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第64話 シュールな2人

「またお会いしましたね? エイドリアン、それにロンド伯爵」


声をかけながらエドと共に応接室に入るも、2人は無反応だった。……というか、鏡に映る自分に、見惚れているのだ。


う……なかなか気持ちの悪い光景だ。


「ステラ。あの2人、声をかけられたことに気付いていないんじゃないのか?」


エドが耳打ちしてくる。


「ええ、そうみたいですね。ならこちらに気を向けさせましょう」


そこで私は大きく手を叩きながら声をかけた。


パンパンッ!


「はい! お二方、こちらに注目して下さい!!」


「ん……?」

「何だ?」


すると、エイドリアンとロンド伯爵が呆けた顔でコチラを見る。


「……何だ。ステラか。悪いが、俺はもうお前に何の興味もないから放っておいてくれ」


「ええ。そうですとも。息子の言うとおりです。どうか我々に構わないでいただきたい」


そして2人は再び鏡の方を振り向くと、鳥肌の立つようなセリフを口にする。


「知らなかった……俺って、こんなに素敵な男だったのか……? 見れば見るほど惚れ惚れする……もう、一生自分以外は好きになれそうにないな……」


「ああ。私もこの年になって、自分の魅力に気づくとは思わなかった……世の中にこれほど美しい男が存在していたのか……? 愛しているよ、私」


「お、おい……あの2人、気色悪くないか……?」


エドが私に話しかけてくる。


「ええ。私もそう思います。気が合いますね。でも……多分、あの2人はもう一生自分しか愛せないでしょうね。それこそ、私のように『魂の交換』でも行われない限りは」


「ああ。俺もそう思う」


腕組みして頷くエド。けれど、これでこの2人に対する復讐は終わった。なので、さっさとお帰りいただこう。


「あの、もうお帰り頂けますか?」


「何だと? ステラ。お前が俺と父を呼び出したんだろう?」


「ええ。そうですよ。まだ何も用件は伺っておりません。よって帰りません」


2人はうっとりした目つきで鏡から目を離さずに返事をする。


ええっ!? こんなイカれてしまった2人に居座られたりしたら、たまったものじゃない!


「ステラ、この2人。鏡の前から離れたくなくて、帰ろうとしないんじゃないか?」


「冗談じゃありません! 早く帰ってくださいよ!」


「「イヤだ!! 絶対に帰るものか!!」」


鏡を見ながら声を揃える2人の親子。


「ええええっ!!」


なんてことだろう。まさかこんなことになるとは思わなかった。


「どうするんだ? ステラ?」


エドは何がおかしいのか、ニヤニヤしながら尋ねてくる。


うう……人ごとだと思って……。

……きっと、この状況を楽しんでいるに違いない。


「こ、こうなったら……もう最終手段よ!!」


あるものを取りに、応接室を出ようとした私にエドが慌ててついてくる。


「ステラ? 一体どうするつもりなんだ?」


「あの2人に帰ってもらうために、プレゼントをあげます」


「プレゼント?」


「はい。今、一番あの2人が喜ぶものですよ」



その後。


エイドリアンとロンド伯爵は手鏡を見つめながら、うっとりした顔つきで帰っていった。


「なかなか……シュールな光景だな」


「ええ、シュールな光景ですね」


私は笑顔で頷くのだった――


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