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第24話 乙女の秘密と決意


 身支度を整え、ハルベルト殿下と一緒に公爵家の馬車に乗り込み王城へと向かいました。


 もしかしたら気まずい雰囲気になるかもと思いましたが、ハルベルト殿下がいつも通りの笑顔で私に声をかけてくださったのでホッとしましたわ。怯えさせるほどの怖い顔をしてしまった私にも普通に接してくださるなんてハルベルト殿下は本当に優しい方です。


 そして到着するまでの間に先ほど途中になってしまった報告書を読ませて頂いたのですが、さすがはハルベルト殿下ですわ。期待以上の成果で感激してしまいました。


 そういえば、事務的な話をする私たちの事を見ながら一緒に馬車に乗っているハルベルト殿下の従者の方がなんだか複雑そうな顔をなさっていたのですが、アンナが咳払いをした途端にいつもの顔に戻ったようでした。なんだったのかしら?あ、もうすぐ着きますね。














「セレーネぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ!!!」


 王城に到着し、陛下と謁見するための部屋へと案内されていた矢先でした。廊下の向こう側からものすごいスピードで走りながら私の名前を叫んでいる物体が視界の端にうつります。


「……あれは!」


 その正体は相変わらず目がチカチカするプラチナブロンドの髪を靡かせながら私に向かって突進してくるオスカー殿下でした。自室で謹慎していると聞きましたのに、なぜこんなところにいるのでしょう?


 なんにせよ、あれはだいぶヤバイですわね。オスカー殿下はたまに興奮状態になると猛獣であるシシイーノのように脇目もふらずに突進してきて手がつけられなくなるのです。いつもならルドルフが威嚇したりぱくっとひと口で捕まえてくれるのですが、ここは室内ですし今日はもしものためにと公爵家に留守番をさせているのでここにいないのですわ。


「こうなったら、この最新兵器で……!」


 私はその場に腰を落とし片膝を床につくと、ドレスのスカートの中に手を入れて中から小型のバズーカ砲を取り出します。先程の着替えの時にアンナが頑なに持たせてきたものですが、まさか王城内でこれを使用することになるとは思いませんでした。


 もちろん躊躇することなくオスカー殿下に向かってファイヤーいたしましたわ。ぽちっとな!


「どぅわっ?!」


 どかぁん!!と砲撃音が響きます。音は派手ですが、発射されたのは弾ではなく網ですのでご安心下さい。まぁ、もしも弾丸だったとしてもオスカー殿下なら大丈夫な気もしますが。何故かと言えば、オスカー殿下だからです。としか言えません。


 え、どうやってドレスの中にバズーカ砲を隠していたのかって?……それは内緒ですわ。乙女のドレスには秘め事がたくさんありますのよ?



「……カタストロフ公爵令嬢、それは?」


 針金が編み込まれた網に自由を奪われもがくオスカー殿下を横目でチラリと見ながらハルベルト殿下がバズーカ砲に視線を動かしました。興味津々の目の輝きがちょっぴり可愛らしいかもです。やっぱり男性はこうゆうのがお好きなのかしら?


「これは、私が経営する商会の最新作〈犯人捕まえる君〉ですわ。砲弾の代わりに簡単には切れない網を撃ち込みますの。対象者にぶつかると網が広がり相手を包み込んで動きを封じますのよ。小型にしたことで軽量化に成功しましたわ!」


 そう、これは私が個人的にやっている事業の商品なのです。私は非力な女性や子供でも扱えて尚且つ相手を傷付けずに捕らえたり自分の身を守ったり出来る防犯グッズを開発しては販売しているのですわ。


 他にも逃げる犯人を見失わないために洗っても落ちない色付きの液体をぶつけるための〈犯人に色つける君〉や、不審者に遭遇したら紐を引っ張るだけで大音量の音を鳴らしすぐさま衛兵に通報が行き相手を怯ませることのできる〈いつでも通報します君〉などもお手頃値段で人気商品ですのよ。これらのグッズのおかげかはわかりませんが、我が領地での犯罪率はかなり下がりました。ほとんどの子供が何かしらのグッズを携帯しているので誘拐でもしようものならすぐさま通報ですわ!


