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 最終話 <完>

 私が日本に戻り、半月が経過していた。


今では、ステラとしてあの世界で生きていた頃が夢のように感じられる。

今日はリハビリ? も兼ねて、自分がかつて住んでいた賃貸マンションへ足を向けてみることにした。


駅に向かって、トボトボ歩きながら空を見上げる。

青い空に白い雲……。


「空だけは、あの世界と同じだな……」


ポツリとつぶやき再び正面を向いて歩き始めると、前方からカジュアルスーツを着た長身の青年がこちらへ向かって歩いてくる姿が見えた。


その男性は私を見ると、何故か驚いた様子で目を見開く。


へ〜……中々のイケメンだ。

だけど、何故そんなに私をジロジロ見るんだろう?


訝しげに思いながら、そのまま通り過ぎた時。


「……ステラか?」


突然背後から声をかけられた。


「え?」


驚いて振り向くと、青年は私をじっと見つめていた。


「あ、あの……?」


何故その名前を知っているのだろう? それにどうして私をそんなに見つめているのだろう?

戸惑っていると、青年はさらに尋ねてくる。


「やっぱり……ステラなのか?」


「どう……して、その名前を……?」


すると、途端に青年は笑顔になり駆け寄ってきた。


「俺だよ! エドだよ!」


「え……ええっ!? エドッ!?」


「その反応……間違いない! ステラだっ!」


そして彼は私を強く抱きしめてきた。


「ちょ、ちょっと! 町中で何するんですか! 人に見られるじゃないですか!」


驚いて押しのけると、エド? は首を傾げる。


「だけど、ほとんど誰もいないじゃないか?」


確かに、ほとんど人の気配はない。はるか前方を自転車で走っている人がいるくらいだ。


「確かに、そうですけど……それよりも一体これはどういうことなんですか!」


「そのことについては詳しく説明するよ。とりあえずカフェにでも入らないか?」


エドはニッコリ笑った――



****



 私とエドは2人で駅前のカフェに来ていた。

そして彼は慣れた手つきでメニューを注文し……今は、向かい側の席で美味しそうにコーヒーを飲んでいる。


「あの……そろそろ説明してもらえませんか?」


ここに来るまでの道すがら、いくら尋ねてもエドは笑ってごまかして何も説明してくれなかった。落ち着いた場所で説明するとの一点張りだったのだ。


「あぁ、勿論だよ。俺がここに来たのは『魂の交換』を魔女に行って貰ったからさ」


「え……ええっ!? ど、どうしてそんなことを……?」


「そのことは、順を追って説明するよ」


そしてエドは今までの経緯を説明し始めた。それは、私にとって驚くべき話だった。



****


あの日――


カレンに突き飛ばされた私は倒れた際に、運悪く石畳に頭を強打して意識を失ってしまった。

意識も無くなり、頭から血を流している私を見たカレンは驚いて逃げ出した。

たまたまその場面に出くわした学生が、様子を見に行ってみると意識を無くした私を発見した。

そこで急いで人を呼んで病院に運び込まれたらしい。


そして、再び意識を取り戻した時……ステラは元のステラに戻っていたそうだ。



「そんなことが……それじゃ、今あの世界で生きているステラは……?」


「勿論、正真正銘のステラだ。彼女は全て告白したよ。今の生活が苦痛で、全く新しい自分として生まれ変わりたいと思っていたらしい。そんなとき、大学の授業で『魂の交換』を知り、実行したらしいが……どんな方法だったかは決して口を割らなかったよ。でも、恐らく魔女の力を借りたとは思うけどね。口止めでもされたんじゃないか?」


「なるほど……それでカレンはどうなったのですか?」


「そんなのは決まってる。殺人未遂で捕まって投獄されているよ」


笑顔でサラリと言ってのけるエド。


「ええ!? つ、捕まった!? 牢屋に入れられているんですか!」


「当然じゃないか。自分よりも身分の高い君を殺そうとしたんだ。死刑にならないだけマシだと思わなければ」


「ちょ、ちょっと死刑だなんて物騒なこと言わないでくださいよ。ここは日本ですよ」


そこまで言って、私は肝心なことを思い出した。


「そうだ! 一番大事な話をまだ聞いていませんでした。エド、どうしてあなたがここにいるのですか? いつ、ここに来たのですか?」


「どうしてここに来たか? そんなのは決まっているじゃないか、ステラ。いや、違うな。遠藤真弓、君を追いかけて来たからじゃないか」


「!」


遠藤真弓……私の本名だ。


「もしかして、ステラから……聞いたのですか?」


「勿論だ。目が覚めたステラから何もかも全て聞かされたよ。勿論彼女の両親も一緒にな。今は家族と幸せに暮らしているさ」


「そうだったのですか……」


少し複雑な気持ちを抱えつつ、これで良かったのだと納得する自分がいる。

私だって、まだぎこちなさはあるけれど……何とか両親とうまくやっていけているのだから。


「それで、エドはどうしてここ来たのですか? もしかして私の様子を見るためですか?」


「……ステラ、本気でそんなこと言ってるのか?」


エドは信じられないと言わんばかりに目を見開く。


「違うんですか?」


「当然だ。ステラが……いや、君が好きだから魔女に頼んで完璧な『魂の交換』術を使って、この世界に来たんだよ」


「え? ええっ!? てっきりエドは私の食べ物につられているだけだと思っていましたけど!?」


「そ、それは確かに初めはそうだったかもしれないが……今は違うぞ。君が好きだから食べ物を口実にしていただけだ」


まさか、エドが本気で私のことを好きだったなんて……そこで、ふと疑問に思う。


「だったら、本物のステラでも良かったのではありませんか?」


すると一瞬、エドは悲しげな表情を見せた。


「俺は外見でステラを好きになったんじゃない。君という中身が好きだったんだよ。だから、あの世界を捨てて君を追ってこの世界に来たんだ」


そして私の手を握りしめてきた。


「この世界での俺は、IT企業の社長なんだ。だから不自由はさせない。真弓、俺と結婚してくれ。それで……日本の料理を沢山作って食べさせてくれないか?」


「エド……」


あまりにも展開が早すぎてついていけない。第一……。


「エド、この世界での名前……教えてください」


私はまだ今の彼の名前すら知らない。


「そうだったな。俺の名前は新条真。IT企業の社長で現在28歳。年収は……聞いておくか?」


エド……基、真は笑顔で答える。


「なら、これからゆっくり色々話を聞かせて下さい。だってずっと、真さんはこの世界で暮らしていくんですよね?」


「当然だ。だって君がこの世界にいるんだからな?」


エドは私の手を握りしめて、笑顔を浮かべる。


「はい、そうです。ずっとここで生きていきます」


そうだ、私達にはこの先も同じ世界で生きいてく。だから時間ならたっぷりある。

あの世界での話だって、聞く機会はいくらでもあるだろう。


「エド、これからよろしくお願いします」


私は今の自分の気持ちを正直に伝えた。


だって……私もずっとエドに会いたいと思っていたのだから――



<完>

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