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五機のオベリスク

 オベリスクをハッキングした原生植物について、現時点では何も分かっていない。ジャンとリベルタはまず一番近いオベリスクに向かおうと決めた。情報がない以上、実物を確認してどんな相手なのかを調べるより他ないと考えたのだ。この二人は原生植物と直接対峙したことがない。その危険性についても実感が湧いていなかった。


「オベリスクって何個あるの?」


『全部で五機あります。世界中に散らばっているため、全てのオベリスクを回って植物を排除するのは手間がかかりますね』


 オベリスクのある場所は把握していると語るフレスヴェルグだが、そこで戦うことになるであろう原生植物のことを思うと、リベルタが戦力になるかは疑問だ。


「一番近いオベリスクまでは何日かかる?」


『空を飛べば一日で着きますよ。シノーボで物資を補充したらすぐに向かいましょう』


 フレスヴェルグとは対照的に、ロキは楽しげな態度で行動を促した。性格的なものもあるが、ジャンと共に戦えば原生植物にも後れを取ることはないと確信しているのだ。


「上等だ。さっさと行って人類を救う草刈りをしようぜ」


 すぐに商店へと向かう二人に、シノーボの職人が声をかけてきた。


「あいや待たれい、そなたらが持ち込んだ古代の銃を元にして新しい武器が作れるようになったのだ。記念に一挺持っていくがよい」


 職人が差し出してきたのは、リベルタが塔で拾ったものとは比較にならないほど美しい拳銃だった。持ち込んだ銃はライフルのような形をしていたはずだが……と受け取った銃をまじまじ見つめていると、不思議なことに気付く。


「あの、これ弾倉はどこに入れるんですか?」


 弾を入れる場所がないのだ。いくら武器に疎いリベルタといえども、拳銃の扱い方ぐらいは知っている。すると職人はニヤニヤ笑いながら答えた。


「不思議であろう? これは内部で作り出した火の弾を発射する銃なのだ。連射はできぬが、弾切れを起こすことはござらぬ」


 なんと、無限に火の弾が出る銃だと言う。エネルギー源はどうなっているのかと気になるが、古代のアーティファクトを模倣した武器ならそういうこともあるかと納得した。


「ありがとうございます。お代はいくらになりますか?」


「代金はけっこう。そなたがもたらした技術の前では、その銃一挺の価格など塵芥に等しい」


 シノーボはこの拳銃を量産するらしい。弾切れのない銃器は既にいくらか存在するが、どれもアルマに装着する大型のものだ。人間が懐に入れられる拳銃となれば、需要の大きさは考えるまでもない。


 職人に別れを告げ、商店で物資を購入した二人は駐機場に戻ってそれぞれのアルマに乗り込む。空を飛ぶにしても、人目に付く場所で飛ぶわけにはいかない。シノーボの高い技術力と、ネットワークが使えない現状を考えると相当離れた場所で砂塵に紛れて変形する必要があった。


『安全を期して離れた場所に行きますが、砂漠はこれまで以上に危険です。プアリムや砂海族との戦闘が予想されます』


 彼等がプアリムや砂海族にやられるようなことはまずないが、フレスヴェルグはリベルタが人間と戦えないであろうことを危惧しているのだ。


『心配しなくても、私とジャンが全て蹴散らしましょう』


 ロキは気遣うというより心底楽しそうに言った。ジャンと共に戦闘するのはとても楽しい。自分の存在意義を確かめられるような気がするからだ。


 守られている形のリベルタは少々居心地悪く感じるが、ロキが楽しそうに襲ってきたプアリムを撃退するのを見ていると、段々と罪悪感も消えていった。


 砂漠のあちこちから様々な大きさのプアリムが飛び出し、襲いかかってくる。砂の中から姿を現す彼等は、その蛇のような身体に申し訳程度の貧弱な四肢がついただけの姿からは想像もつかないような速さで砂を泳いでくる。一撃で仕留めるか、上手く地上に引きずり出さないと素早く砂の中に潜ってしまう。


 ロキを駆るジャンは、ほとんど勘で砂から顔を出すプアリムを殴りつけていく。センサーで対象を捉えるよりも速く近づいてくるのだ。それを無傷で撃退し続けるジャンとロキの強さは圧倒的で、もはやモグラ叩きならぬプアリム叩きの様相を呈しているが、遊んでいる場合でもない。


『ほどよく砂が舞い上がって我々の姿を隠してくれています。空へと離脱しましょう』


 激しい戦いによって砂塵が視界を覆い、目撃される心配もなくなったことを把握したフレスヴェルグがロキを促し、二機で空へと飛び上がった。


『一番近いオベリスクは南東の方角にあります。岩山の陰に隠れているので直接接触するのは困難でしょう。岩石地帯に降り立って谷間を歩いていきます』


「けっこう面倒なところにあるんだな」


『人類の生命線ですからね。ネットワークが失われた各国がどんな状況になっているのか、詳しく調べるのも憚られますよ』


 軽い口調で笑えないことを言いながら先導するロキだが、これから遭遇する敵の恐ろしさを少しでも人間二人に想像してもらいたいという思惑があった。原生植物の恐ろしさは、おそらくこの中ではフレスヴェルグしか正しく理解していない。


 そして、ロキはそのフレスヴェルグの性能をよく知っているからこそ、口数の少ない僚機から伝わる緊張感を何よりも気にしていたのだった。

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