練習量が足りない!
先日の大会を通して気づいたことがいくつかある
前に行くためには、単純な走力が足りない
まず序盤
最初の飛び出しの時点で先頭を取れていなかった
仮に最初の50m以内に先頭を奪えていたなら、インコースにできていた選手たちの壁をものともせずに、最短ルートを通れていただろう
また、先頭を奪えていたなら、ペースを握ることができ、序盤から集団に大きな混乱を招き入れることができて有利になっていたかもしれない
次にレースの中盤
集団がばらけ始めた段階で加速しようとしていったが、走力の差がありすぎてついていくことだけで精一杯だったのもよくなかった
走力があれば、走りで先頭にプレッシャーをかけることもできたはずだ
そして終盤で、結局力負け
俺にスパートをかけられるほどの余力は残っていなかった
逃げどころか追い込みとしてもダメ
というより実力差がありすぎて、作戦がとかいうレベルじゃない
まずは自分の実力を高める部分から始めなければ
走力を鍛えるためにはいろいろな手段がある
けれども、一番やりやすくてわかりやすいのは、やはり走り込みだろう
走り込みは、走るために必要な筋肉と心肺機能の両方を同時に鍛えることができる、効率的なトレーニングだ
技術的な部分も、足りていないのは間違いない
ただ、技術的なことは、部活の時間で顧問に教えてもらうことができる
部活の時間だけでは、圧倒的に時間が足りない
自分でも積める分は積んでいかなければ、先に行くやつらには追い付けない
当たり前のことだ
そう、今の俺は、敗北を経験して特訓パートに入った主人公と同じだ
今までとは比べ物にならないほど、やる気に満ち溢れている
さあ、特訓を始めよう
アラームを止めて起床する
今の時刻は朝の五時半ごろだ
運動服に着替えて、軽く動きつつ筋肉をほぐしていく
軽い準備運動とストレッチで身体が温まってきた6時頃に走り始める
まずは家の前の直線を走る
おおよそ200mの距離を10往復
10往復が終了したら一度水分補給を挟んで、ここから長時間走を挟む
ルートは、自宅から街へ下っていき、
海岸沿いを回った後に高台を目指し、
山の裏手の細道を駆け下りてくる5km程度の周回コースだ
最低限の装備をポケットに入れて、走り始める
日中と違う涼しい風を受けて、海岸沿いを走る
山から吹き下ろす風が、俺の身体を押し返してくる
懸命に走るが、思ったよりもスピードが乗らない
大会で先頭を走っていた選手たちのことをイメージする
先頭を走る選手はもっと軽やかに走っていた
例えるならあれは、風を切り裂くような走りだ
じゃあ今の俺はどうだ?
風に押し返されて、軽やかに前に進むことはできていない
風を受けている今の走りではダメだ
先頭に立つためには、あいつらの風を切り裂くかのような走りよりも、もっと速い走りを身につけなければいけない
理想的には、風そのものになるんだ
そう思いなおし、フォームの修正のために身体の力を一旦抜く
自分を押し返してくる風に身を預けて、身体を前に押し出すことに集中する
自分の動きをイメージして、速い人たちのフォームに合わせていく
速い選手のフォームに自分のフォームを重ねていくその途中、
ほんの一瞬、本当に一瞬だけだが、自分の身体が風と同化したかのように気持ちよく走れた
成功したと喜んだ数歩後に、今度は風に押されてバランスを崩してしまう
すこし走り方をつかんだかもしれない
一瞬だけ感じた良い感覚を手掛かりに、俺は速く走るための方法を言語化していく
速く走るためには、力を抜きすぎてもだめ
かといって力を込めても、速く走れるというわけじゃない
力を込めた筋肉は動きを阻害し、関節が固まって動けなくなっていく
じゃあどのくらい力を込めればいいのか?50%?70%?
おそらくこの質問に対しては、明確な答えはない
練習を通して、自分のなかでのバランスを探っていく必要がある
ペースは落とさない
走る道中の1歩1歩、気が抜けない
自身の身体に集中すれば、走る足音より心拍のほうがうるさく感じる
肌をなでていた風は、次第に俺の身体を削り始める
以前、同級生のだれかが言っていた気がする
「長距離走のトレーニングは、大抵長時間走っているだけじゃん」と
俺も外側から見ていたときには、同じことを思っていたかもしれない
外から見ているだけじゃわからない
これはやってみないとわからない
空気の流れ、
道の状態、
自身の調子、
走っていけば一歩ごとに変化する状況
その変化に常に対応しながら走り続けていく
一秒たりとも気が抜けない
体力と神経の両方を、長時間にわたって削り続けるこのトレーニング
同級生におなじことをまた言われたら、次はこう言い返してやろう
きちんと走るのはとても難しいと
体温が上昇し、心拍数も上昇している
血液が全身をめぐっていることで、自分の身体のことがよくわかる
大会終了直後は、才能のないと思っていた自分の身体
改善の余地が残されていることに気づき、俺は嬉しくなる
俺は、まだまだ強くなれる
俺は、まだまだ成長できる
考え続けよう。もっと速く走れるように