目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈
異世界恋愛悪役令嬢
2024年08月13日
公開日
146,094文字
完結
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】

23歳、ブラック企業に努める社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!

序章 私のこと

――7時


ジリジリジリジリ……!!


大きなゼンマイ式目覚まし時計が部屋に鳴り響く。


「……朝か……」


薄っすら目を開けると、高い天井が見える。


「やっぱりこの世界は夢じゃないんだ……」


憂鬱な気分でベッドから起き上がると、室内履きに履き替える。まるでスイートルームのような豪華な部屋をペタペタ歩き、大型の姿見の前に立つ。


鏡には背中まで届く、ネグリジェ姿の私が映っている。

ストロベリーブロンドの長い髪に、ブルーアイの目も覚めるような美女……それが今の私。

ただしきつそうな目元は、性格がネジ曲がっている印象を与えている。


「いつまでたっても、この顔には慣れないな……。とんでもない美少女ではあるけれど、こんなに目つきが悪ければ魅力も半減しちゃってるじゃない」


そしてこの身体に憑依してしまった私はため息をついた――



****


 私は、大学を卒業して社会人1年目の社畜OLだった。 就職試験に何十社も落ち、ようやく入れた会社が絵に書いたかのようなブラック企業。


残業、休日出勤は当たり前。深夜に帰宅しても資料作りに明け暮れる日々。

挙げ句に薄給。光熱費、家賃を支払えば殆ど手元にお金は残らない。


当然食費を削るしか無かった。



あの日――


23日間の連続勤務を終えた私は疲れた身体に鞭打って、ようやく1DK の賃貸マンションに帰宅した。


「た、ただいま……」


疲れた身体に鞭打って、シャワーを浴びてパジャマに着替えて時計を見た。


「嘘……もう、2時を過ぎているなんて……!」


7時には家を出なければ会社を遅刻してしまう。私はまだ食事も取っていないのに!


「駄目だ……食事なんてしている場合じゃない……早く寝なくちゃ」


どのみち、疲れすぎていて食事する気にもなれない。部屋の明かりを消すと、ベッドに潜り込んで目を閉じた。


……どうしよう。洗濯だって、もう3日分もたまっているのに……


けれど、とてもではないが洗濯する気力など私には残されていなかった。


「もういい……今度の土曜日は久しぶりに休みが取れるから……その日に洗濯はまとめてしよう……」


そしてそのまま私は、まるで泥のように眠りについた――



*****



「それで、目が覚めるとこの身体に入っていたんだよね……」


鏡に手を置き、再びため息をつく。

だけど、あの時は本当に驚いた。狭い部屋に寝心地の悪い安物ベッドで寝たはずが、目覚めるとこんなに立派な部屋に変わっているのだから。


始めは自分の置かれた状況にわけが分からず、悲鳴を上げてしまった。

すると突然部屋の扉が開かれ大勢の人々が駆けつけてきた。さらに驚いた私は再び叫び……その後は大騒ぎになったのだ。



「あの時は、本当に驚いたな……」


あの時から既に5日が経過している。


けれども、私は未だにこの身体に憑依したままだった――


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?