ジャンの乗るアルマを取り囲むのは、軍用の四脚式アルマだ。直立した胴体と二本のアームが特徴的で、これも人型と呼ばれる。だが二脚式の人型アルマとは違い、人間とは似つかない姿をしている。なぜそれが人型と呼ばれるのかと言えば、他に適した呼び名がなかったからだ。元々、二脚式の方の人型アルマは汎用性に乏しく軍用には向かないとされていた。そのため軍隊の人型と言えばこの四脚式アルマだったのだが、ある時に機兵団という精鋭部隊をカエリテッラが運用しはじめてから各国で同様の部隊が採用されて今に至る。
「軍用アルマか……ということはアーモナツィオの軍を動かせる立場の人間が俺のことを抹殺しようとしているわけだ」
口角を上げ、不敵に笑うジャンだがとても勝算があるとは言えない状況だ。相手は少なく見積もっても十機以上いる。こちらは高性能とはいえ旅人用のアルマ一機だ。ジャンが天才アルマ乗りであることを考えても、この場を切り抜けられる可能性は極めて低い。それでもジャンは笑う。ここで命を落としたとしても、それが自分の運命だったのだ。初めての旅は想像以上に楽しかった。自由な旅には生命の危険がつきものだ。だから、この状況に陥っても後悔はない。
敵達は何も言葉を発することなく、攻撃を開始する。これから殺す獲物と会話する狩人などそうはいないものだ。ジャンは敵機のアームも装着された銃から発射された弾丸を素早く避けながら、こちらもクモの口から大口径の銃を伸ばし敵の胴体を正確に狙い撃っていく。高い機動力を持つクモの動きに翻弄され、予想外の正確かつ強力な銃撃を食らって動揺する気配がヒト型アルマ達(今後二脚式のものは人型、四脚式のものはヒト型と表記する)に生まれた。
「よし、いい調子だ相棒!」
これなら切り抜けられるかもしれない。そう思い希望を感じた、その時だ。ヒト型達が隊列を変え、弾丸を広範囲にばら撒くような一斉掃射を行ってきた。これでは機動力にものを言わせて敵の弾丸を回避することができない。クモ型アルマは使用率が高い分、その対処法も研究され尽くしているのだ。すぐにいくつもの弾丸を機体に受け、損傷状態がモニターに表示される。けたたましい警告音が鳴り、危険な状況だということが考えるまでもなく分かる。
「さすがに軍隊を相手にするのは無理があるか……こうなりゃ、少しでもあいつらに損害を与えてやる!」
逃げることができないのは最初から分かっている。撃退することもできないとなれば、もはや死を受け入れるしかない。だからといって大人しく殺されてやるつもりにはなれない。傷だらけの相棒も同じ気持ちのようだ。回避行動を止め、片っ端からヒト型に銃弾を叩きこんでいく。敵からの弾丸の雨は止まず、みるみるうちにアルマの機体が崩れていった。
『いいですね、その執念。あなたのような人を求めていました』
突然、聞いたことのない声が操縦席のスピーカーから聞こえてくる。誰か近くにいるのかと周りを見ようとするが、もう乗っているアルマは動かない。仕方がないので残骸となった相棒の腹から非常脱出用のハッチを開けて外に出ると、ヒト型達がジャンを狙い撃つよりも早く、巨大な何かが空から落ちてきて視界を塞いだ。
それは、白と黒に色分けされた一羽の鷹だった。巨大な金属の塊でありながら、この星の人々もよく目にするトリの形をしたそれが、空から落ちてきたことの意味を理解できない者はその場には存在しない。つまるところ、この世に存在しないと思われていた〝空飛ぶ機械〟が突如彼等の眼前に現れたのだ。
『私の中に入ってください。人間が操縦しないと全力が出せないので』
困惑し、動けずにいるヒト型達の前で、機械の鷹に促され乗り込むジャン。お別れを言う間もなく鉄屑になってしまった相棒の姿に後ろ髪を引かれるが、どうにもならないことを悔やんでも仕方がない。まずはこの正体不明機の意図を探ろうと思いつつ、操縦席に座る。すると鷹はすぐに自己紹介をしてきた。
『私はロキと言います。主を求めて空をさまよっていたところ、あなたを見つけました。詳しい話は後にして、まずはこの連中を片付けましょう』
そう言うが早いか、ロキの機体が変形し人型になる。同時にジャンの身体を包み込むようにスーツが現れた。
『あなたの思うように動いてください。人型アルマの操縦には慣れているでしょう?』
確かにジャンはアルマ・タスクで人型アルマを誰よりも上手く操縦していた。だがなぜそれをロキが知っているのか。不審に思わずにはいられないが、ロキの言う通りまずは目の前のヒト型達を殲滅するべきだ。こいつらは相棒の仇なのだ、状況や背景に関係なく許すつもりはない。
「しょうがねえな、やってやるよ。自分がアルマになった感覚で動けばいいんだな?」
ロキの操縦方法は通常の人型アルマとはだいぶ違ったが、ジャンは何の説明も受けずとも完全に理解していた。すぐに走り出した白黒の巨人は、動揺し浮足立つヒト型達を次々と拳でスクラップに変えていく。
「お前らがなんで襲ってきたかなんて、百も承知さ。生け捕りにする必要もない、全員死にやがれ!」
ジャンはまるで長年乗り慣れた機体を動かしているかのような感覚で敵を殲滅した。機体の性能も先のクモ型とは桁違いで、操縦手の腕前は人型アルマに馴染んだ。それでいて、まだ全然この機体の性能を引き出せていないとも感じる。底知れぬ強さを誇る謎のアルマに、この上もない興味が湧いてくるのだった。
「やっぱり名前を付けてやるべきだったな」
無残な姿になったかつての相棒をロキの貨物室に収容すると、ジャンはアーモナツィオへと急ぐことにした。ロキは正体不明だが言うことを聞くので問題はない。事情は道中でいくらでも聞けるのだから。そんなジャンにロキは言う。
『このアルマですが、問題なく修理できますよ』
「ほとんど鉄屑状態なのに!?」
『フフフ、私は感傷に浸っている人の気持ちを台無しにするのが好きなようです』
「……いい趣味してるな。ありがとう」
こうして、身分を隠した王子と悪趣味なアルマの長い旅が始まるのだった。