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第18話 わたしの存在価値①

※エルドラ国王女視点



「わたしは、フリージア・ヴァル・エルドラなのよ!エルドラ国の第三王女よ!?みんなに愛される存在なんだから……!」


 それなのに、なんでこんなことに……?!




 わたしの輝かしいはずたった未来はその日、ガラガラと音を立てて崩れてしまったのだ。






***







    わたしが産声を上げたその日、父であるエルドラ国王は「また女か」とため息をついたそうだ。わたしの上にはすでに兄がひとりと姉がふたりいたので父が望んていたのは兄のスペアとなる男児だったのにわたしがその期待を裏切ったからだ。


    喜ばれはしなかったものの、産まれてからしばらくは末っ子だとそれなりに可愛がられた。だが、それも数年で終わりを告げてしまった。


    若い側室が男の子を産んだのだ。


    王太子は兄だがスペアの王子は多いにこしたことはないと、その子はとてもとても可愛がられ父の愛を独り占めした。さらにその側室は2年後、男の子と女の子の双子を出産。この国では双子は縁起がいいからと父は心から喜んで第四王女のこともとても可愛がっていた。


    末っ子でもなくなり、男児スペアですらもなく、勉強もそこそこだったわたしは優秀なふたりの姉が目立つほどに父から存在を忘れられていく気がした。


    でも、10歳の誕生日の時にこう言われたのだ。



「お前は美しくなってきたな。もっと美しくなりなさい」と。



    わたしの見た目が美しいと誉められた。今から思えば、父に面と向かって誉められたのはその時が初めてだった気がして、それからわたしは美しいものが大好きになった。人でも物でも美しいものを側に置くと心が安らぐのだ。


    わたしが美しくなればなるほど父はわたしを誉めてくれる。欲しい物もなんでも与えてくれて優しい言葉もかけてくれた。お父様がわたしを見てくれるのが嬉しかった。


「美しいお前は愛されるべき高貴な存在だ。お前ほど美しければどんな国の王子ですらも必ずお前の虜になることだろう。なぜならお前にはその価値があるのだから」


    産まれた時こそ落胆されたが、今はこんなに父に愛されていると思うと幸せだった。お父様はわたしはとても美しくて、みんなに愛されるべき高貴な価値ある存在なのだと教えてくれたのだ。美しいわたしには美しい相手がふさわしいのだと。そう言われ続け成長したわたしはそれこそが真実なのだと思っていた。


 そしてお父様がこう言ったのだ。


「お前にふさわしい相手を見つけた」と。


 そうしてお父様が話を纏めたという相手と顔合わせをするためにラース国にやって来た。所謂政略結婚なのだろうが、ラース国はこの数年で発展途上国としてとても有名な国だ。これまで隣同士でありながらあまり交流がなかったがお父様はこれをきっかけにラース国の内情を手にしたいようだった。


 そしてわたしの結婚相手となるのはハルベルトと言う名前の第二王子らしい。優秀で将来有望らしいが、本当なら王太子の方が良かったのに、と思っていた。ラース国の王太子はとんでもなく美形らしいからだ。だがすでに婚約者がいるらしい。わたしの美しさなら略奪なんて簡単だと思うのだが、さすがにその相手が倭国の皇女となれば仕方がない。倭国は野蛮な国で敵に回すと厄介らしいからだ。それでも第二王子にはちょっと期待していた。顔は見たことないけど、王太子が美形ならその弟だってもちろん美形だろうと思ったから。



 だが、その期待は大きく裏切られた。第二王子は地味な髪色と、濁った瞳をした色白のそばかすだらけの男だったのだ。こんなの詐欺だと愕然とした。第二王子がなにか言っているがまったく頭に入ってこない。こんな酷いことってある?倭国の野蛮な皇女の婚約者はあんなに美しい男なのに、エルドラ国の王女であるわたしの相手はこんな地味王子だなんて!


 わたしが静かに怒りを感じていると、キラキラと輝く髪が視界の端にうつった。


「弟のオスカーです」


 そこには王太子にそっくりの第三王子が立っていた。わたしが慌てて挨拶をすると、オスカーはにっこりと微笑んでくれたのだ。


 王太子にそっくりな容姿なのに、雰囲気の違う可愛らしい笑顔。わたしはその瞬間にこの人に決めることにした。ラース国の王子と結婚すればいいんだから、どうせなら美しい相手がいいもの!



