目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第27話 また明日

 御者と待ち合わせした時計台を、私は必死で目指していた。


「どうしよう……こんな時間になるとは思わなかった……!」


時刻は16時半をとうに過ぎていた。もうかなり長い時間待たせてしまっている。


ようやく正門が見えてくると、時計台の下で馬車が停まっているのが見えた。そして楽しそうに話をしているエドと御者の姿。


「すみません! 遅くなりました!」


慌てて駆け寄ると、エドが笑顔で手を上げた。


「ステラ! 待ってたよ!」


「お帰りなさいませ、ステラお嬢様」


御者が頭を下げてくる。


「お待たせしてすみませんでした。エドさん」


「いや、大丈夫さ。彼と話をしていたからね」


「はい、そうです」


どうやら2人は気があったようだ。


「それで? 教授と話は出来たのか?」


エドが尋ねてくる。


「ええ、そうですね……色々お話できましたよ。彼とは良いお友達になれそうです」


「え!? 教授と友達に!?」


「あ、いえ。言葉の綾です。良い相談相手になれそうです、と言いたかったのです」


「ふ〜ん。まぁ別にいいか。それじゃ、ステラ。明日の朝は迎えに行くよ。もう彼から番地は聞いたし」


エドがチラリと御者の方を向く。


「ええ!? な、何で迎えに来るんですか!? 結構ですよ!」


「遠慮するなって」


「遠慮なんかしていませんよ」


1人で色々考え事をしたいのに。


「だって、ステラはボッチだろう? 俺たちは友達じゃないか。友達と大学へ行くのもいいものだぞ?」


肩をポンポン叩くエド。……コレは絶対に何か魂胆があるに違いない。


「それに俺が常に一緒にいれば、あの連中だって手出ししてこないだろう?」


「随分自信がありますね……」


確かにエイドリアンたちとは極力関わりたくない、何よりカレンとは絶対に。

元コンビニ店員のビンセントからカレンの話を聞いて、今非常に彼女を怪しんでいるからだ。

もしかすると彼女は自分の理想の世界を作る為、私に何か仕掛けてくる可能性大だ。

ここはエドの言うとおりにしたほうが良さそうだ。


「まぁ、そこまで言うなら別にいいですけどね。ではお願いします」


「ああ、任せろ。明日8時に迎えに行くから屋敷の外で待っていてくれよ。それじゃ、また明日!」


エドは元気に手を振ると、足早に去って行った。彼が見えなくなるまで見送ると、御者が声をかけてきた。


「ステラお嬢様。では帰りましょうか?」


「そうだね、帰りましょう」


そして私は馬車に乗り込んだ。


ガラガラと走り続ける馬車の窓から外を眺めながら、今日1日あったことを振り返った。


大学内で、何度もエイドリアン達に敵意のある目で睨みつけられたこと。カレンが私に濡れ衣を着せていたのに、謝罪も無しだったこと。


うん……家に帰ったら、まず一番最初に両親に伝えることは……。


「とりあえず、エイドリアンとの婚約破棄かな?」


そうだ、コレは婚約解消などと甘いことを言っている場合ではない。何しろエイドリアンは私という婚約者がいながら、カレンの取り巻きをしている。

それにあろうことか、私を酷く憎んでいるのだ。


さっさと、あんな男とは縁を切ろう。


「それにしても何故、あんな男にステラは一目惚れなんかしたのかな?」


思わず疑問が口をついて出てくる。


そして後に、婚約した本当の理由を私は知ることになる――






コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?