカルドに客室を案内させよう」
「はい、ルシアン様!」
(やった! この場から逃げられる!)
リカルドは喜々として返事をするが、次に告げられたリカルドの言葉に冷や水を浴びせかけられる。
「いいか? イレーネ嬢を客室に案内したら、ここへ戻ってくるように。分かったか?」
ジロリと睨みつけられるリカルド。
「は……はい! で、ではイレーネさん。参りましょう」
「はい。では失礼致します、ルシアン様」
イレーネは立ち上がると、挨拶した。
「ああ、明日また会おう。……リカルド」
「はい! ルシアン様!」
リカルドは背筋をピンと伸ばす。
「……イレーネ嬢の誤解をきちんと、解くのだぞ。責任を持ってな」
「も……勿論です」
こうして、奇妙な動きを見せるリカルドに連れられてイレーネはダイニングルームを後にした。
「……全く」
ダイニングルームに1人残ったリカルドため息をつき、すっかり冷めてしまった料理を口にした。
「……生ぬるいスープだ……」
そして再びため息をついた――
****
1時間後――
「ルシアン様、戻りました……」
ビクビクしながらリカルドがルシアンの待ち受けるダイニングルームに戻ってきた。
すっかりテーブルの上が片付けられ、今はルシアンの飲んでいるワインとグラスだけが置かれている。
「ああ、戻ったか。イレーネ嬢に客室を用意したのか?」
「ええ、勿論です! 前回よりも素晴らしい客室にご案内致しました! メイド長にもイレーネさんのことを伝えてまいりました。それに使用人部屋に置かれた荷物も客室へ運びました!」
リカルドは説教を恐れ、媚びを売るように揉み手をしながら返事をする。
「そうか……」
ルシアンは手元のワインを煽るように一気に飲み干すと、乱暴にグラスを置いた。
「それで? 先程の話だが……一体、お前は彼女になんて説明したんだ!」
「え、ええとですね……説明と申しますか、求人案内に……記しました」
「ほぅ……では聞かせてもらおうじゃないか? その求人の内容とやらを?」
両手を組み、口元に笑みを浮かべるルシアン。しかし、その目は恐ろしいほど冷え切っている。
「はい、実は……」
リカルドは覚悟を決めて、求人の内容を伝えた。すると、みるみるうちにルシアンの顔が青ざめていき……。
「リカルド!! お前……一体なんてことを書いてくれたんだ!!」
ルシアンの怒鳴り声が、ダイニングルームに響き渡るのだった――