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第35話〈番外編〉アレクシス


「はぁぁぁぁぁ…………」





 ラース国の王太子。王家の色をしっかりと受け継ぎ、年頃の令嬢たちからは同じ色の末っ子と共に“美しい輝き王子”とか“麗しの兄弟”なんて呼ばれていた第一王子アレクシスは今日も深く長いため息をついていた。



 自分と共に末っ子のオスカーは一部の貴族からかなり持て囃されている。その理由は自分と同じくからだが、はっきり言ってオスカーに政を行う才能はない。本人には申し訳ないが王家としても政略結婚の駒に使うのがせいぜいだろう。


 というか、王家の色を持っていないからと一部の貴族共が蔑んでいる次男のハルベルトの方が王家にとってどれだけ重要な人物になるだろうかがわからないような頭の固い老害共なんて自分がおさめる未来にはいらないな。と、アレクシスは思っていた。


 いや、別にオスカーが憎いわけではない。末っ子は普通に可愛い……が、それと王家の未来とは別の話である。ハルベルトを蔑ろにするのはよろしく無い。そうアレクシスの本能が告げるのだ。


 幼い頃より王太子としての素質を持っていたアレクシスは、王家の色など関係ないと思っている。それにハルベルトの色は賢妃と名高い前王太后の色だ。あの弟は色だけでなくその才能も受け継いでいると直感していた。もしもハルベルトが次代の王となれば“賢王”と呼ばれるはずである。まぁ、本人は全くその気はない上に王族すらもやめてしまったのだが。


 いや、逆にこれでよかったのだろうとも思う。セレーネがいる限りハルベルトがこの国を出ていくことはないし、セレーネが平和を望む限りハルベルトはこの国が乱れないようになんでもするのだから。


「やれやれ、我が弟ながら恐ろしい男だなぁ」


 アレクシスは報告書を読んで思わず肩を竦めた。実はあの婚約破棄騒動からセレーネには密かに倭国から借りた忍者を護衛としてつけていた。もしもセレーネを害そうとする奴らがいたら牽制してもらうつもりだったのだが、どうやらハルベルトが先にそんな輩を全て片付けてしまったらしい。ハルベルトが剣の実力を隠しているのは知っているが、まさかこんな脅しに使うためとは。


 あいつ、素手でもめちゃくちゃ強いからなぁ。と苦笑いするしかない。


 セレーネに求婚するためだけに全てを捨てて、そして唯一無二を手に入れた男だ。とてもではないが、自分にはそこまで出来ないな。と。


 だがこれでラース国は影の宰相ともいえるハルベルトを獲得することが出来た。目立つのを嫌う弟だが、見えないところでならとしてくれるだろう。


 今の問題は───目立ちまくって問題しか起こさない方の弟だ。そう、オスカーである。




「あいつはまた抜け出したのか……!これで何度目だ?!」



 今度は街の巡回をしていた衛兵からの報告書を読み、頭を抱えた。ここ最近のオスカーはどれだけ厳重に監禁してもあっという間に脱出して街へ行き、なんと平民の女を追いかけ回してプロポーズしているのだ。街でも騒動になっているというのに何度説得してもオスカーは「だって俺のおっぱいなんだ!」とわけのわからないことを叫んでいる。


 大概のことは相談に乗ってくれるハルベルトも呆れているのかこの問題だけはノータッチだ。ハルベルトにとってはセレーネの元婚約者であるオスカーとはあまり関わりたくないのだろう。


 確かにオスカーの再教育は自分がやると名乗りはあげたが、まさかこんな問題まで起こすとは思わなかったのだ。いや誰が「おっぱい」と連呼しながら平民にプロポーズするなんて思うのか。


 それにしてもそれだけ聞くと、その平民の女がオスカーを誘惑したように聞こえるがそれもなさそうだった。


「本気で求婚しているつもりなら、最低最悪のプロポーズですわねぇ」


 一緒に報告書を見ていたシラユキが「相変わらず残念な方ですわ」とため息をつく。結婚したばかりの新婚だというのに、オスカーのせいで甘い空気にもなりきれない。新婚なのに……。


 それに、オスカーの被害に合っている平民はセレーネの知り合いらしく迷惑しているので地下牢に放り込んで簀巻にして手足に重りをつけて城から出さないようにして欲しいと苦情を言われたので、さらに上から鎖でぐるぐる巻きにしてたのにどうやって逃げ出してるんだ?






「早くオスカーを捕まえてこい!今度は穴を掘って首から下を生き埋めにしてやる!」


 次こそはオスカーを大人しくさせないと、いつまでもシラユキとの新婚生活が楽しめないじゃないかぁっ!!






 それから1週間程が過ぎた頃。その間もオスカーは城を抜け出し街をうろちょろしていたが平民の女は忽然と姿を消したようでしょんぼりとした様子で城に帰ってくる。帰ってくるのだが、また次の日も抜け出してうろちょろするのだ。アレクシスは対策が尽き疲れ切っていた。


 そんな時、オスカーが城どころか国からも出ていってしまったのだ。やっぱり「おっぱい」と叫びながら……。





 アレクシスは疲労困憊の顔でハルベルトに泣き付いた。お兄ちゃんは疲れたよ……。と呟きながら。


 そんなアレクシスにハルベルトはにっこりと笑ってこう言ったのだ。


「大丈夫ですよ兄上。ほら、可愛い子馬鹿な子には旅をさせろと言うではありませんか。それよりもだいぶお疲れのご様子ですし、しばらく業務をお休みにしてシラユキ王太子妃とゆっくり過ごされてはいかがですか?まだ国王は父上なんですし、数日ならば宰相が指揮をとれば問題ありませんよ。僕も影ながらお手伝いいたしますから」


「ハルベルトがそういうなら……でもオスカーが……」


「兄上は心配性ですね。でしたら伯爵家から捜索隊を出しましょう。すぐに見つかりますよ」


 爽やかで裏表の無いハルベルトの穏やかな笑顔にアレクシスはホッとしたのか肩の力が抜けた気がした。ハルベルトがそういうのならば本当に大丈夫な気がしてきたのだ。それに、これまでオスカーの問題には関わってこなかったハルベルトが優しい言葉をかけてくれたのがなんだか嬉しかったのだ。やっぱりハルベルトも弟が心配だったのだな。と。






 そうして数日間リフレッシュしたアレクシスは、気持ち新たに仕事に励んでいた。


 ラース国はこれまでの騒動が嘘のように静かで平和だったという。






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