 まぁ、私の商会の商品と言っても実は発案者は私ではありません。ちょっとした縁があってとある方と知り合いまして、その方がとてもユニークなアイデアをたくさん持っている方でしたので共同経営者としてスカウトしたのです。この方がまた個性的な方でしてとてもたいへ……いえ、その話は今は置いておきましょう。


「実はまだ動かぬ的でしか試し撃ちしていなかったのですが、これなら実戦でも使えそうですわね。ですがあんまり暴れられると網が外れてしまうかしら?できれば捕獲ついでに気絶でもしてくだされば尚良いのですが……」


 あの網に触れるだけで効果のある毒でも仕込めないかしら?今度に相談いたしましょう。


 それにしてもオスカー殿下は元気にもがいていますわね。まともに顔にぶつかった狙ったんですからかなりの衝撃だったはずなのですが。いえ、逆にオスカー殿下でこれくらいのダメージならばちょうどいいのかしら? 


 これまでもたまにオスカー殿下でじっけ……ゲフンゲフン。ルドルフの真似をしたがった時のの時にたまにオスカー殿下にもご協力頂いてサンプルをとっていましたけど、あまりにオスカー殿下が頑丈過ぎてオスカー殿下に合わせると一般人には威力がありすぎて命の危険がありますのよね。私のポリシーはあくまでも生きたまま捕獲する事です。防犯のためとはいえもし相手の命を奪ってしまえば罪になってしまいますもの。やはりもう少し実験データーが必要かしら。


「とても画期的ですね。それなら最近発見された麻痺毒はいかがですか?確か触れるだけで肌から体内に吸収されて手足が動かなくなるものがありましたよ。それなら意識があっても指一本動かせなくなる上に適量であるならば命の危険はありません。後遺症についてはまだこれかららしいですが」


「まぁ、それは素晴らしい毒ですわね!後遺症についてもならなんとかしてくださるかも……ぜひ教えていただ「俺を無視するなーっ!」……そうでしたわ、今はオスカー殿下ですわね」


 私はバズーカ砲を後ろに控えていたアンナに手渡しオスカー殿下に向き直ります。


「それで、お部屋で謹慎しているはずのオスカー殿下がなぜ廊下を突進しておりますの?」


「そうだよ、オスカー。部屋の前には騎士を置いていたはずだが……。どうやって抜け出したんだい?」


 ハルベルト殿下は穏やかな口調でそう言いながら、まるでオスカー殿下の視線を遮るように私の前に立たれました。……こうして改めて見ると、ハルベルト殿下の背中って大きいですわ。背筋もピンと伸びていてなんだか凛々しく感じます。


「そんなの、窓から飛び降りて抜け出したに決まって……兄上?!なんでハルベルト兄上がセレーネと一緒にいるんだ!?」


 どうやら、今やっとハルベルト殿下の存在に気付いたみたいです。どこまで猪突猛進なのかしら。


「そんなことは今はいいだろう。お前は父上のお許しが出るまで謹慎しているように言われたはずだ。それを脱走など……」


「だって、セレーネかくるって聞いたから!聞いてくれセレーネ、誤解なんだ!俺は本当は婚約破棄なんかしたくないんだ!だから俺の話を聞いて欲しくて……!俺は、俺は……!」


 網の中でもがきながらオスカー殿下が必死な形相で訴えてきます。そのあまりに必死過ぎる姿に私はきつく両手を握りしめました。


「オスカー殿下……やっぱりそうでしたのね」



 こんなに必死になっている姿を見て、私の考えが正しかったのだと確信しました。やっぱりルドルフを手に入れるためだけに、ここまでおおごとにした婚約破棄宣言をまた撤回する気ですのね……!自分の立場が悪くなった途端に掌を返すなんて……でも、そうはさせませんわ!


「オスカー殿下、私からもお話がありますわ!」


これで全てを終わらせてみせます。私は自分のペットの安全を守ってみせますわ!


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