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第32話 今回の戦利品

「ふぅ……色々あって、疲れた一日だった……」


明かりを吹き消し、ベッドに潜り込むと目を閉じた。


「エイドリアンが大学をやめるんじゃなくて、私がやめるべきだったかな……そうすれば、もうあんな不愉快な目に遭わなくて済むし……」


けれど、そこで思い直す。


そうだ、あの大学には元コンビニ店員のビンセントがいる。彼も私と同様魂を入れ替えられてしまった人物だ。

今日はあまり話をすることが出来なかったけれど、彼は私よりも半年前にこの世界の住人になった先輩だ。


私達は……もっと話し合いをする必要がある!


「そうだ……彼に会うには大学に行くしか無いものね……それに、エドが迎えに来るって言ってた……し……」


いつしか私は眠りに就いていた……。




****


「あれ……この部屋は……? あ! 私の部屋じゃない!」


気付けば、私は夢の中に入り込んでいた。


「ラッキー! またこの夢を見れたんだ!」


そうと決まればグズグズしていられない。今日も現実世界に持ち込めるだけの……。


「食料品を持ち帰らなくちゃ!」


まず、真っ先に持ち出すのはお米だ。

早速台所へ行くと、床の上に無造作に置かれた米袋を確認した。


「う〜ん……やっぱり増えていないか……」


私は少しだけ期待していた。

この部屋から持ち帰った物は、次に訪れた時には全てリセットされているのではないかと。


「でも……増えていないってことは、そういうことなんだろうな……」


恐らく、もうお米は3kg程しか残されていないだろう。


「こんなことなら10kg買い置きしておけば良かったかな……」


しかし、女子の一人暮らしでお米10kgなんて普通に考えれば買うはず無い。

それにまさか目覚めれば、強制的に魂が交換されて別世界。

けれど、夢の世界から元の部屋のものを持ち帰ることが出来る……なんて状況になるとは誰も思いもしないだろう。


「仕方ない、お米以外も物色しよう」


気を取り直すと食料箱別名段ボール箱をガサゴソと漁り、今回はポテチ5袋。海苔せんべいに、ゴマせんべいを2袋。

そして醤油にみりん、ついでにサバ缶とツナ缶にコンビーフ缶。未開封のマヨネーズにケチャップをチョイスした。


「あ! そうだ! 缶切りに……ラップとアルミホイルも持って帰ろう! 何かに役立つかもしれないしね」


そして、それら全てをエコバッグに詰め込む。


「う……お、重い……」


持ってみるとズシッとくる。かなりの重量だ。

だけど……。


「絶対……持ち帰ってやるぅ……缶詰とお米だけは絶対に必要なんだからっ……!」


ズルズルと引きずるようにエコバッグを運ぶと、ベッドの上にゴロリと横になる。


「どうか……今回も全て持ち帰れますように……」


頭の中で羊の数を数え……300匹を超えた辺りから何も覚えていない――




****


ジリジリジリジリ……!!


室内にゼンマイ目覚まし時計の音が鳴り響く。


「う〜ん……」


手を伸ばし、バチンと時計を止めると起き上がった。

時刻は6時。そしてベッドの上には夢の世界でゲットしたお宝? がエコバッグの中に収められている。


「よしっ! 今回も成功!」


早速大急ぎで着替えを済ませると、米袋を抱えて厨房へ大急ぎで向かった。


そう! 何しろ、お米には浸水時間があるのだ。早くお米を水につけておかないと炊くことが出来ない。


今日はエドが朝から迎えに来ると言っていた。……おにぎり目当てに。


「まったく……! やっぱりおにぎりの約束なんかしなければ良かった〜!」


嘆きながら、長い廊下を走り続けるのだった――

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