「オスカー様には婚約者はいらっしゃるの?」


 そばかす王子を無理矢理押し退け、オスカーに顔を近づける。わたしの美貌を間近で見ればすぐに魅了されてくれるかと思ったがオスカーは頬を染めることもなく平然としていた。どうやら女に慣れてるようだ。こんなに美形じゃ当然か。あぁ、やっぱり婚約者がいるのね。がっかりしたがその相手がこの国の公爵令嬢だとわかってわたしは勝てると思ったのだ。だって、公爵令嬢なんでしょ?だったら王女であるわたしの方が地位もあるし、きっとオスカーなら美しいわたしの価値をわかってくれるはずだ。


「こんな第二王子ブサイクとの婚約なんて嫌だわ!わたしはオスカー様と結婚したいのよ!」


 わたしはそばかす王子を指差し、散々その見た目を貶してやった。わたしに一目惚れでもされてオスカーとの間を邪魔されてはたまらないからその見た目では決してわたしは手に入らないのだとわからせてやらなくてはいけないもの。それにこの国はエルドラ国と友好関係を築きたくて婚約を申し込んだはずなんだから、わたしにふさわしい相手を差し出すべきなのだ!


 国王は困った顔をし、王妃は眉根にシワを寄せていたが構うもんですか。エルドラ国からついてきた使者たちも顔色を悪くしているけどこいつらはわたしには逆らえないから問題ない。だってお父様がわたしは美しいからなんても許されると言っていたんだから!


 こうしてわたしは第二王子との婚約を無事に破談にしてやったのだ。あのそばかす王子は特に何も言ってこなかったがきっと内心は悔しがっているだろう。でもそれは、美しくない自分が悪いんだから諦めてもらうしかない。


 すぐにでもオスカーの婚約者になりたかったが、公爵令嬢が邪魔だった。そんな女なんて王命ですぐ婚約破棄にしてくれって言ったのに国王は首を縦に振らないなんて失礼なんだろう。こうなったらわたしの実力で奪い取ってやるしかない。たからわたしは国王にそれなら留学を認めろと詰め寄り無理矢理オスカーの通う学園に転入した。


 気が付くとオスカーはいつの間にか部屋からいなくなっていた。せっかくわたしが婚約者になってあげようとしてるのに、どこへ行ったのかしら?


 学園でオスカーを探したらすぐ見つかったが、なんてことだろう。オスカーは婚約者とは違う女をすでに侍らせていたのだ。スタイルは確かにいいみたいだけど、所詮男爵令嬢でしょ?わたしの敵じゃないわね。それに酷い香水の匂いだわ、こんな女とべったりくっついて歩けるなんて嗅覚がおかしいのだろうか。オスカーって女の趣味が悪いのかしら?まぁいいわ。すぐに矯正してあげるから。どのみち男爵令嬢風情ならせいぜい愛人止まりだろう。ならば、まずは公爵令嬢を泣かせてやろうと思った。わたしの美しさを知ったら、きっとすぐに負けを認めて自分から婚約者の座を明け渡してくるはずだもの。


 オスカーに改めて自己紹介すると、オスカーは照れ隠しなのか「はじめまして」と言ってきた。


 あぁ、そうか。オスカーはあの場からいつの間にかいなくなってたからわたしが第二王子との婚約をやめたのを知らないんだわ。さすがに兄の婚約者を横恋慕するなんて堂々とできないものね。だから「婚約は破談になったので安心していいのよ」「もうお兄様に遠慮する必要はないのですわ。自分に素直になって」と誤解を解いてあげた。


 しかしなぜかオスカーはいつも曖昧な返事ばかりする。いつもならこんなに自分から積極的にいかなくても周りがちやほやしてくれるので少し恥ずかしかったのに!と憤りも感じたが、もしかして嬉しくて戸惑っているのかしら?と考え直した。女慣れしてるかと思えばウブな一面もあってさらに気に入ったわ。男爵令嬢が邪魔だったけどこれも恋のスパイスよね。


 とりあえず男爵令嬢とは暗黙の了解で協定を結んだ。まずはオスカーの婚約者の座に居座っているあの公爵令嬢をどうにかするのが先だったからだ。だから男爵令嬢とは交代で公爵令嬢をいじめてやったのだ。隣国からやって来た王女に嫌がらせをする公爵令嬢なんて噂が飛び交えば、オスカーもあの女にすぐに愛想をつかすだろう。


 いつも平然としているあの公爵令嬢はほんとうにムカつく。オスカーにどんな女なのかを聞いてみたらとんでもない女だとわかった。虫が寄ってきそうな髪に、不気味な色の瞳をした生意気な公爵令嬢。なんでも珍獣をペットにしているらしいが、犬を使ってオスカーの気を引こうなんてとんだ策士である。




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