そして、現在。
「ジャンって楽園を探して色んなところを旅してきたんでしょ?」
砂漠の空を飛びながら、リベルタはフレスヴェルグに掴まれたロキの中にいるジャンに尋ねた。楽園を目指すとは言ったが、手がかりはない。だが既に旅してきたジャンの旅路を参考にすれば、次に向かうべき方向が分かるはずだ。
『その前にいいですか、実は私も空を飛べるのです』
ロキが会話を遮ってそう言うと、その意図を理解したフレスヴェルグがロキを離す。空中に投げ出されたロキはすぐに鷹の姿に変形してフレスヴェルグの隣に並んだ。
「ああ、ラトレーグヌを出てターリオやカエリテッラ、最近話題のメルセナリアにも行ったよ。他にもダンカントやフォルジエッラ、メルキオールと旅をしたな」
急に空を飛んだロキに驚いてポカンと口を開けるリベルタの様子にも構うことなく、質問に答えるジャンだ。もちろんリベルタが質問してきた意図も理解しているので、次に向かう予定だった国を伝える。
「ラトレーグヌに戻ってきたのは、別の方角を探すためさ。次の目的地は……」
『シノーボ。この砂漠だらけの星でも独特の文化を持つ国です』
ロキがジャンの言葉を遮って話を続けた。深い意味はない。単に自分が喋りたかっただけだ。そんなロキの性格もよく知っているジャンは肩をすくめて口を閉じた。
「独特の文化って、どういうの?」
ラトレーグヌしか知らないリベルタには独特の文化というものがピンとこない。するとフレスヴェルグがモニターにシノーボの風景を映し出した。三角形の屋根が並ぶ風景は確かに見たことがないが、それ以上にリベルタには信じられない光景があった。青々とした植物が至る所に生えていて、それらが家と家を隔てる壁のような役割をしているのだ。
『あれは生け垣といって、害の無い植物を利用して家を囲うのです。シノーボは他にも多くの種類の植物を利用しています。全て遥か昔に地球から持ち込まれた植物で、この国の遺構から大量に発掘されたものです』
「ここが楽園じゃないの?」
『違いますね。私の記憶にある植物はこの星のものです』
植物が多い場所を楽園と言うのなら、ここが楽園なのではと素朴な感想を抱いたリベルタだったが、ロキの記憶にある楽園は全く違う姿だという。
『この星の植物ばかりで楽園とは……にわかには信じがたい話です』
フレスヴェルグはかつて人類が原生植物と戦っていた頃のことを思い出している。地球人類と原生植物は不倶戴天の敵同士だ。アンゼリカのような敵意に満ちた植物の数々が、仲間達を殺害するのを幾度となく見てきた。今の主は人間を殺すことができないが、植物相手なら躊躇せずに戦えるだろうか。アンゼリカは別の人間が始末した。記憶に残る植物には、リベルタが攻撃を躊躇うような容姿のものは存在しないはずだが……。
『シノーボではPEC|(ペク)という独自通貨が使われています。オーロもインフォルモも使えませんし、通貨の交換もできません。何か換金できるものを用意してください』
ロキが国の説明を再開すると、リベルタはそんなものがあったかと首をひねった。そこにすかさずフレスヴェルグが助言をする。
『あの塔で拾った銃をお持ちください。シノーボならいい値段で売れるでしょう』
「あ、あれね!」
そういえばそんなものがあったと、物置きから謎の銃を取り出した。元々向かう予定だったジャンは準備万端だ。二機は空を飛びシノーボ領へ向かった。
◇◆◇
一方その頃、ホワイトはブラックとの戦いを終えてターリオへ向かっていた。リベルタ達が離脱に成功したのを確認したところで距離を取ると、ブラックもカエリテッラからの帰還命令を優先し、去っていった。
「あいつもずいぶんつまんねえ男になっちまったもんだ」
かつて笑いあった友の顔を思い出し、ため息をついた。ターリオへ向かうのには理由がある。よく知る強いアルマ乗りがそこの出身だと聞いて、情報を集めるためだ。
「……ヘビがサソリに食われる前に」
ホワイトはメルセナリアの出来事から、〝人間側〟の戦力を増やす必要があると考えていた。さしあたって、無謀な単独挑戦を繰り返す男を助けようと考えているのだった。
◇◆◇
「よくぞシノーボへ参られた。この国の法を守る限り、いかなる出自の者も歓迎いたそう」
「え、あ、はい」
シノーボの入国管理官が聞き慣れない言葉遣いをするので戸惑うリベルタを横目に、ジャンが手慣れた様子で手続きをする。この国はあまり広くない代わりに出入国者の管理が厳しい。とはいえ入国管理官が言う通り、この国の法を守る限りは誰でも歓迎されるので心配はいらないとリベルタを安心させるジャンを、なぜだか満足そうに眺めるロキの姿があった。アルマ二機は入口の駐機場で待機だ。
「この国の通貨はPECにござる。手持ちが無ければ、こちらで不用品の買い取りも行っておるので活用するが良いであろう」
「あ、こちらの銃を買い取って欲しいでござる」
なんだか口調が移ってしまうリベルタ。取り出したのは塔で拾った数千年前の銃だ。当然ながらアーティファクトである。
「むむっ! これは値打ちものにござるな。五十万PECで買い取ろう」
その金額が高いのか低いのか判断がつかないリベルタが、隣にいるジャンの表情をうかがう。
「いい値段で売れたな!」
彼女の困惑を読み取ったジャンが笑顔で頷くと、リベルタは安心した様子でこれまた見慣れない紙の束を受け取った。
「PECは紙幣と電子情報どちらでも使えるでござる。持ちきれなくなったら店で通貨データを買うでござるよ」
「それは便利でござる!」
なぜかジャンが驚いたように言う。こっちも口調が移ってしまった。
なんだか楽しくなってきたリベルタとジャンは、笑い合いながらシノーボの変わった街並みへと歩き出すのだった。